2015年6月のGreen500で1~3位を独占した理研のスーパーコンピュータ(スパコン)「菖蒲」、高エネルギー加速器研究機構(KEK)の「青睡蓮」と「睡蓮」を開発したPEZY Computingの齊藤社長は、「エクサスケールの衝撃(PHP研究所)」と題する本を出している。進歩は加速しており、爆発的な発展が起こる特異点が来ると説くRay Kurtzweilの説のスパコン版という本であり、齊藤社長は、エクサスケールのスパコンの登場が社会全体を大きく変える特異点になるという。この本を読むと、エクサスケールのスパコンの開発に賭ける齊藤社長の意気込みを感じ取ることができる。

その齊藤社長にインタビューを行い、最近の開発状況と、エクサスケールのスパコンへとつながる開発戦略を伺った。なお、PEZY ComputingはスパコンのエンジンとなるメニーコアのPEZY-SCチップの開発を行い、それを液浸の冷却系を含めてスパコンシステムとしてまとめ上げるのがExaScaler、超広帯域の3D積層メモリを開発するのがUltraMemoryという3社のグループで開発を推進している。齊藤氏はPEZYの社長、ExaScalerとUltraMemoryは創業者・会長を務めており、名実ともにPEZYグループのリーダーである。

PEZYグループを率いる齊藤元章社長。背景はGreen500の賞状とHPC Wireの2部門のEditor's Choice Awardの賞状

次期スパコン「ZettaScaler-1.6」

スパコンの名称であるが、当初は「ExaScaler」と称していたが、米国のストレージのメーカーがこの名称の商標権を持っていることが判明し、それならということで、もう3桁アップして「ZettaScaler」に変更した。

初代の「ZettaScaler-1(ZS-1)」からフロリナートを使った液浸冷却を使っているが、ZS-1ではSuperMicroのマザーボードにPCIeスイッチを介してPEZY-SCを接続していた。しかし、元々は空冷用のマザーボードであり実装密度が低いという問題があり、液冷に最適化した実装構造とマザーボードを自主開発した。これがZS-1.4であり、理研の菖蒲がこのタイプである。これを改良したのがZS-1.5である。

長いブレード状のノードにXeon 1個とPEZY-SC 4個を搭載する。このノードを4個まとめて角柱状のブリックとし、これを4×4=16本 液浸槽に挿入する実装を開発した

現在は、これに続くZS-1.6の開発を行っているという。PEZY-SCチップは、DDR3/4を8チャネルとPCIe3.0を32レーン持ち、チップのI/Oピン数が多い。この多ピンのチップを47.5mm角のパッケージに押し込んだために、電源や信号の引き回しが厳しく、ノイズが大きくなってしまい、ZS-1.4とZS-1.5ではPEZY-SCのクロックやDRAMのクロックを落とす必要があったという。また、電源ノイズが大きくノイズによる電源電圧の低下分を補うため供給する電源電圧を高めにしておく必要があり、消費電力の増加にもつながっていたという。

これに対して、PEZY-SCのパッケージを一回り大きくして50mm角とし、電源、グランドピンを増やし、パッケージ基板とモジュール基板を一体とした詳細なCAD解析を行ってノイズを低減するようパッケージの設計をやり直した。

左はZS-1.5まで使用していたオリジナルの47.5mm角のPEZY-SC。右はノイズを低減した50mm角の改良型パッケージのPEZY-SCnp。ピン数は2112ピンから2397ピンに増加している

このノイズを低減した新パッケージの「PEZY-SCnp」はサンプル品が完成し、評価を開始したところであるが、良い感触が得られているという。期待通りの特性が得られれば、動作クロック、Flops/Wともに10%程度の改善が得られると見込んでいる。

大きな問題が発生せず予定通り開発が進めば、2016年6月のGreen500に改善したGFlops/W値をサブミットし、同時にISC 2016でシステムを展示することができると見込んでいる。