電気自動車(EV)をガソリン車と同等の利便性を持つ製品へ――これを実現するための鍵を握るのは、車載用蓄電池だ。EVの場合、その航続距離は蓄電池のエネルギー密度に応じて増大するため、自動車としての用途が成立するためには、大きなエネルギー密度をもつ蓄電池が要求される。たとえば、EVで500kmの距離を1回の充電で走行するには、400~500Wh/kgの重量エネルギー密度が必要となる。

しかし、ニッカド電池やニッケル水素電池と比較してエネルギー密度が高いといわれているリチウムイオン電池でも、現行のものではエネルギー密度は60~100Wh/kg、航続距離は120~200km程度となっている。また原理上、リチウムイオン電池の達成可能なエネルギー密度は250~300Wh/Kgとその限界が見えつつあり、リチウムイオン電池の性能を凌駕する"革新型"の蓄電池の実現が望まれている。

こうしたなか、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、2009年度に「革新型蓄電池先端科学基礎研究事業(RISING)」プロジェクトを発足。2030年までに、航続距離500km、エネルギー密度500Wh/kgというガソリン車並みの走行性能を有する新たな車載用蓄電池を実現すべく、京都大学、産業技術総合研究所を集中拠点とし、全部で30の企業・大学・研究機関とともに7年間の基礎研究に取り組んできた。

リチウムイオン電池(LIB)から革新型蓄電池へ

RISINGの成果のポイントは、大型放射光施設「SPring-8」の放射光ビームライン、大強度陽子加速器施設「J-PARC」の中性子ビームラインを開発・利用することで、電池反応中に動作を確認しつつ分析する「オペランド解析」が行えるようになったことにある。従来、蓄電池の解析は、電池反応後に電池を解体して行っていたが、オペランド解析が可能となったことで、詳細な現象やメカニズムを把握できるようになったのだ。

この結果、亜鉛と酸素を利用する「亜鉛空気電池」、正極に硫化物を用いた「硫化物電池」、これまで不活性とされた材料の界面をナノレベルで制御し充放電を可能にした「ナノ界面制御電池」といった3タイプの蓄電池において、エネルギー密度300Wh/kgを検証し、500Wh/kgが実現できる見通しが得られたという。

亜鉛空気電池と硫化物電池のイメージ

NEDOの古川一夫理事長は、「電池は約200年も前にイタリアのボルタが発明したものだといわれているが、今でも意外によくわかっていない。それは、電気化学の反応が難しく、勘やノウハウに頼る部分が多いため。しかし今回、SPring-8やJ-PARCなど"最先端のサイエンス"を利用して解析を行ったことで、2030年でエネルギー密度5倍の道が見えてきた」と同プロジェクトについて評価している。

そしてNEDOは、このRISINGで得られた成果を受けて、新たなプロジェクト「革新型蓄電池実用化促進基盤技術開発(RISING2)」をスタートさせる。