ドイツのフランクフルトで開催されたISC 2016において、第47回のTOP500リストが発表された。そして、上位システムの表彰に続いて、例年のように主催者の1人であるEric Strohmaier氏のTOP500ハイライトの説明が行われた。

今回のハイライトは、何といっても、中国の「TaihuLight(太湖之光)システム」である。ピーク演算性能が125.4PFlopsという規模で、これは前回トップであった天河2号の54.9PFlopsの約2.3倍の規模である。この巨大ハードウェアで、93PFlopsというLINPACK性能を叩き出している。これは天河2号の33.86PFlopsの2.75倍である。また、天河2号はIntelのXeon CPUとXeon Phiアクセラレータを使っていたが、太湖之光の「神威(Sunway)プロセサ」は中国製である。

010の形に配置されているTaihuLightスパコン(モックアップ) (出典:Dongarraレポート)

そして太湖之光は、LINPACK性能が高いだけのスタントマシンではない。消費電力は15.37MWであり、性能/電力は6.051GFlops/Wとなる。これは天河2号の3倍以上の高い性能/電力であり、今回のGreen500でも理化学研究所の菖蒲と皐月に次ぐ3位となっている。

また、HPCGベンチマークでは天河2号、京コンピュータに次ぐ3位、Graph500では京コンピュータに次ぐ2位とTOP500以外のベンチマークのランキングでも高い性能を発揮している。

さらに、革新的な科学技術計算を行なった論文に与えられるGordon Bell賞の候補論文に5つの論文を応募し、3件が候補論文に採択されたという。今年の候補論文は6件で、筆者の記憶では、3件が同じシステムを使った計算の論文というのは過去にも例が無いのではないかと思う。太湖之光システムのデビューは、まさに、鮮烈で快挙というほかはない。

太湖之光が1位に入った他は、新しいシステムのTop10入りはなく、従来のTop10がそれぞれ、1つずつ順位が下がるということになっている。これにより、我が国の京コンピュータは5位になっている。

第47回TOP500の上位10システム (この記事のすべての図は、Eric Strohmaier氏のプレゼンテーションスライドをコピーしたものである)

次のグラフは、毎回おなじみの1位と500位のシステムの性能と、全500システム合計の性能をプロットしたもので、ここ3年は天河2号の1位が続いて1位のラインがフラットになっていたが、太湖之光システムの登場で、また、上向きのラインとなった。また、500位と全500システムの性能合計のラインも中国の大量登録で、伸びの鈍化が、多少、持ち直してきた感じである。

全500システム合計、1位と500位のシステムの性能の年次推移

次の図は、TOP500に何システムの新顔が入ったかの年次推移を示すグラフである。一時、100システムを下回っていたが、今回と前回は新顔が増えている。これは、主に中国が大量の新顔システムを登録したことが効いている。

TOP500リストの新顔システム数の年次推移

結果として、国別のTOP500システム数は、次の図のようになっている。中国が168システム、米国が165システムで、初めて、中国が米国を逆転した。なお、日本は29システムである。

国別のTOP500システム数。中国が1位となり、米国は2位に後退。日本は離れた3位

そして、太湖之光と天河2号の2システムで、TOP500全体のLINPACK Flopsの20%強を占め、トータルのFlopsでも中国が米国を抜いた。これは、中国にとって歴史的な快挙である。

国別のTOP500システムの総Flops性能の年次推移。中国が急速にFlops値を伸ばし、米国を抜いた

これだけを見ると、中国が最近になって大量のスーパーコンピュータ(スパコン)を設置していると思うかも知れないが、そう考えるのは、少し早計である。これは筆者の分析であるが、TOP500にランクインした中国の168システムの内、90システムあまりがInternet Service Providerなどで使われている。また、設置場所としてスパコンセンターや大学、研究所などの固有名詞が書かれているのは35システム程度に止まっている。

ということは、新たなスパコンが大量に設置されたわけではなく、サービスプロバイダや地方政府などが日常業務に使っているシステムを使ってLINPACK性能を測り、登録したという可能性が高いと思われる。筆者は、このような登録可能な既存のシステムは前回のTOP500で出尽くしてしまい、今回は、新顔システムは少なくなるのではないかと思っていたが、それは読み違いで、今回はさらに大量のシステムが登録されるということになり、米中のシステム数の逆転になってしまった。

なお、米国の165システムの中にもAmazonのAWSのようなサービスプロバイダやホスティングサービス会社のものが含まれているが、それは25システム程度で中国の登録に比べると数が少ない。

日本のTOP500システムは29システムで、その内の2つが匿名の私企業のシステムであるが、残りの27システムは、理研などの固有名詞の設置場所が書かれている。

6月22日の基調講演で、Thomas Sterling教授が指摘しているが、TOP500は、システムの存在を見せようと意図したものだけが載っており、GoogleやMicrosoftなどのシステムはクラウドに隠れているし、私企業や国防などのシステムは、その存在を隠すためにTOP500には登録されないものも多い。また、量子コンピュータのD-Waveや分子動力学専用のAnton、建設中のSKA電波望遠鏡のシステムなどは、高い計算能力を持っているが、HPLを実行できないのでTOP500には入りようがない。ということで、TOP500のシステムはすべてのスパコンをカバーしているわけではなく、バイアスの掛かったサンプリングになっている。