米国では、デジタルマーケティングに関連するさまざまなテクノロジーを導入してきた結果、テクノロジー環境のサイロ化が問題視されるようになってきた。MarTech USA 2016においても、自社に必要なマーケティングテクノロジーを整理し、データ統合を行うために重要なテクノロジーとして、マーケティングミドルウェアに注目が集まっていた。

本稿では、マーケティング・ミドルウェアの1つであるタグマネジメントシステム(Tag Management System:TMS)を取り上げ、技術的な観点からデータ連携ミドルウェアとしての役割を考えてみたい。

タグマネジメントのマーケティングテクノロジーにおける位置付け

まず、2016年版のMarketing Technology Landscape 2016において、TMSがどのように位置付けられているかを見てみよう。

TMSは、クラウド型の統合プラットフォームやデータ統合基盤製品と共に、「Data」クラスターの中の「iPaaS, Cloud/Data Integration & Tag Management」に分類されている。タグマネジメントツールと言えば、国内では無償でツールを提供しているGoogleとSignal(旧Bright Tag、国内ではYahoo!がパートナー)のものがよく知られている。さらに、有償で高機能な汎用製品としてTMSを提供しているベンダーとしては、Adobe Systems、Ensighten、IBM、Tealiumが挙げられる(図1)。

図1:タグマネジメントの位置付け 出典:Marketing Technology Landscape 2016

タグとは何か

次に、デジタルマーケティングにおけるタグがどのようなものかを紹介しよう。タグは、Webページ(最近ではモバイルアプリの場合もあり)上で何らかのタスクを実行するために埋め込まれたコードの集まりを指す。コードと言っても、その規模は小さく、タグの中身はプログラムと言うよりも、デジタル空間での訪問者の足跡をトラッキングするための「データ」である。

当初、タグはWebサイトのアクセス解析をはじめ、リスティング広告、リターゲティング広告、アフィリエイト広告といった広告の効果測定のために使われていた。やがて、ソーシャルメディアが普及し、関連する計測も必要になったことから、Webサイトの規模の拡大およびサイト上で展開する施策の増加に比例して、ページに埋め込まなくてはならないタグが増加することになった。

ここで問題となったのは、Webサイト運営負担の増大である。TMSの登場以前、タグの追加、削除、編集はすべて手作業で行わなくてはならなかった。アクセス解析の場合、基本的に全部のページにタグを設置するし、広告の場合はもっと複雑だ。訪問者の導線を意識して適切なページにタグを埋め込まなくてはならない。

手作業に依存している以上、タグの種類に比例して、Web担当者、Web制作会社、広告代理店の作業負担は大きくなる。また、コードの編集作業を注意深く行わないと、ページがうまく表示できないといったトラブルに遭うこともあった。Webサイト訪問者の行動背景をもっとよく理解したいというニーズから、積極的な施策を展開しようとする企業ほど、煩雑なメンテナンス作業に苦しんでいた。

TMSの中核テクノロジー

こうした困った状況を変えたのが、コンテナとデータレイヤーの2つの技術コンポーネントで進化したTMSである。

コンテナを用いたタグマネジメントは、1つのコンテナタグで、すべてのタグの動作を一元管理する方式である。さまざまなタグをコンテナタグに登録すれば、それぞれのタグのWebページでの動作条件を詳細に定義することができる。また、特定のWebページに、新しく設置したいタグが出てきたり、既存のタグの修正が発生したりしても、直接そのページに埋め込まれたタグを編集する必要がない。

さらに、コンテナより強力なタグマネジメント方式として登場した技術コンポーネントが、データレイヤーである。データレイヤーは、Webページの表示とアプリケーション機能のロジックからタグデータを切り離すものであり、全てのWebページで使うタグを共有できる。この考え方はIT部門に在籍している読者の方にはなじみがあるだろう。

データ連携とは、あるソフトウェアのデータを、別のソフトウェアでも使えるようにすること。タグがデータの一種である以上、外部のサービスやメディアの場合と社内で導入しているアプリケーションのデータを連携させる場合も理屈は同じというわけだ。データレイヤーを使えば、複数のマーケティングアプリケーションを直接つなぐ必要はなくなる。

データレイヤーは、マーケティング部門がどんなアプリケーションあるいはサービスを使っていたとしても、標準化されたデータの流通をコントロールできる共有基盤である。連携するアプリケーションやサービスが多い大企業ほど、データレイヤーは顧客データを基準に顧客をより詳しく知るために役立つ。

その意味で、データレイヤーはTMSをマーケティング・ミドルウェアに進化させた画期的な連携技術と言えるだろう。つまり、マーケティング・ミドルウェアとは「糊」のこと。TMSは、今、マーケティング部門が自社で利用しているマーケティング・アプリケーションをつなぐ役割を期待されている。