世界最大級のテレビ番組見本市「MIPTV」(ミップティービー)が、4月4日から7日まで、フランス・カンヌで開催され、当レポートの前編では、綾瀬はるか主演ドラマ『NHK放送90年大河ファンタジー 精霊の守り人』に出演する高島礼子がレッドカーペットを歩き、アジア初のプレミア上映が行われた現地の模様を伝えた。この後編では『SASUKE』をはじめとする日本のバラエティ番組が、世界のテレビマーケットで注目された様子を紹介する。

アメリカ版10年目の成功ストーリー

世界の成功事例に選ばれた『SASUKE』(写真中央=TBS杉山真喜人氏)

巨大なセットに仕掛けられた障害物に出場者が挑んでいくTBSの『SASUKE』は、アメリカで『American Ninja Warrior』(アメリカン・ニンジャ・ウォリアー)のタイトルで放送開始してから10年がたつ。その後、ほかの国にも拡大し、現在は165カ国・地域で放送。現地版の制作は11カ国に増えている。

こうした実績に注目が集まり、MIPTVプレイベントの「MIPFormats」(ミップフォーマッツ)では、世界で成功するプライム帯のエンターテイメント番組として大きく取り上げられた。大抵の場合、こうした成功ストーリーが語られる場面はアメリカやイギリスなど欧米が中心となることが多いが、今回は、単独の番組で日本が初めてフォーカスされた。『SASUKE』によって、日本の見せ場がひとつ作られたのだ。

テレビ番組の国際流通マーケットでは、番組をそのまま売るというやり方の他にセットや構成、演出など番組の制作ノウハウをフォーマット化して世界に売り出す手法があり、それを「フォーマットセールス」と呼ぶ。そのフォーマットセールスのための唯一の業界イベントが「MIPFormats」であり、そこでの成功事例シリーズ講演に『SASUKE』が選ばれたというわけである。注目が集まる中、いかに世界に売れたのかという話や、欧州向けに電通と組んだ『SASUKE』ブランド展開が披露された。

ここで登壇した、TBSテレビメディアビジネス局海外事業部の杉山真喜人氏に、人気の現状を聞くと「2006年にアメリカで放送が始まって以来、実績、人気共に右肩上がりです。一昨年、アメリカ版で女性選手が初めて予選を完全制覇した時は、ソーシャルメディア(SNS)が世界中でバズる現象が起こり、人気拡大に拍車をかけました」と話す。

その成功の理由について、杉山氏は「『SASUKE』はルールが一見シンプル。欧米の一般的な番組との違いは、勝ち残るために相手を蹴落としたり排除したりするフォーマットではないところです。文化や言語の違いに関係なく、参加者、視聴者、双方がポジティブな気持ちになれる点が、国境を越えて人気が拡大している要因のひとつだと思います」と分析。「各国共通してSNSとの親和性が高く、老若男女に幅広くアピールでき、家族そろって安心して視聴できる番組だとの評価をいただけていることも大きいです」と背景を語っている。

カンヌでフランス版『SASUKE』の収録

講演ではフランス現地版の収録がカンヌで行われることも明らかにされ、実際にMIPTV会場の目の前のヨットハーバーには、大がかりな『SASUKE』のセットが組まれていた。カンヌ市がスポーツ振興の一環で招聘(しょうへい)したもので、観光客なども行き交う目立つ場所にセットが建設されたことで、街全体で歓迎ムードだった。

このセットこそ『SASUKE』を象徴するもの。巨大であることには変わりはないが、国によって本家のセットと趣やスケールを変えていることも、成功しているポイントのひとつだ。「『SASUKE』をもう何年もやっている国と、初めてやる国とでは習得度も異なるので、障害物の種類や個数、コース設定などが関係者間で細かく検討されます。慎重にシミュレーションを重ねた上で、どれくらいの難易度がその国にとって一番妥当なのか、相手国のニーズも踏まえ都度、決定されているんです」と、杉山氏は説明する。

海外版ではセットそのものを「Mt. Midoriyama (マウント・ミドリヤマ)」と呼び、その名が定着しているという。このMidoriyama=緑山は、本家SASUKEのセットが組まれるTBSのスタジオの名前だが、海外の番組ファンにとって、日本の山の名前では富士山に次いで知名度の高い山として認識されているという逸話もある。

カンヌのヨットハーバーに建設された『SASUKE』フランス版のセット