米Hewlett Packard Enterprise(HPE)が6月9日まで米ラスベガスで開催した「HPE Discover 2016」、クラウドやストレージで発表を行った初日の後、2日目の基調講演は新しい技術分野にスポットをあてた。コンピューティングを土台から変えるという研究開発プロジェクト「The Machine」、IoT時代に向けたエッジコンピューティング「コンバージドIoTシステム」の2つだ。

「コンピューティングを再考する」--2年前のDiscoverでCTOのMartin Fink氏が発表したプロジェクトがThe Machineだ。「プロセッサとメモリを逆にし、巨大なメモリのプールが中心のメモリ主導のコンピューティング」とWhitman氏は説明する。

HPEのCEO、Meg Whitman氏

メモリのプールのほか、特定のタスクに合わせたプロセッサ、データとプロセッサの間をつなぐフォトニック技術の3つがThe Machineの大きな特徴となる。

プロセッサ中心からメモリが主導する「The Machine」

背景にあるのは、データの爆発だ。モバイルによりデータは爆発しており、ムーアの法則の限界も言われる。現在のペースでも限界というところに、IoTのブームが迫っている。 「メモリを中心にすることで、プロセッサを交換したり、特定のタスクにどのプロセッサを使うのかを選択することもできる」とHPEブースの説明員。たくさんの処理を必要とするものについては、GPUなどのプロセッサを使い、そうではないものについては別のプロセッサを使うなどの使い分けも可能という。

「わずかな消費電力で、大規模なデータから瞬時に洞察を得てアクションを取ることができる」とWhitman氏。「目標は、いま現在解決できないような問題を抱えている人に、解決につながる技術を提供すること」と述べ、「HPEは2020年までにこれを可能にする」とした。「発表したとき、クレイジーと言われた」とWhitman氏は振り返るが、着実に業界の関心を集めているようだ。

ヤフーの佐々木潔氏

会期中、日本から参加したヤフー データ&サイエンスソリューション統括本部 データプラットフォーム本部 本部長の佐々木潔氏はDiscoverの展示フロアでのセッションに登場し、The Machineへの期待を語った。検索、ショッピング、オークションとヤフージャパンは100以上のサービスを抱え、日本のインターネットユーザーの80%が利用している。課題はユーザーデータの増加と活用だ。

「データは年2~4倍で増えている。また、さまざまなサービスを一箇所で分析したい」と佐々木氏。サービスを横断してデータを収集、分析するだけでなく、時間の制限も除去し、直近3カ月、6カ月といったデータではなく、すべてのデータを分析したいという。

自社の強みは「たくさんあるサービスとそれから得られるユーザーデータ」と佐々木氏、だが「(これを)最大限に活用できていない。The Machineでは、フルセットのデータを使い、機械学習を利用できると期待している。これにより、サービスの品質を高め、より正しいパーソナライズができ、ユーザー体験も改善できる。これは大きなチャンスだ」とThe Machineへの期待を述べた。

HPEは会期中、The Machineの一部技術をオープンソースとして開発者に公開することも発表した。CPUと不揮発性メモリ(NVM)を活用してアプリケーションを高速化するデータベースエンジン、NVM向けのフォールトトラレントプログラミングモデル、エミュレーションなどで、オープンソースコミュニティページも開設した。

展示フロアのHPE LabsのスペースではThe Machineの開発過程にあるメモリ、コンピュート、ファブリックボードボードなどが展示されていた

IoTでは、ネットワークのエッジでデータを処理するエッジコンピューティングが可能な「Edgeline EL1000」「Edgeline EL4000」を発表した。1000は最大16、4000は最大64のCPUコアを搭載可能というものだ。これにより、データの取得と制御、処理、ストレージなどの機能を統合し、エッジで分析を行いリアルタイムでの意思決定ができる。HPEはこれを「まったく新しい製品カテゴリ」(Whitman氏)として「コンバージドIoTシステム」と称している。

「HPE Edgeline EL1000」

HPEのエグゼクティブバイスプレジデント兼エンタープライズグループ・ジェネラルマネージャー、Antonio Neri氏

製品を説明したHPEのエグゼクティブバイスプレジデント兼エンタープライズグループ・ジェネラルマネージャー、Antonio Neri氏は、「工場、発電所、航空機、医療施設など、さまざまなところで価値のあるデータが生まれている。これらはすべてデータセンターの外 --エッジにある。コンバージドIoTシステムにより価値のある洞察を得ることができる」と製品の重要性を強調した。

Edgeline ELラインでHPEはNational Instrumentsと提携し、同社のデータ取得と制御技術をオプション提供する。セキュリティの懸念に対しても、自社の無線LANソリューションArubaのVPN機能など「エンタープライズ級のシステムとデバイス管理」を備えるという。このほか、自社のデータ分析技術「HPE Vertica」、安全なIoTデバイスアクセス「Aruba Clearpass」も利用できる。

「IoT分野はすべての業界にとって崩壊をもたらす重要な機会だ。エッジで処理、制御できるようになることで、この機会をさらに大きくできる」とNeri氏は述べた。

IoTではこのほか、General Electric(GE)のIoT向けプラットフォーム「Predix」で提携したことも発表した。提携の下、HPEはストレージとサーバーでGE Predixプラットフォームの優先ベンダーとなる。Predixプラットフォームの設計、実装、ロールアウトを支援し、GEが社内で運用するハイブリッドインフラなどでHPEの技術を活用するという。また、GE PredixはHPEの優先ソフトウェアソリューションとして、産業関連のユースケースで使用する。世界で100人規模のPredix認定開発者を養成する計画だ。

ビデオで登場したGE Digitalの最高デジタルオフィサーBill Ruh氏(兼GEバイスプレジデント)は、「今後10年は、これまでインターネットがコンシューマーの世界に与えたような変化が、今度は産業界で起こる」とし、これを「インダストリアルインターネット」とした。

ビデオで登場したGEのBill Ruh氏

HPEはIoT Innovation Labsとして米テキサス、フランス・グルノーブル、インド・バンガロー、シンガポールの4箇所で、IoT技術にアクセスできる拠点を設けることも発表した。