―― 一方で、広告を配信する技術では新しいトピックスはありますか? 広告配信では前述のターゲティング技術はもちろん、効率やコストの最適化などが求められると思いますが。

永松氏:取引の仕組みについては、プライベートマーケットプレイスのようなものが拡大するのではないかと思います。私たちでも、完全オープンな広告オークションでの取引に抵抗のある企業に対して、招待制で厳選された広告主、媒体社だけが参加することができる価値の高い広告在庫のマーケットプレイスを用意しています。

加えて、配信技術については、昨年から注目されてきているアドブロックに対して技術的にどう対処していくかは、少しずつ出てきているところです。例えば、「アドステッチング」という従来のコンテンツ=コンテンツサーバー、広告=アドサーバーという区別を見直して、コンテンツと広告を一体化して同じサーバーから配信するといった考え方や、「ファーストパーティー・アドサーヴィング」といって媒体社もしくは広告主のドメインで広告を配信するといった考え方が生まれています。アドブロックについては日本では話題が先行しているものの、実際のところはまだまだこれからなので早急に対応する必要はありませんが、市場の動向次第では2016年の大きなテーマになる可能性はあるので、今後対応を考えていかなければならないと感じています。

「市場動向次第で、アドブロック対応は重要なテーマになる」と永松氏

テレビとネットの融合、技術的には連携させるロジックが確立へ

――民放各局が参加する「TVer」に代表される見逃し配信の拡大や、オンライン動画を活用したコンテンツマーケティングの発展などを背景に、動画に対する注目も高まってきています。このような動きはデジタルマーケティング、中でもターゲティングや効果測定にどのような影響を与えるでしょうか?

永松氏:ここ最近では、テレビ広告とオンライン広告を一緒に売るという動きは浸透してきていると感じています。ただ、データという点ではテレビとオンラインはまだ繋がりが弱い状態にあって、例えばテレビを観ていない視聴者にオンライン広告を見せたいといったニーズに対しては、まだ明確なロジックが生み出されているわけではありません。テレビ広告とオンライン広告の組み合わせで“リーチを拡げる”という効果を求めようとしても、まだその方法は確立していないのです。

ただ、例えば一部のスマートテレビ(ネット接続が可能なテレビ)で可能となってきた視聴ログの収集が拡大すれば、ネットの視聴ログと組み合わせて広告に活用できるのではないかと考えています。まだ研究段階の技術も多いですが、これまでありそうでなかったテレビ視聴データのデジタル化は技術的にかなり現実的になってきました。これが実用化されれば、テレビとオンラインを連動させたターゲティングのロジックとそれによるリーチの拡大も現実味を帯びてくるのではないでしょうか。

データの利活用とプライバシーの課題は“表裏一体”

――ネットに繋がるシーンが増え、ユーザーとの距離も近づくと、取得できるデータも豊富になる。そうなると、やはりデータとプライバシーの問題は避けて通れないと思います。「広告はユーザーデータをどこまで収集・活用するか」という論点はまだまだ議論の余地があるのではないでしょうか?

永松氏:そうですね。ユーザーにどのような配慮をしてデータを収集・活用するかという点は、改正個人情報保護法の動きなどを踏まえながら当社でも厳しくチェックをしているところです。データを取得するという場面においても、オプトアウトの選択権をユーザーに提供しています。また、当社がデータを取り扱う際も、いくら匿名データであっても細分化された様々なデータを積み上げていくと個人の特定性が高まってしまうので、常にユーザーがある複数のセグメントで固められた母集団で構成されるよう分析ロジックを工夫しているところです。

この問題は、ユーザーの近いところに迫れるようになったからこそ、真剣に考えなければなりません。私たちにとって「データ」は大きな研究テーマですが、それと同じくらい「プライバシー」も重要なテーマだと位置づけており、社内では専門チームをつくり、社外では各業界団体と連携して考えているところです。