米ベリタステクノロジースがアジア太平洋地域(APJ)のパートナーを対象に開催した「Partner Link Conference」(11月17日~18日/中国マカオ特別行政区)。2日目の講演では「Opportunities in the Cloud(クラウドの可能性)」と題し、同社のクラウド戦略が語られた。

米ベリタス CMO(最高マーケティング責任者) ベン・ギブソン(Ben Gibson)氏

最初に登壇した米ベリタスでCMO(最高マーケティング責任者)を務めるベン・ギブソン(Ben Gibson)氏は、クラウド市場の可能性について力説した。

「クラウドはサービスを提供する側ではなく、クラウドを利用する側の視点で考えることが重要だ。例えば、2009年に創業したオンデマンドの配車サービスである『Uber』はクラウドがプラットフォームになっており、既存の(タクシー業界の)ビジネスモデルを一変させた。さらに、先日マリオットとスターウッドの大手ホテルチェーンが合併し120億ドル規模のホテルチェーンが誕生したが、空き部屋シェアサービス『Airbnb(エアビーアンドビー)』は、その2倍の規模になっている」(Ben氏)

実際にクラウド市場は堅調な伸びを見せている。IT専門の調査会社であるIDCは、今後3年間で企業がIT全体に投資する金額の伸び率は2%増なのに対し、クラウドに対する投資は20%増になると予測している。

中でも伸びが期待できるのは、ハイブリッドクラウドだ。米Gartnerによると、2015年におけるハイブリッドクラウド市場の成長率は50%で、パブリッククラウド(20%)、プライベートクラウド(35%)を大きく引き離している。こうした背景からも、パブリッククラウドに注力し、シェアを獲得していくことが、「ベリタスの新しいプロジェクトの可能性」(Ben氏)であるという。

クラウド市場の成長率。米Gartnerでは2020年にハイブリッドクラウド市場が658億ドルにまで成長すると予測している

さらに同氏は、多くの企業は自社のインフラを「投資型で所有する」よりも「利用型で消費する」方向性に移行していると指摘する。

「顧客はシングルベンダーからすべてを調達するのではなく、オープンでヘテロな環境が当たり前になると考えている。今後、ビジネスで成功を収めるためには、ベリタスも、そしてパートナーも、顧客のニーズに対応していく必要がある。今回ベリタスが独立した企業になったことで、こうしたニーズに対し、迅速に対応できるようになった」(Ben氏)

パートナーは製品ポートフォリオの見直しが必須に

ベリタスでは今後、同社製品のクラウド化を進めていく方針だ。ただし、Ben氏は「クラウドはビジネスを大きく成長させる可能性を秘めたものだが、戦略的に導入/活用しないとリスクにもなり得る」と指摘し、クラウド化がもたらす結果として「データ量の加速」「データのフラグメント(断片)化」「情報ガバナンスの必要性」を挙げた。

クラウドは柔軟に拡張できる環境であるがゆえに、利用者がデータの優先順位を決めることなく"とりあえず"保管する傾向が強い。結果として「データの断片化」が発生し、ガバナンスが効かなくなることがあるというのだ。どの業界においても情報ガバナンスは必須であり、それゆえ、大きなビジネスチャンスにもリスクにもなり得るというのがBen氏の見解だ。

こうした分野に対して情報の可用性を提供する「NetBackup」「InfoScale」や、洞察(Insight)を提供する「Data Insight」が必須となるというのがベリタスの主張である。

ベリタスはクラウド環境への移行を「Cloud Ready」「Cloud First」「Cloud Unified」という3つのフェーズに分け、それぞれフェーズで(パートナーにとっての)ビジネスチャンスがあるとしている。

グローバルチャネル責任者であるマーク・ナット(Mark Nutt)氏は、「パートナーは今までのように(ベリタスの)製品を販売するのではなく、(顧客の)プロジェクトベースでサービスを提供することが求められる。Cloud Readyでは、最初にどの部分のデータをクラウドへ移行し、どのようなデータ管理環境を構築するのかというコンサルティングを行う。その過程において、情報資産の評価、クラウドへ移行すべき部分などをアドバイスする。その選択肢の中には『オンプレミスのまま運用する』こともあるだろう」と話す。

Cloud Firstでは、サードパーティのサービスがつながるようにAPIも公開し、「クラウドポータル」として、情報管理をサービスとして提供するという。例えば、バックアップ/リカバリ製品である「Backup Exec」を使い、情報のリカバリを「Recovery as a Service」として提供する方法だ。

「パートナーと顧客の関係は今後、『ビジネス・ソリューションを提案する側』と『ビジネスを発展させる側』に変化する。将来的にパートナーは、(顧客の)IT部門ではなく、総務部やビジネスの現場の人とディスカッションを重ね、彼らの課題を解決するようになるだろう。彼らに必要なのは、どこにデータがあっても管理できるプラットフォームだ。Cloud Unifiedのフェーズでは、PaaS(Platform as a Service)として、情報管理基盤を提供していく」(Nutt氏)

パートナーによるクラウド環境への移行フェーズ。ベリタスではそれぞれのフェーズでビジネスチャンスがあることを強調した

今回のカンファレンスでベリタスは、パートナーに対して従来の販売戦略からクラウド販売戦略に舵を切るよう訴えた。Nutt氏は、「ベリタスもパートナーにとって、より収益性が高く、ビジネスをしやすいソリューションを提供するよう注力していく」と語る。その一環として挙げられるのが、APJの新しいパートナープログラム「ベリタスパートナーフォース」だ。(関連記事)

講演の最後には同社パートナー代表として、オレンジビジネスサービス、日立データシステムズ、グローバルストレージの3社が登壇し、各社の取り組みを披露した。

オレンジビジネスサービスでデータセンターおよびクラウド担当シニアディレクターのデリック・ロイ(Derrick Loi)氏は、「ITインフラの資産を保有したくないと考える顧客は多い。われわれも(自社で販売するメニューの)ポートフォリオを変えていく必要がある。顧客ニーズを考えれば、(クラウドへの移行は)自然な流れだ」と、ベリタスの戦略に賛同した。

また、日立データシステムズでテクニカルチャンネルマネージャーを務めるガジュン・ガネンドラン(Gajun Ganendran)氏も、「われわれのパートナーも『ITインフラ販売』から『クラウドでサービスを提供』に変化している。今回のベリタスのクラウド戦略には同意する」と、協調姿勢を見せていた。

ベリタスのパートナー企業として登壇した3社。(右から)オレンジビジネスサービスのデリック・ロイ(Derrick Loi)氏、グローバルストレージのギャヴィン・ホフマン(Gavin Hoffmann)氏、日立データシステムズのガジュン・ガネンドラン(Gajun Ganendran)氏。左端は米ベリタスのグローバルチャネル責任者マーク・ナット(Mark Nutt)氏