会社勤めをすれば、毎月、給与とともにその内訳が記載された明細書を受け取る。しかし、給与明細の内容についてきちんと理解している社会人は多くはない。なんとなく眺めても、残業代を少し気にしながら銀行振込額を確認する程度だろう。何も知らずに明細書を見て、どの項目から年収を計算するか分かるだろうか?

給与明細の数字には、会社が支給する手当の特徴や、社会保障や税金の基本的な仕組みが反映されている。給与明細書を読める力を身につけることは、自分のキャリアプラン・ライフプランを考えていく上で役に立つ。それぞれの項目について、詳しく見ていこう。

給与明細のイメージ

給与明細の構成と勤怠

給与明細は「勤怠」「支給」「控除」の3項目で構成されている。「勤怠」は月々に働いた日数や時間などの勤務状況を記した項目であり、「支給」は勤怠などに基づいて計算された支給額を示す項目である。「控除」には社会保険や税金など、支給から控除(金額を差し引くこと)する額面が記載されている。単純に言うと、会社への貢献が勤怠で、その対価が支給、社会への貢献が控除だ。

「勤怠」の項目を見ると、会社によって表記が異なるが「出勤日数」や「欠勤日数」「時間外労働時間」といった出勤データの項目が並んでいる。また、使用可能な有給休暇の日数についてもこの項目に記載されている。

自分の年収がわかる「支給」

「支給」の欄では、会社からどのようなお金が支払われたのかを確認することができる。「基本給」は、各人ごとに決められた一定額の給与であり、ボーナスや退職金のベースになる重要部分だ。会社によっては、年齢や勤続年数で決まる「年齢・勤続給」、職種で決まる「職務・能力給」、業績で決まる「業績・成果給」などにさらに細かく分類されている。

手当は、仕事の内容で決まる職務手当と、生活をサポートするための生活関連手当とに大きく分けられる。代表的なものは以下の通りだ。

  • 役職手当:部長や課長など、役職に応じて支給される手当
  • 住宅手当:賃貸の費用や住宅ローンの支払いなど、住宅に応じて支給される手当
  • 家族手当:配偶者や子どもなどを扶養している場合に支給される手当
  • 時間外労働手当:所定労働時間を超える労働に対し支給される手当
  • 深夜労働手当:午後10時から午前5時の間の労働に対し支給される手当
  • 休日労働手当:休日の労働に対し支給される手当

会社によっては、簿記や中小企業診断士・危険物取扱者などの資格を取れば、資格手当が支給される場合がある。収入増だけでなく、キャリアアップにもつながる選択肢だ。厚生労働省が大手企業を対象にした「平成22年 賃金事情等総合調査」によれば、平均賃金の1割弱が各種手当によって占められている。ただし、景気が悪化し会社の業績が下向きになれば、手当は削減されることもある。長期的な将来設計をする際は「自分は基本給でいくら稼いでいるのか?」をベースに考えよう。

基本給に諸手当を足したものが、総支給額になる。これが「もらっている給料」であり、12カ月分の合計にボーナスなどを足したものが「年収」だ。総支給額は「額面給与」とも言われる。この金額を元に、各種保険料や税金の計算がされる。なお、通勤手当は経費とみなされ、税金はかからない。ただし、1カ月あたり10万円が限度となっている。

社会保障の基本「控除」

支給から引かれる社会保険料や税金の項目が「控除」である。社会保険とは、病気やケガをした時の治療や、失業時・老後の生活を保障する制度のことで、加入が義務付けられている。税金は、国や地方公共団体が行う公的サービスの経費だ。それぞれについて個別に紹介しよう。

健康保険料
健康保険料を支払うことで、病気やけがをした際の医療費負担を3割にすることができる。また、がんの手術や入院などで多額の医療費がかかった場合に、一定額が払い戻される高額療養費制度なども利用できる。健康保険料の金額は「標準報酬月額(給与)」×「保険料率」で計算され、会社が半分を負担している。大手企業が運営する健康保険組合や、全国健康保険協会が運営する協会けんぽ、人材派遣健康保険組合など、加入する健康保険の種類によって保険料も異なってくる。

厚生年金保険料
老齢で退職した時、障害を負った時、または死亡した場合に、本人や家族が年金を受給するためのものである。会社員は国民年金と厚生年金の二つに加入しており、2つの保険料を合わせ厚生年金保険料として控除されている。少子高齢化が進む中で年金制度を維持するために、2017年まで保険料率が段階的に引き上げられていく保険料だ。

※健康保険料と厚生年金保険料の金額の元となる「標準報酬月額」は、4月~6月の3カ月間の平均給与に応じて決定される。

雇用保険料
失業した際に再就職までの生活を安定させ、就職活動を円滑に行えるようにするための保険。失業時の給付だけでなく、資格学校などの費用を補助する教育訓練給付金なども受け取れる。雇用保険に入って1年経過すれば、給付対象となる。保険料は毎月の給与に雇用保険料率1.35%をかけて算出され、これを会社が0.85%、社員が0.5%負担する。

所得税
給与から通勤手当と社会保険料を引いた金額が「所得」であり、所得額に応じて税金が算出される。毎月の所得税は仮に支払っているものであり、12月に「年末調整」をすることで過不足が調整される。生命保険料を支払っている場合や、扶養家族が増えた場合などは課税額が変わるため、払いすぎた分が還付される可能性がある。

住民税
住民税は"前年の"所得に基づいて計算され課税される。新入社員に住民税はかからず、2年目から支払うことになる。翌年以降の住民税の負担を考慮に入れて生活することが重要だ。

総支給額から上記の控除を差し引いたものが「差引支給額」、いわゆる手取りである。ボーナスについても、同じように社会保険料や税金が引かれた差引支給額が銀行に振り込まれる。1年を通して受け取った手取りの総額が、年間の「可処分所得」だ。ここまで理解すれば、給与明細を確認することで、何割を貯蓄に回すかといった生活設計の見通しを立てることができるようになるだろう。