新しい働き方として副業や社内兼業を制度化

ロート製薬は今年2月、新たなコーポレートスローガンとして「NEVER SAY NEVER」を発表した。これは先を見据えて困難にも当たる覚悟を持つという宣言であり、目指すものは健康寿命への挑戦だという。

「NEVER SAY NEVER」の定義である「世の中を健康にするために自分の進むべき道を見据えどんな困難にもめげず常識の枠を超えてチャレンジし続けること」を実現するための取り組みに、「社外チャレンジワーク」と「社内ダブルジョブ」がある。「社外チャレンジワーク」とは副業・兼業のことだ。

大手企業が副業許可を認めるのは珍しい試みだが、「兼業解禁によるさまざまなリスクを過度に恐れるよりも、1つの仕事、1つの会社の枠にしばることで失われるものやリスクこそ懸念したほうがよいと判断しました」と語るのは、ロート製薬 広報・CSV推進部 副部長の矢倉芳夫氏だ。当時、人事部門で副業の制度化に立ち会った人物でもある。

ロート製薬 広報・CSV推進部 副部長 矢倉芳夫氏

副業の制度化は、「人事制度改革プロジェクト」に応募した30人程度のメンバーから出てきた案から採用されたもの。採用された「社外チャレンジワーク」と「社内ダブルジョブ」のほかには、若手を中心に盛り立てる取り組み、在宅勤務の強化の案もあったという。

「在宅勤務など、先例が多く見られる取り組みに追随するよりは、ロート製薬は『世の中の常識、思い込みを否定する』ということを大切にしていますので、当たり前の取り組みではない、枠を越えるという意味で、副業と社内で複数の部門に所属するという働き方を認めることにしました」と矢倉氏。

「社内チャレンジワーク」制度は2月に制定後、3月上旬まで応募を受け付けた結果、60名強の立候補があったという。入社3年目以上で本業に支障を来さないことが応募条件だ。届け出があった副業は、ライター、ドラッグストア勤務、地ビール製造、NPOなどさまざまで、男女や年齢層による偏りはなかったという。

副業で得た学びを本業へ生かしてほしい

「本業に支障を来さない」という言い方は、一般的に副業を禁止する時によく使われる。通常の勤務時間外の早朝や深夜、休日などを副業に当てることで、本業がままならなくなることを意味する。しかし、ロート製薬ではこうした考え方で「支障を来す」かどうかを判断していない。

「もちろん、疲れがたまっていないか、健康状態は大丈夫かということを気配りすることは必要ですが、それは『兼業する人=心配』『兼業しない人=ケア不要』という単純なことではなく、兼業するしないにかかわらず、大事な要件です。充実した休日による疲れを過度に気にするのであれば、兼業に限らずいろんなことを禁じなければいけませんが、それが本末転倒であるのは自明のこと。であれば、体調管理に関心を持ちながらも、自分のやりたいことを自分の時間を使ってやってみることを許容するのが自然の流れです」と、矢倉氏は言う。

そのため、副業に関しても夜間に行うから認められないといった判断はなく、「公序良俗に反するもの」「自社の社員として名前が出ると困るもの」「同業他社での仕事」だけが問題とされる。

「いつから何をやる、どの程度の時間をやるという届けだけを出してもらい、上司と三者面談をします。その時、土曜日は副業に当てるから休日出勤をさせないようにといったな配慮は求めます」と矢倉氏が語るように、内容の審査は基本的に行われないようだ。

ロート製薬としては、副業の許可によって小遣い稼ぎをさせたいわけではない。得てほしいのは、経験だ。社外の人と触れ合うことで、業務では得られない別な学びを得ることができ、本人の成長につながるはずというわけだ。そして、それがいずれは本業へリターンすることを狙っている。これを、矢倉氏は「稼ぎ方ではなく、学び方・働き方の多様化」と表現する。

製薬会社であるロート製薬の社員がドラッグストアで働けば、当然、エンドユーザーの要望や小売店の実情に触れることになる。本業とは関係ない副業をする場合も、新たな学びが得られるだろう。こうした学びを1~2年という短いスパンではなく、5年10年後に生かしてくれればよいという、長い目で見る考えだという。