―クラウドファンディングで研究の土台を整備して、科研費で本格的に研究を展開させていくというのは、すばらしい流れだと思います。今のところ、何らかのデータは得られているのでしょうか。

榎戸: 昨年度は金沢大学と金沢大学附属高校の2カ所に合計3台設置して、観測を行いました。昨年の冬は暖冬だったために雷雲があまり発生せず、厳しいかなと思っていましたが、今年の2月に雷雲が金沢市内を通過した日があり、このときに、雷雲からガンマ線が1分間でだいたい90個くらいきているらしいという現象をとらえることができました。

―やはり、雷雲からはガンマ線が放出されていた、ということなんですね。ガンマ線がやってきている様子をとらえたデータの解析は、自動でできるものなのですか。

和田: 雷雲プロジェクトでは、「オープンサイエンス」の試みもやってみようということで、Webサイトで観測データを一般公開しています。ガンマ線が観測されたかどうかは、基本的にコンピュータでスキャンをかけて解析するのですが、スキャンにひっかからない場合もあります。そこで、取りこぼしがないかどうかをこのWebサイトで一般市民の方にチェックしていただきたいのです。

データ解析に参加するというと難しそうな印象を受けるかと思いますが、ガンマ線のカウント数の時系列データに変動があるかないかということと、そのときのWebカメラに何が写っているかということを、3~4クリックで回答するような簡単な仕組みになっています。

雷雲プロジェクトのWebサイトでは一般市民もデータ解析に参加できる

―なるほど。市民参加型のサイエンスという意味でも、雷雨プロジェクトはおもしろい取り組みです。金沢市内以外にも、装置を設置した場所はありますか。

和田: 東京大学の乗鞍観測所との共同研究という形で、今年の7月~9月に乗鞍岳の標高2770mくらいのところに装置を設置し、ほかにも高山観測を進めています。

乗鞍岳 宇宙線観測所に装置を設置したときの様子

―そんな大変なところにも設置されたのですか! 標高が高いところに装置を設置するのはどういう理由があるのですか。

榎戸: 標高が高いところに置くということは、雲の中に入るということなんですよね。日本海側の冬の雷雲が観測に向いているのは、雲の一番底が地表に近くなるからなんです。地表に近くなると、雷雲の中で生じたガンマ線が、大気に吸収されず地上まで届くというわけです。さらに雷雲の中に入ると、より多くのガンマ線や、加速された電子そのものを捉えることができるはずです。

雷の研究は米国フロリダ州でも盛んですが、雲が高いところにあるために、ガンマ線の観測には飛行機やロケットなどを使用する必要があります。冬の日本海側の地域や、日本の山の上は、待ち構えていればガンマ線を捕捉できるというのがメリットです。

―今後はどういったところに設置される予定ですか。

和田: 金沢市は平野部がものすごく広いので、雷雲がどのように発達してどのように衰退していくかという全体像がとれればいいなと思っています。なので、金沢市内の20カ所くらいに点々と置いていきたいですね。

―それだけ設置できれば、あとは雷雲からのガンマ線を待つだけですね。

榎戸: そうですね。現在、観測装置を置いてくださる学校や個人宅なども募集しています。身近なところにある隠れた謎を、研究者、教育に興味のある高校、あるいは興味のある一般の方が一体となって、「科学研究を楽しむ」ことができたらと思っています。

和田: 雷の観測に向いている時期は、12月~1月くらいといわれています。金沢には「ブリ起こし」という現地の季語があって、ブリ起こしの雷が鳴ると、ブリに脂が乗っておいしくなるという言い伝えがあるそうです。私たちが思っている以上に、北陸の人たちにとっては雷が文化として根付いているので、そういうところで好奇心を持っていただき、科学を楽しんでもらえればと思っています。

―雷雲プロジェクトは今後、どのような展開が考えられますか。

榎戸: まずは、ガンマ線を放出している領域が、どれくらいの大きさで広がっていて、それがどういう風に動いていくかをみたいです。あわよくば、電子の反物質である陽電子が入っているかどうかも調べてみたい。宇宙空間では陽電子のシャワーが観測されているのですが、問題はそれが地上付近で起きているかどうか。それが起きるとしたら、金沢市上空が一番良い条件となるはずです。

また、気象学が専門の研究者とのコラボレーションも進めているところです。彼らと一緒にシミュレーションを行い、それが観測結果と一致するかどうか確かめようと思っています。この装置をさらに小型化して、大量にばらまいたり、小型衛星につなげたりしていくのも夢ですね。

―いろいろな方面で研究が発展していきそうですね。今後の成果を楽しみにしています。ありがとうございました。

※編集部注: 設置場所に関する記載を一部修正しました(2016/11/22)