2016年5月18日に開催された「第1回全脳アーキテクチャシンポジウム」においてPEZY Computingの齊藤社長が、「Deep Insights(ディープインサイツ)」という会社を新たに設立し、現状の1000倍の性能を持つ人工知能エンジンの開発に乗り出すことを明らかにした。
同シンポジウムを主催する「全脳アーキテクチャ・イニシアティブ(The Whole Brain Architecture Initiative:WBAI)」は、人間の脳に学び、脳を超える汎用人工知能を構築しようというイニシアティブで、ドワンゴの人工知能研究所所長の山川宏氏が代表、東京大学(東大)の松尾豊 准教授と理化学研究所(理研)の生命システム研究センターの高橋恒一氏が副代表を務める。PEZY Computingは、このWBAIの創設賛助会員になっている。
以前、「ExaFlops一番乗りを狙う - PEZYグループの野望」というレポートで、PEZYが2019年に1ExaFlopsのスーパーコンピュータ(スパコン)の開発を目指していることを紹介したが、PEZYグループとしては、このスパコン開発と並行して非ノイマン型の汎用人工知能用のハードウェア、そしてノイマン型の人工知能エンジンの開発を行うことが今回、明らかにされた。
2013年に理研らは京コンピュータの全系を使って、17億3000万個の神経細胞が10兆4000億個のシナプスで結合された脳神経回路の1秒間相当の動作をシミュレーションすることに成功したと発表した。しかし、この規模は人間の脳の約1%で、そのシミュレーションには40分を要している。つまり、1000倍の速度のシミュレーションエンジンができれば、人間の脳全体の1秒間の動作を4分でシミュレーションできるという計算になる。
また、電気通信大学の山崎匡 助教は理研に設置されているPEZY/ExaScaler製のShoubu(菖蒲)スパコンを用いて猫の小脳のシミュレーションを行っており、猫の小脳の実時間でのシミュレーションに成功したという。この成果は2016年6月8日の理研シンポジウムで発表される予定である。このような成果はあるが、脳のシミュレーションは、まだまだ、ハードウェアの性能が不足という状況である。
脳の機能をハードウェアで実現しようという研究は数多く行われており、次の図は、横軸にハードウェアの複雑度を取り、縦軸は、上側が新型コンピュータを構築することを目的とするもの、下側が脳の動作の再現を目指すものという観点から、これらの研究を分類してプロットしたものである。現在、最も複雑度が高いのは欧州が進めている「Human Brain Project」であるが、まだ、人間の脳の全系の実時間シミュレーションの実現には距離がある。PEZYの目標は右端に書かれているように野心的で、圧倒的に大きな神経回路網を扱うことができ、新型コンピュータの構築から脳の動作の再現まで、すべての目的に使えることを目指している。