IDC Japan コミュニケーションズ マーケットアナリスト 鳥巣悠太氏

今年のITトレンドの1つのIoT。デバイスやサービスも出そろい、導入フェーズに入ってきた。IoTに興味を持ちながらも、どこから手を付けたらよいのかわからない企業も多いだろう。

IDC Japanがこのたび、国内IoT市場のユースケース(用途)別/産業分野別予測を発表するとともに、市場拡大に向けた企業とベンダーの施策について説明を行った。

同社は、国内IoT市場におけるユーザー支出額について、2015年の見込み値は6兆2232億円(前年比15.2%増)、2014年~2020年まで年間平均成長率(CAGR:Compound Annual Growth Rate)16.9%で成長し、2020年には13兆7595億円に達すると予測している。

コミュニケーションズ マーケットアナリストの鳥巣悠太氏は、20産業分野のうち、IoT市場を牽引するのは12の主要産業分野であり、主要産業分野の中でも主要ユースケースの成長が著しいと語った。

12の主要産業のうち、組立製造、プロセス製造、運輸/運輸サービス、公共/公益、官公庁では、予測期間内におけるCAGRは16%台後半から17%台で推移し、いずれも2020年までに1兆円以上の市場へ成長すると予測されている。

IDCはグローバルで主要産業分野別に主要ユースケースを29種類絞り込んでいる。例えば、「組み立て製造」「プロセス製造」では、「製造オペレーション」「製造アセット管理」「製造業フィールドサービス」「食品トレーサビリティ」が主要ユースケースとされている。この4つのユースケースのうち、「製造オペレーション」と「製造アセット管理」の導入が多いそうだ。なお、世界のトレンドと日本のトレンドは合致しているという。

産業分野別CAGR 資料:IDC Japan

主要産業分野別の「主要ユースケース」一覧 資料:IDC Japan

IoT投資額 産業分野別(2種類)ランキング 資料:IDC Japan

IoT投資額 主要ユースケース別(29種類)ランキング 資料:IDC Japan

こうした国内IoT市場に対するユーザー支出額の力強い成長の背景には、2020年の東京オリンピック開催に向けた景況感の上昇の期待に加え、企業の事業部門におけるIT予算の拡大とIoTへの期待の高まり、IoTを利用する上での技術とコストの障壁の低下、IoTをとりまく法規制や支援策の変化が影響していると同社では見ている。

続いて、鳥巣氏は企業が今後取るべきIoT施策について説明した。

最近、デジタルトランスフォーメーションという言葉を耳にする機会が増えたが、このデジタルトランスフォーメーションが、企業をIoTサービス・プロバイダーに変えるという。

そもそも、デジタルトランスフォーメーションとは何か。簡単に言うと、「企業が自社の製品やサービスにITを組み合わせることで、新たなビジネスを創出すること」となる。ここで言う「IT」は、クラウド、ビッグデータ、ソーシャル技術、モビリティによる「第3のプラットフォーム」を指す。

鳥巣氏によると、これまで企業のIT活用はバックエンドが中心だったが、第3のプラットフォームの登場によりITを迅速かつ容易に利用できるようになり、企業のデジタルトランスフォーメーションが拡大しているという。

実のところ、同社の調査「2015年 国内IoT市場 ユーザー利用動向分析」によると、IoTの導入/運用に関し、直接関わる事業者の14%が非IT事業者という結果が出ている。

IoTを活用したデジタルトランスフォーメーションの例としては、GE(産業機器を利用する企業向けに稼働効率の最適化をクラウドで提供)、コマツ(建設業/公共公益向けに建機を活用した業務最適化を実現)、セコム(企業全般向けにドローンを活用した防犯サービスを提供)などがある。

鳥巣氏はこうした企業のIoTサービスプロバイダー化が進むと、IoT投資の増加に直結すると述べた。

こうした背景を踏まえ、鳥巣氏は「IoTによるクラウド、アナリティクスといったサービスはIoTを実現するツールでしかない。IoTを導入するにあたって重要なことは、ビジネスを具現化するアイデアと継続力」と語った。

ビジネスを具現化するアイデアには、ビジネスモデルやマネタイズの方法などが含まれる。継続力とはトライ&エラーを重ねることを指し、これにより、自社としてのサービスを固めていく必要があるわけだ。

鳥巣氏によると、ベンダーのIoTへの取り組みも、「産業分野」「ユースケース」「IoTエッジ」と3つの方向性で拡大しており、こうした動きも押さえておきたい。

産業分野を拡大させる取り組みとしては、IoTクラウドプラットフォームの拡大や産業分野別の営業体制の強化がある。ちなみに、IoTクラウドプラットフォームの種類は「開発環境」と「デバイス管理」に分けられるが、「大抵のベンダーは両方を提供しており、差別化が難しい」と鳥巣氏。そうしたこともあり、企業はIoTの技術よりも、IoTを使って何をするかということに注力する必要があるわけだ。

こうしたプラットフォームの提供により、「とりあえず試す」という敷居は下がっていると思われる。

国内でも、IoTを活用して成果を上げている企業が出てきている。興味がある企業は、IoTが自社のビジネスにとってどのようなメリットをもたらすのかについて検討を始めてはいかがだろうか。