2016年モデルのiPhoneもまだ発表されていない段階だが、業界関係者やサプライチェーン筋の注目はすでに2017年に登場が噂される「有機ELディスプレイ(OLED)搭載iPhone」に注がれている。この世代ではiPhone 4/4Sで採用されていた背面ガラス張りのデザインが復活するという話題も出ており、ガラス採用による本体重量増加のペナルティをOLED採用による軽量化で相殺するのではないかと観測されている。

背面ガラス張りだったiPhone 4S

同件は9 to 5 MacApple Insiderで確認できる。どちらもKGI SecuritiesのアナリストMing-Chi Kuo氏が出した最新の調査報告をベースとしたもので、同氏によれば2017年に登場するiPhoneの最新モデルでは、AMOLEDの有機ELディスプレイを採用しつつ、筐体デザインも背面をガラスベースのものにする計画をAppleでは持っているという。もともとAppleがiPhone 5以降にアルミニウムの削り出し筐体を採用したのは、筐体強度を保ちつつ薄型軽量化を実現するためだった。その代わり、筐体加工の難易度の高さからくるコスト高でiPhone 5世代の利益率に悪影響をもたらしたといわれる。最新モデルであえてガラス素材に戻した場合、Appleはガラス採用による「薄型軽量化」と「筐体強度」への弊害を何らかの形で克服する目処が立ったことを意味する。

まず「薄型軽量化」の部分だが、前述のようにOLED採用がその理由の1つとみられる。OLEDは自発光素子のため部品点数が少なく、液晶ディスプレイに比べて薄型軽量化が容易だ。そのため、筐体へのガラス素材採用による「(筐体強度維持のための)厚みや重量の増加」のデメリットを相殺し、デザインの自由度が高くなるメリットがある。またOLED採用の嬉しい副作用として、(量産体制がある程度確保されれば)液晶ディスプレイに比べてモジュール価格が安価になるという特長がある。現状で、フラッグシップのiPhoneにおけるディスプレイモジュールの部品価格は40ドル前後とみられているが、OLED採用により最大3~4割程度これを削減することができると考えられる。

以前のレポートでも触れたが、Appleはこのコスト削減効果で得られた"余裕"をセンサー関連の強化につぎ込んでくる可能性が高く、デュアルカメラや各種センサー機能を新たに採用することになるかもしれない。

ただ、ここで2点ほど気になることがある。1つは「本当にOLEDを採用するのか」という点、もう1つは「"AMOLED"とOLED技術を明記している」点だ。まずOLED採用については、すでにサプライチェーン筋の動きが活発化しており、よほど大きな問題が発覚してAppleが計画を覆さない限り規定路線だとみられる。もともとは2018年モデルでの採用が噂されていたOLEDだが、現在ではモデルを限定して「2017年に先行投入」される可能性が高いと考えられている。だが、このタイミングで量産体制を確立できているのはおそらくSamsungの1社のみで、前述のように「AMOLED」と名指しされているのはそのためだ。中小サイズのAMOLEDはSamsungがほぼ100%のシェアを握っており、実質的に独占供給体制になっている。もし、2017年後半のタイミングでJDIやLGがiPhone向けOLEDの量産体制を確立させられれば、OLED採用iPhoneの後期モデルからは両社のディスプレイがSamsung製のものに混じって提供されることになると予想する。

もう1つの問題は「2017年」という点だ。多くが知るように、現在のiPhoneは2年ごとに大きく筐体をモデルチェンジし、マイナーチェンジが行われた改良版をそれに挟んで1年ごとに新モデルを市場供給するという、IntelのTick-Tockに似たサイクルを保っている。順当にいけば、2016年は筐体のモデルチェンジの年にあたり、2017年はマイナーチェンジの年となる。もし「ガラス筐体+OLED」という大幅なモデルチェンジが2017年時点で行われるのであれば、「2016年は大幅なデザイン更新が行われない」「2016年と2017年ともに筐体のモデルチェンジが行われる」という、いずれにせよ従来までの2年の更新サイクルが破られる可能性が高くなる。Intelは今年2016年、ムーアの法則に支えられた「Tick-Tock」モデルを断念し、マイナーチェンジ版にあたる「Kaby Lake」プロセッサを市場投入する計画だが、奇しくもAppleと同じ年に似たような境遇を迎えることになるのだろう。

これは筆者の推論だが、Appleは2016年以降に従来の2年サイクルを止め、製品の大幅リフレッシュは年1回の高頻度に、あるいは新製品を適時投入という形で不定期のリリースサイクルに入ると予想している。これは以前のレポートでも触れているが、サプライチェーンの間で「リリースサイクルの変化」「製品の細分化(SKU)」といった噂がたびたび話題になっている。実質的には2017年以降の話となるが、2016年秋の製品発表時にはその片鱗がすでに見えるとみられ、ぜひその動きに注視してほしいところだ。