アルベルト・アインシュタインが1918年に予言した「重力波」。重力が時空を光速で伝わるというこの現象の存在は、これまで間接的に証明されたことはあるものの、未だ直接発見されていはいない。

だが、アインシュタインの予言から100年が経とうとしている今年、世界各地に建設された重力波望遠鏡を使い、ついに重力波を捉えられるかもしれないという機運が高まっている。

米国ワシントン州ハンフォードにある「レーザー干渉計重力波望遠鏡」(LIGO)の施設。 (C) Caltech/MIT/LIGO Laboratory

欧州が2034年に打ち上げを予定している、宇宙に浮かぶ重力波望遠鏡「eLISA」。 (C) ESA

時空のさざ波「重力波」

宇宙にある数多の星々、少し身近に太陽と地球、地球と月、あるいはもっと身近に人と人、さらに手元の鉛筆と消しゴムなど、この世に存在する質量をもつ物体は、「万有引力」によってお互いがお互いを引き寄せ合っている。このことはアイザック・ニュートンが、りんごが木から落ちるのを見たことで発見したというエピソードで有名である。

ニュートンが生きた17世紀から、ほんの50年前までは、万有引力は「一瞬で伝わるもの」として扱われていた。しかし厳密なことを言うと、この考えでは少々おかしなことになる。有名な物理学者であるアルベルト・アインシュタインが1905年に発表した「特殊相対性理論」では、光の速度を超えられるものは存在しないとされているためである。

そこでアインシュタインは、重力作用もまた光速で伝わることを、1916年に完成させた「一般相対性理論」の中で予言した(これは2002年に観測により証明された)。さらにその後、その応用として、質量をもった物体が存在するとそれだけで時空にゆがみができ、さらにその物体がある特定の条件で動くと、そのゆがみが光の速度で周囲に伝わっていくと考えた。そして一般相対性理論を発表した2年後の1918年に、数式によってそれを示し、重力が伝わる時空の波「重力波」の存在を提唱した。

しかし、重力波はその後、約40年にわたって大きな話題となることはなかった。なぜなら重力波の存在を確かめることができなかったからである。

質量があるものには、という条件であれば、たとえばブラックホールのような巨大な質量をもつ天体が動いたときはもちろん、鉛筆と消しゴムを持って振り回したとしても重力波が発生することになる。しかし、そんな波のようなものはどうやっても私たちの目には見えない。

また、鉛筆と消しゴムの間は手の力で簡単に近付けたり離したりができるように、また人間もジャンプすれば簡単に地球の重力に逆らうことができるように、身近にあるものがもつ重力はものすごく弱い。たとえ見られる方法があったとしても到底見えず、かといって強大な重力を人工的につくりだすことも不可能だった。

そこで、それなら遠くの宇宙にある、ブラックホールなどのとても強力な重力をもつ天体から届く重力波なら見られるのではないか、と考えられた。計算ではそれでもほんのわずか、原子核よりも小さな波だろうとは考えられている、もしかしたら捉えられるかもしれない。

アインシュタインの死後、1957年ごろから60年代にかけて、フィーリクス・ピラーニなどの科学者らによって、重力波が数学的、理論的に存在することが証明された。あとは直接、その波を見るだけだった。そして重力波が見られるようになれば、逆に重力波を手段として使い、宇宙を観測することさえも可能になる。

ここから、重力波という目に見えない波を捉え、理解するための挑戦が始まった。