韓国LG Displayは約2兆ウォン(約1800億円)を投じてスマートフォン向け中小型有機EL(AMOLED)パネルの生産ライン(P9-E6)を同社坡州(Paju)工場に新たに設置すると7月末に発表した。2018年央に本格稼働の予定のこの新ラインは、第6世代と呼ばれる1500mm×1850mmサイズの基板を用いて月産1万5000枚のパネル生産を計画している。また、基板には従来のガラスではなく折り曲げ可能なプラスティックを用いるという。
同社は、もともと液晶パネル製造の本拠地だった亀尾(Kumi)工場にも、2017年前半の稼働を目指して中小型有機EL専用ラインを増設する計画を掲げ、現在、装置搬入の準備を進めている段階にあり、今回の新ラインと合わせて月産3万枚の規模となる。なお、坡州工場には, 今後のフレキシブル有機ELパネルの需要増加に応じて、P9-E6ラインの第2期および第3期として、各生産能力1万5000枚クラスのフレキシブル有機EL生産ラインを増設する中期計画もあるというが、まだ具体化はしていない。
折り曲げディスプレイ開発はiPhone対応か
同社は、スマートフォン向けに(三面鏡のように)内側や外側に折り曲げたり、ロール状に丸められるディスプレイの実用化開発を進めている模様で、6月にカナダIGNIS Innovationと有機EL回路技術に関する特許ライセンス契約を結んでいる。Samsung Displayも、折り畳み式ディスプレイの開発を進めている模様だが、未だ公表していない。AppleがiPhoneに有機ELを2018年秋から搭載するとの噂があり、韓国2大ディスプレイメーカーのこうした動きは、これに対応したものと受け止められているが、両社ともAppleとの秘密保持契約により(製造受託しているかどうかも含めて)一切公表しておらず、今後も明らかにされないだろう。
中国勢の液晶パネル供給過剰で営業利益が大幅減
なおLG Displayは、7月末に2016年4~6月期の営業利益(連結基準)が443億9100万ウォン(約41億4330万円)と、前年同期(4481億ウォン)に比べ90%減となる大幅な減益となったことを暫定的な速報値であるが発表している。この結果、最終損益は赤字に転落した模様で、中国パネルメーカーによる液晶パネルの供給過剰による価格下落の影響を受け、1~3月期に同94.7%減となったのに続き、大幅な減益となった。こうしたことも液晶パネルビジネスから早急に脱却して、有機ELへと転進を図る後押しとなっているようで、亀尾工場内の古い液晶パネル生産ラインを次々とシャットダウンする一方で、亀尾および坡州での新たな有機EL生産ライン増設を急いでいる。
有機EL市場の独占維持に必死となるSamsung
2016年第1四半期時点の有機EL市場シェアは、先行するSamsung Displayが97.7%と事実上世界市場を独占している。LGは0.9%で2位となっており、なんとかSamsungの牙城の一部だけでも崩そうと必死の様相だ。ちなみに、3位は台湾AU Optronicsであり、かつて有機EL小型テレビや携帯電話の商品化で先行したソニーをはじめとする日本勢の姿がないのは残念だ。
なお、7月28日にSamsung Displayの親会社であるSamsung Electronicsが発表した2016年第2四半期(4-6月期)の業績発表によると、ディスプレイ部門の営業利益は前四半期は赤字だったが、1400億ウォン(約127億円)とわずかながら黒字に好転した。同社も、中国勢によるなりふりかまわぬ液晶パネルの増産による価格低下から逃れるため、液晶パネルのラインを次々とシャットダウンすると同時に有機ELの生産ラインを増設中で、事実上の独占状態をなんとか長引かせようと有機ELに対して投資を集中させている。