インターネットの検索エンジンを使うことで、膨大な情報を得ることができる。しかし、実際には検索エンジンではみつけられないWebサイトが多数存在する。そのようなWebサイトはディープWebなどと呼ばれる。

われわれが一般的に入手可能な検索範囲とは?

図1Webの世界

GoogleやBingなど検索エンジンを使えば、多くの情報が得られることは常識ともいえる。しかし、インターネットには、これらの検索エンジンでは、検索できないWebサイトも存在するのだ。ほとんどの検索エンジンでは、クローラーを使い自動的にWeb上の文書や画像を収集している。しかし、検索エンジンがインターネット上のすべてのサーバーの情報を表示しているわけではない。このクローラーに情報収集をさせない仕組みの1つが、noindexメタタグである。

セクションに、noindexメタタグを挿入すると、検索結果には表示されなくなる。このようなWebサイトのことを、ディープ(Deep)Web、深層Web、インビジブルWebなどと呼ぶ。巨大なデータベースや有料コンテンツなども含まれ、学術論文やアーカイブなども存在する。ディープWebに対し、私たちが普段目にする検索可能なWebサイトのことを、サーフェイス(表層)Webと呼ぶ。

そして、注目したいのは、サーフェイスWebは、インターネット全体の1%にすぎないという報告である。

つまり、インターネットの情報のほとんどは、一般的な手法では検索できないということになる。最近では、上述したデータベースや学術論文アーカイブも検索可能にしようといった試みもあるが、実用的なレベルまでには至っていないようだ。

ディープWebの中には、さらにダークWebという、まさに闇の部分が存在する(図1)。具体的な例を紹介しよう。Silk Roadは、違法な薬物を売買するWebサイトである。2013年10月にFBIにより、主催者が逮捕され、Webサイトも閉鎖された(その後、同じようなWebサイトが復活したが)。捜査機関も、その存在を知るや速やかな対応しているが、完全に追い付いてはいない。

図2 Silk Road(シルクロード)

セキュリティベンダーも調査対象に

セキュリティベンダーでも、その反社会性や危険性から、調査対象としている。トレンドマイクロでは、ディープWebやアンダーグラウンド市場についてのリサーチペーパーを公開している(図3)。

図3 ディープWebなどのリサーチペーパー

興味深いことに、日本国内のアンダーグラウンド市場の分析も行われていた(図4)。

図4 日本のユニークなサイバー犯罪経済

一般的に、ダークWebなどの取引ではビットコインなどの仮想通貨が使われる。上述のリサーチによれば、日本国内では、プレイステーションストアの通貨、アマゾンギフトカードなどが取引に使われている。取引されるのは、医薬品、児童ポルノ、攻撃力の高い武器などとのことである。そして、違法行為を隠すためにディープWebの使用は増加傾向にあるとのことである。

上述したように、ディープWebのすべてが危険ということはない。しかし、ダークWebの多くは、利用の仕方によっては、法律違反や危険行為となる可能性がある。検索結果の表示されることはないので、一般のユーザーがディープWebやダークWebに直接、辿り着くことは可能性としては少ない。しかし、特定の情報について、深く調査を行っていく過程で、リンクを経由して辿り着くこともありうる。この点については、注意が必要であろう。

また、図1にもあるが、トーアネットワークのように、Torを使うことでアクセス可能なダークWebもある。国内でも、PC遠隔操作事件で使われたツールである。接続経路を匿名化することで、身元を隠ぺいする。このようなツールを使うことが前提となったネットワークである。いかに身元を知られることが危険かを逆説的に証明しているといえるだろう。

ヨーロッパのテロ事件でもダークWebを悪用

フランスやドイツで発生していたテロ事件については、多くの報道がされており、ご存じの方も多いはずだ。その捜査で浮上したのが、武器の入手経路として、ディープWebやダークWebである。トレンドマイクロのセキュリティブログによれば、ディープWebにある市場のWebサイトを見つけてアクセスすることは、心得ている者にとってそれほど難しくはないと指摘する。ここで武器の購入し、犯行に及んだのである。

そして、もう1点興味深いことを指摘する。ここまで武器の入手経路が判明しているのに、捜査機関はなぜ調査・監視を行わないのかという点である。ブログによれば、捜査機関の資金と人員不足を理由としてあげている(これが、捜査が追い付いていない理由の1つだ)。将来的には、解決されるかもしれないが、当面はセキュリティベンダーとの協力が欠かせない。トレンドマイクロでは、上述したリサーチ結果などで、協力を行うことを明言している。

繰り返すが、一般ユーザーがディープWebに関わる可能性は低い。しかし、テロ事件の被害者となる可能性は残る。そのリスクと原因について、理解はしておくべきといえるだろう。