マイクロソフトのSurfaceシリーズの新モデル「Surface Book」が登場した。これまでのタブレット型を拡張し、高性能を追求した2-in-1デバイスとして注目を浴びている。日本での発表を目前に控え、Surface Bookの可能性を改めて検証する。
10月6日に米マイクロソフトが開催した発表会では、「Surface Pro 4」の登場が期待される中、サプライズとして「Surface Book」が登場した。これまでのタブレットベースの2-in-1とは異なりノートPCをベースにしていることから、「マイクロソフト初のノートPC」としても注目を集めている。
名前の通りPro 3の進化形であるSurface Pro 4も、順当にスペックが向上。だが画面サイズが大型化したPro 2からPro 3への進化に比べれば驚きは小さい。このSurface Pro 4が「生産性」用途向けの製品であるのに対し、「創造性」用途に向けたのがSurface Bookになる。
日本では10月22日、日本マイクロソフトが新型Surfaceについての発表会を開催する。この記事では、この場において国内向けの正式発表も期待される、Surface Bookの可能性を検証したい。
キックスタンドを捨て、外部GPUを得たSurface Book
2012年に登場したWindows RT搭載の「Surface RT」以降、同シリーズの特徴的なシルエットを形作ってきたのが、キックスタンドの存在だ。
iPadの登場以来、タブレットを立てるためのアクセサリーには事欠かないが、Surfaceはスタンドを本体背面に内蔵。単独で自立できる設計になっている。
タブレットが自立できるなら、キーボード設計の自由度は大きく高まることになる。このイノベーションによりSurfaceは、カバーとしても利用できる薄型のキーボード「タイプカバー」を用意できた。2-in-1デバイスとしての地位を不動のものにしているのは読者も周知の事実だろう。このデザインはタブレット型の最新モデル「Surface Pro 4」においても、もちろん踏襲されている。
Surface Bookもまた、ディスプレイ側にPCとしての基本機能を搭載しており、タブレット単体で利用できる。
しかし、キックスタンドは搭載せず、キーボード側には一般的なノートPCと同じくしっかりとした厚みを持たせた。このキーボード部分にUSBポートや追加のバッテリーを搭載する機種は珍しくないが、Surface BookではモデルによりNVIDIA製のGPUを搭載する点が大きな特徴になる。
つまりSurface Bookは、タブレット状態ではインテルのCoreプロセッサーに統合されたGPUを用いる。一方でキーボードと合体したノートPC状態では、キーボード側の外部GPUを利用することで性能を引き上げている。
かつてレノボのThinkPad Helixでは、キーボード側に冷却ファンを搭載することでCPUの性能を引き出す仕組みを備えていたが、キーボード側に外部GPUを搭載したのは技術的にも目新しいものとなる。
ノートPCとタブレットが分断するアップルに対抗
だが、モバイル利用が中心の2-in-1において、ここまで高い性能を誰が必要とするのだろうか。
Surface Bookの中でも外部GPUを搭載する上位モデルは1899ドルからと、ノートPCとしてかなり高額だ。そのターゲットは、出先でもAdobe製品を活用したいクリエイター層などに限られるだろう。実際、マイクロソフトがSurface Bookを真っ先に展示したのも、米国で開催されたクリエイター向けイベント「Adobe MAX」だ。
同じカテゴリーの製品として、VAIOによる高性能タブレット「VAIO Z Canvas」もある。10月からは米国のMicrosoft StoreでVAIOの販売が始まっており、Surface Bookもその隣に並ぶはずだ。これらの高性能2-in-1デバイスが狙い撃つのが、クリエイター向けのノートPCとしてデファクトスタンダードとなっているアップルの「MacBook Pro」だ。
ノートPCとしての基本性能に優れるMacBook Proだが、タッチ操作やペン入力には標準で対応していない。一方、11月発売の「iPad Pro」はペンに対応するものの、処理性能やOSの汎用性の面ではiPadの延長上にあり、「大型のiPad」という印象が強い。
この一長一短ともいえるMacBook ProとiPad Proを、1台に統合するポテンシャルを持っているのがSurface Bookだ。ノートPCと同じCoreプロセッサーと高速なSSDを搭載し、フルスペックのWindows 10が動作する。Surfaceシリーズと同じ高精度のペンはもちろん、外部GPUも搭載できる。まさにSurface Bookは2-in-1として「全部入り」の存在だ。
Macを中心に使ってきたクリエイターとして、Windowsへの移行はたしかに面倒だ。だがAdobe製品はサブスクリプション版のCreative Cloudが登場したことで、追加投資することなくMacとWindowsの行き来が可能になった。
デザインや映像の現場ではMacを前提としたワークフローが確立しており、容易に移行できるものではないが、クラウドを導入できればOS依存を減らせる点は多いのではないだろうか。
Surface Bookを日本市場でどう位置づけるか
発表会の中で気になったのは、マイクロソフトがSurface Bookの発表にあたってアップルを強く意識したビデオやスライドを用いた点だ。発表会からは「なんとしてもアップルになりたい」というマイクロソフトの強い意志が感じられた。
ビジネスの世界がWindowsを中心に回っているように、クリエイターの世界の中心にはMacがある。この流れを変えるためには、単にスペックや価格性能比に優れた製品を出すだけでなく、Surfaceにアップル製品を上回る魅力があることを証明する必要がある。
だが、マイクロソフトはアップルと異なり、世界中のPCメーカーが競い合う中で生まれてきた多様なデバイスを取り込み、エコシステムの強みとしている。
Surface Bookを「史上最高のノートPC」と定義すれば、矛盾が生じることになる。この路線を突き進めば、マイクロソフトのPCこそが純正品で、その他のPCは互換機なのだという印象をユーザーに与えかねない。
今のところ、その舵取りは絶妙なバランスを保っているように見える。10月14日、日本マイクロソフトがパートナー企業15社を招いて開催したWindows 10デバイスの発表会では、260もの新機種が登場することが明らかにされた。米国とは逆に、新型Surfaceより先にパートナー企業のデバイスを優先して紹介することで、配慮した形だ。
果たして日本市場において、Surface Bookをどのように位置づけるのか。単なるアップルの後追いではない、マイクロソフトならではのアプローチに期待したい。