アクティブ・ラーニングが求められる背景

2014年11月、下村文科相(当時)から中央教育審議会への諮問1)において「課題の発見と解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習(いわゆる「アクティブ・ラーニング」)や、そのための指導の方法などを充実させていく必要があります」と記されたことなどをきっかけに、アクティブ・ラーニングは教育業界において、にわかにホットトピックになりはじめた。次期学習指導要領改訂の基本方針2)でも謳われているアクティブ・ラーニングとは、これまでの教員による一方向的な講義形式の教育とは異なり、生徒の能動的な参加を取り入れた教授・学習法の総称である。アクティブ・ラーニング形式の授業は、教員が授業を工夫する過程において、すでに部分的に実践されているケースも見られる。

こうした中、アクティブ・ラーニングが次期学習指導要領の目玉の1つとして取り上げられている背景として、グローバル化とデジタル化の進展への対応が急務であることが考えられる。グローバル化とデジタル化(とりわけ人工知能の発展)が進むと、教育においてこれまで重視されてきた「知識の集積」に頼るだけでは、日本は他国に太刀打ちできなくなることが容易に予想される。時代の変化が飛躍的に加速する中で、「単なる知識」は陳腐化するスピードが速くなっていくと考えられる。

では、そのような変化の荒波を生き抜く人材に求められる要件とは何だろうか。それは、「自ら目的・課題を考え」「多様な人と共働しながら」「新たな価値を創造できる」ことであろう。これはロボット(人工知能)にはできないことの本質だ。このような環境変化の中で、学校での教育内容・指導方法もスピーディな変革が求められている。

本稿では、筆者が現在連載している「次世代アグリビジネス - 人材育成の観点から考える2030年の農林水産業」の番外編として、後述する「第1回アクティブ・ラーニング実践シンポジウム」のレポートを通じ、アクティブ・ラーニングの可能性と課題について考えていきたい。

第1回アクティブ・ラーニング実践シンポジウムが開催

去る2016年6月25日に、高大接続システム改革の大学教育改革や高校教育改革とつなげ、福島県に必要な「新しい教育」を生み出すネットワークを形成する目的で、福島大学主催による「第1回アクティブ・ラーニング実践シンポジウム」が開催された。福島県内では「OECD東北スクール」「地方創生イノベーションスクール2030」などに代表される、アクティブ・ラーニングの先駆けとなる取り組みが複数推進されている。

このような先進的な取り組みが福島県内において盛んであることは、東日本大震災による被災、ならびに福島第一原子力発電所の事故と無関係ではない。とりわけ、原発被災地域の子供たちは、将来にわたって「地場産業の復興」「避難で分断されたコミュニティの再構築」など、"わかりやすい答え"の無い課題に取り組むことを余儀なくされている。次世代の発展を担う学生たちがこのような課題に果敢に挑んでいく、そして乗り越えていく力を身に付けることをめざし、アクティブ・ラーニングを取り入れた人材育成がいま福島県内で注目されている3)

気合と根性では生き抜けない未来

シンポジウムではまず、読売新聞東京本社編集委員の服部真氏より、「未来を生き抜くためのスキル」と題した基調講演が行われた。さまざまな事例や予測を引用しながら、どのような未来を前提とすればよいのか、人工知能と人間の役割を、どうすみ分ければよいのかなどについてわかりやすい解説がなされた。

基調講演の様子

なかでも、国立情報学研究所のプロジェクトにおいて研究・開発が進められる人工知能「東ロボくん」が2016年6月に実際の「進研模試 総合学力マーク模試」で上位2割の成績を修めた事例や4)、国立研究開発法人情報通信研究機構が開発したスマートフォン用の多言語音声翻訳アプリ「Voice Tra(ボイストラ)」による、英語・中国語・韓国語をはじめとする複数言語から日本語への旅行会話の翻訳率(意味が分かる文に翻訳された割合)が80%を超えているという事例5)は、生活の多くの部分が人工知能にとってかわられる時代がすぐそこまできているという衝撃的な事実であった。「今後10~20年で、半数近くの仕事が自動化される6)」世界がいよいよ現実味を帯びて迫ってきたと言える。

講演の終盤、「気合と根性では生き抜けない未来」という印象的な言葉が飛び出した。人工知能は大量の計算を素早くこなすことが得意である。すなわち「気合と根性」の部分について、人間は人工知能に負けるのだからそこは任せてしまえばよいのだ。「人工知能が10テラを読んで1を知るのに対して、人間は1を聞いて10を知る、そして自ら目的を考え出す。それこそが人間ならではの力なのだから、人間が人間たる強みを最大限に生かして(育成して)、未来を生き抜かねばならない」と、服部氏は講演を締めくくった。服部氏の言う「人間ならではの力」を育てることこそ、アクティブ・ラーニングを導入する真の意義ではないだろうか。