米国で自動運転トラックが荷物の配達を行った。米ウーバー(Uber)傘下のオットー(Otto)が成功させたもので、世界初の事例になるという。トラックドライバーの人手不足が深刻化する見通しの日本では、日野自動車といすゞ自動車が自動走行・高度運転支援に向けたITS技術で共同開発を進めているが、先行する米国の取り組みをどのように受け止めているのだろうか。
自動運転トラックが120マイルを走破
オットーは米ビール大手アンハイザー・ブッシュ・インベブ(ABインベブ)の協力のもと、約5万缶のバドワイザーを自動運転トラックで運んだ。コロラド州の全面協力を受けて、トラックは同州フォート・コリンズからコロラドスプリングスまでの120マイル(約190キロメートル)を走破した。
自動運転トラックの映像を見ると、ドライバーは高速道路に入るまではハンドルを握っていたようだが、高速道路の走行時は基本的に運転席ではなく、後部座席にいてシステムを監視しつつ、体を休めていたようだった。オットーの説明によると、同社のシステムを使えば、トラックドライバーは長距離にわたる高速道路の走行時、トラックが“金を稼いでいる(make money)”一方で、自らは休憩する機会が得られるという。
自動運転で協力する日野といすゞ
「将来のドライバー不足、(トラック輸送の)安全を含め、研究は確実にすすめていく」。2016年度中間決算の説明会に登壇した日野自動車の市橋保彦社長は、オットーが自動運転トラックによる配送に成功したというニュースについての感想を求められ、このように回答した。オットーの取り組みが高速道路の限定された区間で実施されたことに触れつつ、「(日本で実施する場合は)インフラも含め、環境が整う必要がある」と指摘。インフラ整備には政府の方針も絡むため、「しっかりやるためには、時間を掛ける必要がある」との考えを示した。
市橋社長の発言にもある通り、日本ではトラックドライバーの人手不足が課題になりつつある。自動運転はドライバー不足の解決策になりうるし、ドライバーの業務環境改善やトラック輸送の安全性向上にもつながる可能性がある技術だ。
日野自動車も同技術の可能性には期待するところがあるようで、2016年5月には「自動走行・高度運転支援に向けたITS技術」の共同開発でいすゞ自動車と合意している。トラックの販売ではライバル関係にある両社だが、市橋社長は「競争するところと協調するところ(を明確にしつつ)、一緒にやった方がメリットがある分野については一緒にやろうというのが基本スタンス」と同社の姿勢を説明した。
日本勢は米国に追いつけるか?
日本で実際に自動運転トラックを走らせる場合、「問題は他の自動車が入ったときにどうするかなど、安全をどう担保するか。ここのハードルは結構高い」と市橋社長は語っていた。安全性の担保が最重要事項なのは十分に理解できる。しかし米国では、特定の区間であったとしても、実際に自動運転トラックがモノを運んだという実績ができた。実績の有無だけで考えるのは早計かもしれないが、日本勢は米国勢に自動運転トラックの分野で先を越されているようにも見える。
米国でならば、日野自動車も自動運転トラックを走らせることが可能なのか。市橋社長に聞いてみると、「ああいう状況が整えば(インフラが整えば)、やりやすいかなとは思う。技術的にはかなりのところはできている」との回答だった。今は技術を「手の内のものにする」(市橋社長)フェーズというのが同氏の見方だ。これらの言葉から考えると、今は米国勢にリードを許したかに見える自動運転トラックの分野でも、環境さえ整えば、日本勢による巻き返しは十分に可能なのかもしれない。