理化学研究所(理研)のスーパーコンピュータ(スパコン)というと「京コンピュータ」を思い浮かべる人が多いと思うが、「京コンピュータ」は共同利用の施設であり、理研の所有スパコンではない。理研は東京の和光市に和光本所という大きなキャンパスがあり、そこに情報処理基盤センターという施設がある。

ここに「HOKUSAI Great Wave」というスパコンが設置されている。HOKUSAIは、富士通のPRIMEHPC FX100スパコンで、2015年11月のTop500ランキングでは、989.6TFlopsの性能で国内では11位という規模である。また、PEZY/ExaScalerのShoubuスパコンも併設されており、6月8日に「スーパーコンピュータHOKUSAIとShoubu、研究の最前線」というシンポジウムが行われた。

HOKUSAIユーザの研究発表

今回のシンポジウムでは、5件の研究発表が行われた。

最初の発表は、仁科加速器センターの土井琢身氏の「格子量子色力学を用いたバリオン間力の決定」と題する発表である。

陽子や中性子などのバリオンは物質を構成する主要成分であり、それらがどのように相互作用をするかは、宇宙における物質の創成史を解明する上で不可欠である。しかし、従来のバリオン間力の研究は現象論的解析が主であり、真の基礎理論であるQCD(色量子力学)に基づくものではなかったという。

そこで土井氏らは、格子QCDと呼ばれるQCDの第一原理計算を用い、独自開発した「HAL QCD理論計算手法」とHOKUSAIの大規模計算資源を組み合わせることで、世界で初めて現実的クォーク質量を用いたバリオン間力の計算を行っているという。この発表では、核力からハイペロン力まで、さまざまなバリオン間力の計算についてその最新成果を報告する。というものである。

2番目の発表は、理論科学連携研究推進グループの久徳浩太郎氏の発表で、「磁気流体力学によるブラックホール・中性子星連星合体の数値相対論シミュレーション」というものである。

2015年になってブラックホール同士の合体からの重力波が初めて観測された。今後数年で中性子星を含む連星、例えばブラックホール・中性子星連星の合体も見つかると期待されている。その時、中性子星を構成していた物質が放出されて、金やプラチナなどの重元素を合成し、その崩壊熱が突発的電磁波放射として観測されると考えられている。この過程で、中性子星の磁場が質量放出や元素合成、増光現象にどの程度寄与するかはよくわかっていない。また、ショートガンマ線バーストの解明のためにも磁場の役割への理解を進めることは必須である。同講演では京コンピュータで得られたブラックホール質量が比較的小さい場合の成果を紹介しつつ、HOKUSAIの利用を含めた、今後の研究計画を説明するというものである。