日本では横長の四角い箱というイメージが定着しているルームエアコン。今年は各社から従来のイメージとは異なるデザイン性を訴求した商品の登場が相次いでいる。
その1つが空調機メーカー大手・ダイキン工業が2月18日に発表した「UXシリーズ」。発売は今秋の予定だが、それに先駆け、報道関係者向けの発表会がこのほど行われた。
ヨーロッパ向けデザインを"逆輸入"
10月1日に発売予定のUXシリーズは、ドイツ人工業デザイナーのアレキサンダー・シュラッグ氏とダイキンヨーロッパ社が共同でデザインを手掛けた製品。ヨーロッパでは2014年3月に既に「Daikin Emura」の商品名で発売されており、デザイン業界では世界的に権威のある「iFアワード」や「Red dot」で受賞している他、日本でも2014年のグッドデザイン賞に選ばれている。
ダイキンヨーロッパと共同で「UXシリーズ」のデザインを手掛けた、アレキサンダー・シュラッグ氏。40年以上の歴史あるデザイン会社・イエローデザインで代表を務める、ドイツ人の工業デザイナー。「アクア・フレッシュ」の歯ブラシや、ペリカンの万年筆といったプロダクトデザインから空間デザインまで幅広く手掛ける |
つまり今回の日本での発売は、いわば“逆輸入”というかたちとなり、ダイキン工業では「まずはデザイン性に対するこだわりが強い市場特性を持つ欧州で先駆けて販売し、日本においても近年デザイン性のニーズが高まってきたことから、販売台数やコストなどを考慮しても製品として市場で受け入れられると判断し、販売に踏み切った」と日本での販売開始の経緯を説明している。
感性に訴えるエアコンを目指して
また、新製品がルームエアコンのデザインとしての類を見ない目新しさだけでなく、ユニークなのは何よりそのコンセプトだ。新製品発表会に出席した、ダイキン工業 空調営業本部 事業戦略室 住宅用事業担当課長の谷内邦治氏は次のように説明する。
「ダイキンはこれまで、空間の心地よさを提供するためにエアコンの機能面を訴求してきた。しかし近年、家電製品に対するインテリア性にもこだわりを持つユーザーが増えており、視覚的にも“心地よい”と思ってもらえるような、“感性”に訴えるデザインのエアコンを目指した」
キーワードに“感性に訴えるデザイン”が掲げられた同社のデザインの取り組みは2006年にさかのぼる。国内ではこれまであまり注目されてこなかったものの、国内外のデザイン展やイベントに密かに出展・参加を続けてきた。
そして“市場が熟した”状態で、ついに日本で発売されることになった今回の商品で目指したのは“空気を感じられるデザイン”だ。これまでの箱型の典型的なデザインではなく、随所に見られる流線型のデザインが目を惹く。
ダイキンではこれを「ウェーブデザイン」と呼んでいる。曲面的なデザインが風の流れをイメージさせ、風の心地よさを視覚的に表現しているのだという。
一方、前面のパネルが真ん中に向かうにしたがってなだらかにせり出すようなデザインには、機能美も合わせ持つ。両端の厚みを129ミリと薄くすることにより、壁との一体感をもたらす視覚効果が得られる。デザイナーのシュラッグ氏は「エアコンを小さくコンパクトにすることよりも、薄くして存在感を消すほうがユーザーにとっては魅力的ではないかと考えた」と説明する。
さらに、稼動時の動きに対してもデザイン性を強く意識して設計されている。例えば稼動時に開く前面パネルのゆっくりとスムーズな動きは、白鳥が羽根を広げる様子を彷彿させるもので優雅でとても美しい。フラップやルーバー部分も流線型のデザインが取り入れられ、全体的に角をなくすことで、穏やかな空気の流れをイメージさせるものだ。シュラッグ氏によると「角を取って丸みを持たせることでその下に影ができることも、エアコンを薄く見せるトリック」だという。
また、日本の住宅でも増えつつある吹き抜け型の天井のリビングへの設置も考慮して、上から見下ろしても壁との一体感が得られるような処理も施されている。
本体のカラーはシルバーとホワイトの2色を展開するが、シュラッグ氏によると色の選択も空間との調和が強く意識されているといい、「白壁も多いし、白というのは何にでも合う色。一方、シルバーグレーというのは、周りの色を反射する特性があり、色のニュアンスを帯びることができる色で壁になじみやすい。ヨーロッパの住宅はカラフルなペイントされた壁も多いのでこの色を選んだ」と語った。
同社は2015年11月に大阪府摂津市にある淀川製作所内に「テクノロジー・イノベーションセンター(TIC)」をオープン。これまで国内3拠点に分散していた技術者約700人を集約し、空調設備にまつわる先端技術の開発を行う拠点と位置付けられる。
センター内には先端デザイングループも設けられており、今後は今回のような逆輸入というかたちではなく、グローバルでの産・官・学の社内外の連携を積極的に進めながら、日本発で空気・空間のデザインを訴求する製品の開発を行っていくとのことだ。