App Annieが開催したイベント「DECODE Tokyo : 事業会社のアプリ企画の勘所~アプリを活用した事業促進に向けて~」では、アプリビジネスの第一線で活躍する企業のキーパーソンが、アプリ企画で成功を収めるための秘訣を語った。

イベントの冒頭では、App AnnieでCountry Directorを務める滝澤琢人氏が登壇。「iOS App Store」「Google Play」といった主要アプリストアを、日本および世界で分析した結果を披露した。

App Annie Country Director 滝澤琢人氏

滝澤氏は、「2015年第3四半期のダウンロード数では、Google PlayがiOS App Storeの2倍近くと大きな差をつけているが、課金から得られる収益額ではiOS App Storeの半分近くと数字が逆転している」と述べたあと、国別の動向を解説。「ダウンロード数が急速に上がった国は、近い将来に収益額の市場規模が大きくなると予想されるので要注目」との見解を明らかにした。

最後に、これから注目されるアプリとして、広告ブロックや音楽・ゲームのストリーミング、セレブリティーや子ども向け、スポーツ観戦といった分野が人気になりそうだと述べた。

チーム力で品質向上を目指す

ザッパラス 執行役員 兼 リトルライト 代表取締役社長CEO 野村亮介氏

次いで、ザッパラスの執行役員とリトルライトの代表取締役社長CEOを務める野村亮介氏が登壇。フィーチャーフォンの時代に大きな成長を遂げた同社だが、スマホへシフトするにあたって社内体制の改革に着手したことを話し、現在の体制を、「ヒエラルキー(階層型)」の対極として語られる「ホラクラシー(分散型・非階層型)」だと評する。

ホラクラシーとは、プロジェクト単位に組織を分け、それぞれが自律的に意思決定を行う体制のこと。上司部下のような関係は存在せず、全員がフラットな存在となる。

また、同社はものづくりのプロセスも改革した。野村氏によると従来は、ディレクターが企画仕様書をつくり、これをエンジニア・デザイナーに説明して進めるという段取りだった。しかし、現在はすべての関係者がゼロから関わり、共通認識・理解を持ってプロダクトを共創する体制に変えた。「チーム力がプロダクトのクオリティーを向上させる」と野村氏は自信を見せる。

「この際、自分たちがつくりたいものを目指すのではなく、明確なペルソナを設定し、その属性と合致する人たちのインタビューを通して要件を検証していく」とした上で野村氏は「失敗を恐れることはない」と語る。「失敗に終わっても、仮説を立てて、それを検証するというプロセスの中で学びがあれば次の成功につながる」(野村氏)からだ。

ユーザーの感動がマネタイズの源泉に

一方、「アプリではなく、ライフスタイルを提案するのが目的」と語るのは、スマートエデュケーションで代表取締役を務める池谷大吾氏だ。「世界中の子ども達の生きる力を育てたい」というビジョンを掲げる同社は、知育アプリのビジネスをグローバルに展開している。

スマートエデュケーション 代表取締役 池谷大吾氏

池谷氏によると、国内の会員数は1000万人超で、このうち約5%が月単位で料金を支払うサブスクリプション契約を結んでいる。「創業当初はアプリ内のコンテンツ単位で課金していたが、2年前からサブスクリプションを主体とするストック型のビジネスに転換した」と池谷氏は話す。

アプリのユーザーは子どもであるが、池谷氏は「子ども扱いせず、本気・本物にこだわることが重要だ」と強調する。実際に利用する子どもだけでなく、父親や母親にも感動してもらえなければ、購入や課金に至らないからだ。アプリ内の演出では、本物の楽器で音を奏で、プロの歌手が歌い、プロのナレーターが朗読している。

アプリを安心して使ってもらうために、広告表示も一切ない。一時は数多くの企業が、広告モデルで子ども向けのアプリを提供していたが、大半が撤退してしまったという。池谷氏は「知育アプリは、家族のコミュニケーションを促進するツールでもある。単にアプリを提供するのではなく、子どもたちが健全に育つようなライフスタイルを提案するという気構えで事業を運営している」と語る。

ECとメディアの垣根が崩れる

また、メルカリの取締役となる小泉文明氏は、ECなどのプラットフォームビジネスの動向を解説した。

メルカリ 取締役 小泉文明氏

2013年2月に創業した同社は、同年7月からフリマアプリ「メルカリ」を開始。現在、日本で約2,000万人、米国で約500万人のユーザーを有する(ダウンロード数ベース)。フリマアプリのシェアでは、各種の調査において日本で首位と位置付けられている。

小泉氏は、「同じECでも、PCとスマホではユーザーの行動が大きく異なる」と指摘。PCベースのECでは、ユーザーは買いたいものがある時にサイトを訪問し、価格や性能など商品を比較し吟味する。これに対し、メルカリの場合は、購買意欲がないときでも空き時間にアプリを立ち上げて、タイムラインに流れてくる商品を眺めて購買するといった行動が一般的だという。

「ファッションメディアだと捉えているユーザーも少なくないと思います。こうした意味で、メルカリのことを、ECではなくニュースやソーシャルメディアと同じだと考えていますね」(小泉氏)

PCの世界では、ユーザーにとってECとメディアは別物だったが、小泉氏は「スマホではECとメディアの垣根がなくなってくる」と述べた上で、「既存のサービスの考え方にとらわれず、ユーザーがどのような行動をとるのかを分析して、サービスやマネタイズの方法を設計していくことが欠かせない」と話した。

時にはユーザーを裏切ることも必要

イベントの最後には、NewsPicks 編集長の佐々木紀彦氏をモデレーターとして、ザッパラス・スマートエデュケーション・メルカリの3社によるパネルディスカッションが行われた。佐々木氏は開口一番、「広告モデルに頼らないでマネタイズに成功しているところが、この方たちのすごいところ」と評した。

佐々木氏が「アプリビジネスで成功を収めている秘訣は何か」と問うと、ザッパラスの野村氏は「ユーザーの行動履歴を徹底的に分析してエンゲージメントが高まるポイントを見極めている」と回答。同社では、この分析結果を活用して無料体験などのマーケティング活動を展開し、マネタイズを最大化するように努めているという。

メルカリの小泉氏は「時にはユーザーを裏切ることも必要」と主張し、自分の予想を超えるようなエクスペリエンスが、ユーザーをひき付けるのだと話す。こうした領域は「サイエンスというよりも、アートに近い」のだとか。

スマートエデュケーションの池谷氏は、「まずはユーザーに認知してもらうことが大切。例えば、アプリストアの『おすすめ』で取り上げられると、認知と利用が一気に進む。バーチャルの世界だけでなく、人と人のつながりを築くようなアナログの広報活動にも力を入れるべき」と語った。

なお、同イベントには、アプリ開発者やアプリを活用したビジネスを企画する担当者などが多数参加。アプリビジネスの第一線で活躍するキーパーソンの議論に、参加者一同が熱心に耳を傾けていた。