道路工事用の保安資材を扱うセフテックは、カラーコーンや保安灯、フェンスなどを取り扱っている。その中でも主力としている製品が、LEDを使った情報表示板だ。通信を活用したLED情報表示板とそのメリットについて、セフテック シレド事業部 部長 鈴木 道弘氏に話を聞いた。

セフテック シレド事業部 部長 鈴木 道弘氏(右)とKDDI ソリューション事業本部 ビジネスIoT推進本部 ビジネスIoT営業部 営業2G 石原 佳世子氏(左)

SiLED

セフテックはもともと、一般道路向けの工事用保安資材を取り扱っていたが、小泉純一郎首相(当時)の頃に公共事業が減少したことを受け、10数年前より高速道路向けにチャネルを拡大した。当時は、LED表示板は仮設タイプ(道路脇に置く中・小型)が高速道路で使われ始めた時期。しかし、機器に表示する文章の変更には、職員が近くへ赴き、リモコンを使用することが一般的な使い方だった。

あまり意識されていないかもしれないが、高速道路の管理は気象の変化に対応しなければならない。特に冬季は、凍結や降雪といった事故に直結する事象が多く発生するという。そこで必要になるのが、場所に合わせたタイムリーな注意喚起を行える仮設LED情報板というわけだ。

ただ前述の通り、以前はリモコン操作が一般的だったことから「管理事務所から遠隔で制御できないか?」という要望がセフテックへ届いた。当時、すでに携帯網が全国に張り巡らされていたため、これを活用しようと考えた同社は、KDDIなどの大手キャリア3社へ相談した。

これに対して、KDDIがサーバ環境を含めた総合的な提案をしてきたことから、セフテックはKDDI網を採用し、「SiLED」システムへと繋がった。

カメラの撮影データを3Gで送信 でも、撮影画像は「LED表示の内容」

SiLEDは、LED情報表示板をインターネットに接続できるようにした「今で言うIoT機器」(シレド事業部部長鈴木道弘氏)であり、これによって遠隔からの制御が可能になった。

具体的には、LED表示板に通信ボックスを装着し、KDDIの閉域網を経由してネット上のWebサーバからLEDを制御する仕組みを構築。当時主流だった1対1のシリアルなシステムではなく、KDDIの提案に従い、1つのIPで複数機器を制御する設計にしたことで、「その後の発展的な使い方に繋がった」と鈴木氏は指摘する。

SiLEDシステム概要

初期のSiLEDにはカメラとミラーが設置されていた。ミラーは、遠隔で表示を変更した際に「正しく変更されたか」を確認するために用意されたもので、表示をミラーで反射させ、それをカメラで撮影して確認するという限定的な用途のために使われていた。発注元である日本道路公団(当時)の要望で設置したというが、その後「変更が確実だ」ということが理解され、ミラーは取り外されたそうだ。しかしカメラを設置したことが、その後の用途の広がりに繋がったという。

というのも、高速道路上にカメラを常設する場合、当時は「1カ所で1000万円以上が必要だった」(鈴木氏)。しかも、設置されていない場所は巡回して人の眼で確認するしかない。SiLEDであれば、簡易的に設置されたものとはいえ、通常はカメラのない場所を確認できるメリットが生まれる。カメラの解像度はVGA程度の静止画撮影用だったが、「雪が降ってきて道路が白くなってきた」といった現状把握には有効だという。

具体的な活用例としては、降雪時にスリップしやすそうな場所に設置して「カメラで雪を確認して遠隔からLEDで注意喚起文を表示する」という方法がある。ほかにも、渋滞時に後尾警戒・追突注意を表示したり、道路の谷(サグ部)に設置して速度回復のお知らせを表示したりと、さまざまな用途に利用できる。この速度回復のお知らせ表示については、セフテックがLED表示板を貸し出して「効果があったら常設の表示板を建設する」という有効性の確認にも使われているそうだ。

ソーラーSiLED

また、まだまだ記憶に新しい東日本大震災でもSiLEDが活用された。震災によって東北地方の高速道路は大ダメージを受けたが、その復旧作業のために広い範囲で車線規制が行われた。この際、SiLEDシステムによる後尾警戒の掲示が実施されたのだが、複数台の速度センサーも配置しており、計測情報をサーバで管理し、その情報を元に表示データの再配信を行ったそうだ。

