今後は独自SIMの発行が急務

今後の展開について福田社長は、来るIoT時代において、「安全・安心なネットワーク」の提供という点で無線専用線が企業基盤・経済基盤として必須のインフラになることを強調。同社はこの分野について、米国での実績があることを挙げ、日本でも既存の固定専用線の10分の1程度で、いつでもどこでもアクセスできる安全なインフラとして提供できると自信を見せた。

日本通信がが担うべき新たな役割について説明。米国ではすでに金融機関向けに、ATM用の回線を無線専用線として販売しており、日本でもそのノウハウを十分に活かせるとしている

そして最後に、世界最高のモバイルインフラを持つ日本でMVNOへの規制が緩和されることで、自動車メーカーや家電メーカー、金融、医療分野での強力なプレーヤーを世界へ紹介していくための支えになりたいとまとめた。

ソフトバンク網を使ったMVNOも検討

質疑応答では、今後の展開について、まずは独自のHLR/HSSを設置して、自社独自のSIMを発行することを最優先課題に挙げた。独自SIMの発行が可能になれば、ただのSIMだけでなくMIM(車載機などに搭載される固定タイプのSIM)やソフトウェアSIMといった形態も可能になる。実現する時期としては2016年度中ということだが、HLR/HSSを設置するのにはコストもかかるのである程度やむをえないところだろう。

独自SIMが可能になれば、たとえば1枚で世界中どこでも利用できるグローバルSIMの提供やAppleがiPad向けに提供しているApple SIMといった仕組みに対応することが可能になることを意味している

また自社SIMが使えるようになれば、アクセス網がキャリアなのかWi-Fiなのかを気にすることなく、どこからでもアクセスできる無線専用線の実現も可能になる。現在はデュアルSIMでドコモ網とソフトバンク網を切り替えているが、そういった手間もなくなるわけだ。

ソフトバンク網を使ったMVNO事業についても言及。スマートフォン利用者の割合が高いソフトバンク向けSIMは、顧客企業からの引き合いも強く、すでにHLR/HSSの解放について協議を進めており、ソフトバンク向けの格安SIMの提供についても意欲を見せた。ただし、これはb-mobileブランドではなく、すべて他社への卸として行うという。

なお、過去には月額980円程度の音声定額などの実現についても触れていたが、独自SIMや無線専用線が実現してから、段階を追って取り組んでいきたいとのことで、早くても2016年度内、実質は来年度からということになりそうだ。

一方、同社が展開してきた「b-mobile」ブランドのMVNO事業は継続するものの、これは低価格なMVNOという見本の意味合いが強いショーケースであり、今後はMSEnablerとしての業態に中心をシフトしていくという。これまでも他MVNOに回線を卸していた日本通信だが、今後はこれを強化して、日本通信/b-mobileブランドを前に出さず、利益構造がしっかりしている法人向け回線に注力するという方向性になるわけだ。これからは日本通信/b-mobileという名前にユーザーが触れる機会は減るのかもしれないが、これもMVNOの多様化が進んできたひとつの証だとも言えるだろう。

なお、同社はこの日、業績の下方修正も発表しており、11億円の黒字から15億円の赤字に転落している。これはMSP事業やSIM事業の下方修正だけでなく、何かと話題になったVAIO Phoneの在庫処分にかかる費用も重荷になっているようだ。MVNOの草分けとして日本のMVNO市場形成に大きな役割を担った同社だけに、ようやく得られた第2の規制緩和を生かして、安定した経営状態に戻してほしい。