リクルートライフスタイルが11月に主催したイベント「Airレジカンファレンス 2015」では、「未来の店舗経営を考える ~ 自分らしいお店を作るには?」と題したパネルディスカッションが行われた。

同セッションには、リクルートライフスタイルにて業務支援プロダクトを統括するスモールビジネスソリューション ユニット長の大宮英紀氏と、人気飲食チェーン「Soup Stock Tokyo」を運営するスマイルズ代表の遠山正道氏が登壇。生活者の消費行動の変化に対応するため「店舗運営に必要なもの」について意見が交わされた。

(左から)モデレータを務めたITジャーナリストの林信行氏・リクルートライフスタイルの大宮英紀氏・スマイルズ代表の遠山正道氏

Soup Stock Tokyoの商品作りに、マーケティングは必要ない

遠山氏がまず語ったのは、飲食ビジネスへの強い思いだ。「重要なのは、商品となる"さまざまな料理"を生み出すクリエイティビティに対し得られる共感であり、そこにマーケティングは必要ない」というのが彼の持論だ。

「アーティストが絵を描くために、世の中にアンケートを取ることなんてないですよね。飲食業も『自分たちが実現したい商品=料理』を生み出して世の中に提案することだと思います。そこでは、個人の感性やモノづくりに対する情熱・理念が重要なキーワードになってきます。テクノロジーに任せられる部分は任せて、人は"人にしかできないこと"をやるのが必要ではないでしょうか」(遠山氏)

更に遠山氏は、この情熱や理念をまとめたものとして「新たなビジネスを始めるための4行詩」を紹介。「何をやりたいか」「そのビジネスをやる必然性」「そのビジネスをやる意義」「これまでになかった価値は何か」を持つことが、新たなビジネスを創業する上で不可欠なのだという。

中でも特に重要なのは「これまでになかった価値」で、遠山氏は「もしも、ほかに同じビジネス(スープ専門のチェーン店)を始めている会社があれば、Soup Stock Tokyoは今頃なかったかもしれない。この4行詩がなければ、赤字になっても努力を続ける情熱や、ビジネスを成功させるために挑戦する意義、モチベーションは生まれなかったと思うのです」と当時を振り返る。

Soup Stock Tokyo創業当時のエピソードを語る遠山氏

一方で、お台場に開店したSoup Stock Tokyoの1号店において遠山氏が悩まされたことがある ―― それは悪夢のレジだ。自分たちの作るスープによって新たな価値を創造したいという情熱や理念の前に、煩雑なオペレーションへの対処という課題が立ちはだかったのだ。

遠山氏によると、当時の売上データは電話回線を使って本部に送信するシステムを採用していたそうで、売上データをひとつずつプッシュホンで手打ちしてデータを送信していたのだという。打ち間違えれば最初からやり直し、数字の合計が合わなければチェックに膨大な時間が必要になる。「夜11時に店を閉めてからレジの締め作業を行い、終わるのが深夜の2時になることもあった」と遠山氏は語る。

遠山氏が直面していた当時の苦労は、Airレジを生み出した大宮氏の思いにも通じるものがある。

大宮氏は、Airレジを生み出した背景として「テクノロジーを使えば、人はもっと解き放たれる。面倒な手間を省くことができれば、実現したい理想の店舗づくりやプライベートの充実を実現できるのではないかと考えてAirレジを開発しました。"Air"というネーミングには、存在感を主張しなくても人に寄り添って支える存在でありたい、人の活動の中に空気のように溶け込み、サポートし続ける存在でありたいという思いが込められています」と話す。遠山氏が創業当時に直面した苦労こそ、飲食店の多くが抱える課題であり、Airレジが生まれた背景でもあるのだ。

個人のストーリーが信頼され、支持される時代になる

また遠山氏は、これからの時代について「個人の店舗経営者が生み出す個性が消費者から信頼され、支持されるようになるのではないでしょうか。どんな人が店をやっているのか、どうしてこのような店を作ったのかという"ブレない思い"が信頼の拠り所になります」と語る。

消費者は、店主の思いやストーリーが表現された個性的な店舗や商品ラインナップに共感し、そこに新たなエンゲージメントが生まれるのだ。その際に必要となってくるのが、Airレジのような低コストで、個人経営者が設備投資リスクを背負うことなく手に入れられるサービスだという。

もちろん、こうした時代のニーズに応えるためには、店舗を運営する個人経営者はより一層、店舗づくりにおいて自分自身の個性やストーリーを魅力的に消費者に伝わるように表現しなければならない。そのためには、店舗経営者にとってもテクノロジーに任せられる部分は任せ、自分自身にしかできない作業に集中する必要があるのだ。

この点について、大宮氏は「個人店舗は起業がしやすい反面、創業から2年で約半数が閉店してしまうと言われています。それは、市場の厳しさだけでなく経営者が実現したい店づくりが自由にできないことも一因なのではないでしょうか」と課題を提起し、Airレジのみならず、さまざまなテクノロジーによってこうした個人の店舗経営者の課題をサポートしていく必要性を指摘した。

「個人経営者の思いを実現するためには、個人を支えるサービスがもっと生まれなければならない」と遠山氏

大宮氏は、「理想的な店舗を作るためには、良いパートナーと組んで分業するとよいのではないでしょうか。Airレジは、Airレジにできることをサポートします。課題の中身によっては、他のサービスが必要になることもあるかもしれませんが、店舗経営者を魅力的な店舗作りに専念させることが重要だと考えています」と今後の個人経営の店舗ビジネスの在り方を提案。この大宮氏の提言に対して、遠山氏も「個人の力がもっと活きるためには、足かせや負担を軽減してもっと身軽にならなければならない」と賛同した。