――広告手法の高度化、タッチポイントの多様化によって、広告の指標やビジネスモデルも大きく変化していくと思います。広告のビジネスモデルで今後どのような動きがあるでしょうか?

永松氏:パフォーマンスを目的とした広告については、最適化のロジックや運用方法の進化はあるものの、あまり大きな動きはないと思います。一方で、ブランディング広告については大きな変化があるのではないかと思います。

例えば、最近増えている動画広告については従来のような“1インプレッション”では効果を評価できない場合が出てくる。オンラインの動画広告はテレビのように15秒や30秒といった固定値とも限らない。そこで、視聴時間に応じた課金モデルである「CPH(Cost per Hour)」など新しい効果測定の手法について検討が進んでいくのではないでしょうか。

――確かに、ログデータとして記録されるインプレッション数や再生回数が実態(ネット視聴者の広告接触・視聴)を伴っているかどうかについては、疑問の声が挙がっていましたね。

永松氏:よりネット視聴者の利用実態に合わせた効果測定・課金のモデルの最適化が考えられていくのではないかと思います。例えば昨年は海外で、ブラウザ下部のユーザーが見えない場所に表示された広告を1インプレッションとカウントしていることへの課題意識から、バナーが視認できる場所に表示され、実際にネット視聴者がバナーを見た回数を1インプレッションとみなす「ビューアビリティ」という言葉が出てきていて、この考え方で課金する「vCPM(v=viewability)」というモデルも生まれています。これは日本でも現在検討が進んでいて、より現実に即した課金モデルが普及していくのではないでしょうか。

――vCPMはとても良い発想だと思いますが、広告収益に依存しているパブリッシャーにとっては少し辛いところですね。

永松氏:そこが大きな課題だと思います。アメリカではvCPMでなければ広告を買わないという広告主も多くなってきていて、GoogleやFacebookといった大手メディアも対応を始めています。他のメディアも追随せざるを得ない状況が生まれつつあります。日本ではまだそこまでではありませんが、もし同じような状況が生まれた際には、広告単価をしっかり向上させなければ広告メディアにとってのメリットがなくなってしまいます。その点には十分に注意を払っていく必要があると思います。

――CPCにしても、CPMにしても、単価は右肩下がりの傾向が続いている。それはブランドの認知やトランザクションといった広告主のKGIに対して十分な費用対効果を提供できていなかったからだとも言える。それに対して、vCPMによって費用対効果を向上することができれば、広告単価は向上するのが自然だと言えますよね。

永松氏:そのようなスキームに落とし込んでインターネット広告のエコシステムを活性化していくことが広告会社に課せられた使命なのではないかと思います。

新しい技術、アドテクノロジーにどう取り込むか

―― 昨年はウェアラブルデバイスに対する注目が高まった年でした。デジタルマーケティングはこの動きに追随していくのでしょうか。

永松氏:いくつかアドテクノロジーとして検討する方向性があるのではないかと思います。ひとつは、広告を表示するメディアとしての可能性。ただこれは、表示面の大きさが多種多様などの点から、ハードルはかなり高いのではないかと思います。一方で、広告配信のベースとなるユーザーの状態や興味関心といったデータを取得する手段として活用するという考えもあり、まずはここからウェアラブルデバイスやIoTの活用が進むのではないかと思います。

――また、テクノロジーの世界ではIoTやAI(人工知能)の動きが加速しています。デジタルマーケティングはこうした技術をどのように取り込んでいくのでしょうか?

永松氏:人工知能(特に機械学習やディープラーニング、認識技術等)をどうマーケティングのテクノロジーに取り込んでいくかという点は、既にターゲティングといった広告配信で活用しているものもありますが、さらに研究を進めていくところです。考えられる活動領域としては、レコメンドやターゲティング、予算配分、クリエイティブの最適化、効果検証といった分野ですが、それぞれでどのような活用が可能かを試行錯誤しています。

ネット広告とユーザーが、良い関係を築くために

「これからの広告会社はユーザーに対してもオープンな立場でいなければならない」と永松氏

――AIなどは、収集したデータを基に広告をアウトプットする場面で活用できるのではないかとも思います。例えば、ユーザーはネット広告を“邪魔な存在”だと思っている場合が多い。こうした課題に対して、機械学習や人工知能の活用はネット広告とユーザーとの間に良い関係を築くためのヒントを生み出すのではないでしょうか?

永松氏:それは大いにあると思います。今までは、広告会社はあまりユーザー目線でネット広告を考える立場ではなかったとも言えます。しかし、データとプライバシーの問題を例にとっても、今後はそのような立場では難しい時代になってくるのではないかと思います。広告会社・広告主とユーザーの距離がどんどん近くなってきている中で、広告とユーザーが発展的に良い関係を築くことができるような方法論を考えていくことは、非常に重要だと思います。広告会社はユーザーに対してもオープンでいなければ、立場が難しくなっていく時代になるのではないでしょうか。

――ネット広告そのものに対してユーザーからの支持・信頼を得られなければ、業界全体が高まっていかないですよね。

永松氏:そうですね。スマートフォンが普及したことによって、ユーザーとネットの距離がさらに縮まり、その課題はより顕在化したのではないかと思います。これまでと違って、ネットでは本当に様々な広告手法が生み出されています。様々なネット上のサービスをみても、ユーザーの支持・信頼を得ているものが継続的な成長をしていき勝者となっています。ネット広告とユーザーの間に良い関係を築くためには、考えていかなければならない重要な課題です。