人の感性に着目した人工知能「SENSY」

カラフル・ボード 代表取締役CEO 渡辺祐樹氏

ビッグデータの活用は、今後、企業が自社のビジネス展開を検討していく上で、避けられない課題だ。需要分析による在庫の削減、顧客の購買意欲を高める情報提供、プロモーション分析など、ビッグデータの活用例を挙げていくと枚挙にいとまがない。とはいうものの、ビッグデータのシステムの構築・運用は非常にコストが掛かかるため、すぐに導入・運用できるものではない。多くの企業が頭を悩ませている状況だ。

こうしたなか、この課題を「人工知能」というアプローチで解決しようとしている企業がある。カラフル・ボードである。

「以前、アパレル系企業を中心としたコンサルティング業務を行っていた際、この業界には共通の課題があることに気がつきました。それは、『アパレル業界は"感覚"が非常に大事な業界のため、生産管理や在庫調整など、非効率なことが課題として残っている』ということです」と、カラフル・ボードの代表取締役CEOの渡辺祐樹氏は指摘する。

ファッション業界の場合、アイテム数が多いため、それらの商品がどれくらい売れるのかを予測するのは非常に困難だ。経験豊富なスタッフが予測を立てても、その予測が当たらず、在庫を抱えてしまうケースも少なくない。なかには、人知れず廃棄されていく商品もあるという。渡辺氏は、その課題の解決に「人工知能」が使えるのではないかと考えたのだ。

そこでカラフル・ボードでは、ユーザーの好みを学習する人工知能「SENSY」を開発。ユーザーごとに個別のSENSYを用意し、ユーザーの好みに合致する情報だけを収集した上で、ユーザーにその情報を提示する。

「SENSYは、人の"感性"に着目しています。ファッションの場合、購入を決める要素は「色や柄」「形」「肌触り」「価格帯」などさまざま。これらの要素がそろった時に、初めて購買に結びついていきます。この要素の組み合わせによる反応を、SENSYは学習していきます」と渡辺氏。

つまり、SENSYで作られるプラットフォームを使えば、アイテムを販売する前に、高い精度の需要予測が可能となるのだ。その結果、在庫の最適化も図ることができるようになる。

人工知能を使うメリットは、ほかにもある。スタッフの経験など属人的なデータではなく、客観的なデータに基づいて戦略を立てられるようになるため、安定した結果が得られるのだ。

「Eコマースのみならず、SENSYを実店舗の接客でも使おうという動きもあります。三越伊勢丹ホールディングスさまは、SENSYを使ってお客さまの好みにマッチしたアイテムの提案を行っています。この実例から、対面での接客に対してもSENSYが有効に使えるという結果が出ています」と渡辺氏は語る。

SENSYは現在、ファッション業界を中心に展開しているが、ほかの業界に応用して活用することも可能だ。ファッション業界のように「属人的な経験」に頼った経営を余儀なくされている企業は、SENSYの仕組みを使って業務改善できる可能性が非常に高い。   「例えば、グルメや音楽、旅行、ヘルスケアなどの業界でも有効活用できるポテンシャルを持っているはず。今後、こうしたジャンルの企業にもアプローチし、コンテンツを保持しているパートナー企業を増やしていきたいですね」と、渡辺氏は今後の展望を語った。

SENSYのサービス全体像

B2C/B2Bでの利用が進む人工知能プラットフォーム

このように、SENSYをうまく活用すれば、多くの業界の課題が解決できそうだ。ここで気になるのが、導入の障壁だが、SENSYの導入は非常に容易だという。SENSYを導入する際にやるべきことは、Eコマースなどのサイトのソースに数行を加えるだけ。SENSYはサービスとして提供されているため、自社内でシステムを構築・運用する必要がないのだ。これなら、中堅・中小規模企業でも、簡単に導入できる。

もちろん、もっと詳細にSENSYを活用したい場合は、APIを使ってシステム事態にSENSYを組み込むことも可能だ。

「SENSYを使えば、接客はもちろん、売り場編成、供給の最適化など業務全体の効率化の支援はもちろん、デジタル広告やメールマガジン配信のパーソナル化といったマーケティング活動にも使えます。グローバル展開している企業などでは、国ごとの傾向をリアルタイムに把握するという使い方も可能です」と、渡辺氏は力を込める。

接客・MD最適化・マーケティング活動といった一連のプロセスを大きく改善する、SENSY。もしこれを商品開発などに活用できれば、人間が思いつきもしなかった新しい商品や領域を生み出すかもしれない。人工知能が今後、企業にとって有効なツールになる可能性は大きい。

アプリ「SENSY」の画面