こうした柔軟性は、モバイル通信網を活用した「IoTデバイス」ならではの事案と言えるが、モバイル環境における"接続性"が失われては、意味がない。鈴木氏によると、基地局の境界部に設置されて電波が安定しないケースや、トンネルの出入り口付近と内部で掴むアンテナが変わって電波が弱くなるケース、遮音壁と大型トレーラーに挟まれた瞬間に電波が遮られるケースなど、「高速道路ならでは」の事案があり、接続性の確保には苦労が伴うそうだ。こうした問題が生じた場合は、通信モジュールの位置変更といった工夫でリカバリーしているという。

電波の強弱だけでなく、現在のSiLEDに採用されている通信モジュールは「3G」を採用している。LTEと同程度の電波強度であれば、通信速度やレイテンシが落ちるため、通信エラーとなる可能性も高い。こうした状況を回避するため、また、将来的なロードマップのためにも「次のロットからLTE対応にしようと話を進めている」(鈴木氏)としていた。

ブラウザで管理も容易に

当初はKDDIのデータセンターに設置したプライベートサーバに接続して運用を行っていたが、現在はKDDIクラウドプラットフォームサービス(KCPS)での運用に変更。これは、高速道路の様々な要望に応えていく過程で制御数が増加したことによる措置だ。

システムは、一昔前の一方通行な活用だけでなく、インタラクティブ(双方向)な利用にも対応している。道路上に設置したスピードセンサーが現在の道路状況を判別し、データを渋滞監視サーバへ送信するだけでなく、送信されたデータを元に、「渋滞注意情報」などを数十km前のLED表示板へ送信するといったことができるようになった。

面白い取り組みでは、異なるサーバやシステムとSiLEDを連携させ、渋滞情報の表示などへ活かす手法も出始めている。これは、あくまで従来の交通管制システムとは別物であり、仮設設備という特性上、広域の渋滞情報には応用しにくいが、重厚長大なシステム導入よりも簡便に利用できるため、災害時などに大きな力となるだろう。

SiLEDはデバイス面だけでなく、SaaSアプリケーションによる管理も早期に実現しており、ブラウザ上で表示文の書き換えが行える。また、セフテックはSiLED制御APIを公開しているため、NEXCOなどが使用している機器でSiLEDを直接制御できるそうだ。クライアントサーバ方式で同様のシステムを構築している競合はないそうで、サーバを経由して多数のLED表示板を管理・運用できる点が強みだとしている。

ブラウザで管理できる「GiLEDシステム」

こうした強みは、特に「広域工事で威力を発揮する」と鈴木氏。一般道路の工事は長くても1~2km程度で、現場における表示の切り替えが容易なため、こうしたWeb経由の切り替え機能を必要としないケースが多いという。一方で高速道路の場合、工事区間が数百メートル程度であっても、前後50kmという広い範囲で周囲の交通情報を知らせるニーズがある。直近の話で言えば、熊本地震でも、九州全域の高速道路へ交通状況を知らせるために、SiLEDシステムが活用されているという。

MapAPIとの連携で可能性広がるSiLED

今後の展開について尋ねたところ、鈴木氏は「MapAPIと連携したい」という将来像を語った。例えば、MapAPIで表示される渋滞情報とのデータ連携や、SiLEDの表示情報をマップにオーバーレイさせて、現地の地形と渋滞状況、表示情報の相互確認を容易にするといった手法だ。いずれも、管理コンソールの使い勝手を向上させるもので、近年トレンドとなっているSaaSのAPI連携の代表的な例といえるだろう。

セフテックは、SiLEDシステムをレンタルサービスとして提供しており、「設置が容易でコストを抑えられる」というメリットも存在する。「所有の時代から利用の時代へ」という"シェアリングエコノミー"がバズワードとなっている時代だが、セフテックはそれに先駆けて 現在のポジションを築き上げた。

「今までこのやり方だったから、それを利用する」のではなく、外部との対話によって「道路のIT化」を実現した同社の姿勢は、これからの"全業界のIT化"というトレンドの参考にもなるのではないだろうか。