元・駐中国大使で、現在、日中友好協会会長の丹羽宇一郎氏は15日、日本記者クラブで会見を開き、中国の政治経済問題や日中関係について自身の見解を述べました。
「習近平体制は2020年まで続く」
まず習近平国家主席が率いる中国共産党体制について丹羽氏は、
「習近平体制は続かないのではないかという声もあるが、私は2020年まで習体制が続くと見ている。今月、習氏が訪米するが、オバマ大統領は国賓として彼を招待した。これは情報収集国家である米国が、習体制は安定していると判断している証拠だ。今回は長時間の会談となるだろう。
中国は9月3日に軍事パレードを行ったが、国慶節以外の軍事パレードは初めてであり、戦車を含め、全て国産であることを大々的にアピールした。国内外に習氏が独裁政権を握った証拠を示すことに成功したのだ。国民に対しては人民解放軍を掌握し、9割型、独裁政権が確立していることが伝わった。
こうなると、政権に尻尾をふってすり寄ってくる人間は山ほどいる。戦後の日本もそうであったように、権力のもとには知識人もすり寄る。今、習政権は自信を持っており、崩壊することはないだろう」
と分析しました。
「中国経済は崩壊しないし、世界経済をダメにすることはない」
また、中国景気の減速懸念について丹羽氏は、
「中国に関するデータや情報はいつも不足しており、誰も答えを持っていない。ただ、中国が7%の経済成長率を下回れば中国は終わるのかという議論はバカげた議論だ。中国経済は崩壊しないし、世界経済をダメにすることはない。あくまで、うまく舵取りしないと世界景気に悪影響を与える可能性があるということにすぎない。
中国景気は地域差もあり、例えば重慶は11%程度の成長率であったとしても遼寧省では2~3%程度の成長率に留まっていたりと、上下にかなり幅がある。平均すると7%ということだ。これは戦後の日本でも同じだった。
成長途上の国は、言ってみれば千円クラブの中にいて、千円クラブで10%成長すれば100円を得るが、経済成長して一万円クラブの仲間入りをすれば、5%の成長で500円を得ることができる。一万円クラブに入った中国が10%成長したままでは、それはバブルであり、むしろ今は経済成長を落とすべきだ。
中国は今、生産や設備投資の過剰を整理し、ゴミやほこりを清掃している最中だ。株式市場の下落も一部への影響に留まり、中国景気全体への波及は少ない。
今後は中国共産党樹立100周年に向けて、世界最強の製造業国家を目指し、国有企業も合併が進むだろう。現在、国有企業は12万3000~4000社あり、そのうち中核となっているのは120社程度だが、その120社が中国企業の利益全体の5割以上を占めている。国有企業の体制を改革するなかで、コスト削減を進めていく方針だ。これからは、通商交渉が中国の大きなテーマになってくるだろう」
との見通しを示しました。
「共産党が嫌いだからという理由で中国を避けるのはやめた方が良い」
さらに日中関係について丹羽氏は、
「日本はまだ中国の何十年も先を歩いている。教育で見ても20年先行している。年間1635万人が生まれている中国では、一般労働者の教育は不十分になりがちで、平均的に力を上げていくことは難しい。
ただ、20年後はわからない。ハーバード大学への留学生の数を見ても中国人学生が500人超であるのに対し、日本人学生はたったの十数人だ。今のうちから中国市場に参入すべきであり、共産党が嫌いだからという理由で避けるのはやめた方が良い。思想や哲学で経済を進めるべきではない。儲ければ良いのだ。ただ、日本の評判や信用を失うようなことはしてはいけない。
AIIBについても、日本にとってプラスになるのであれば参加すればいいのだ。実情として、本当に妙味のある本格的な事業はAIIBの案件にせず、中国は独自に受けている。多額の大きなプロジェクトは中国独自でやるため、AIIBの機能もそれほどにはならないだろう。それは日本だって同じことだ。本当に必要な多額の事業は自国のみで請け負っている。
ただ、『すべての道は北京に通じる』の思想を要としたシルクロード経済圏が構築されていくなかで、日本は中国との関係を良好に築いていくべきである。そのためには、民が官を動かす姿勢が必要だ。政治は思想や哲学が入り、なかなか解決しない。
2017年は国交正常化45周年となるが、国家式典を民間主導で開催し、日中の398の姉妹都市が様々な交流をすべきだろう。ここに向けて私も尽力したい」
と自身の見解と抱負を示しました。
執筆者プロフィール : 鈴木 ともみ(すずき ともみ)
経済キャスター・ファィナンシャルプランナー・DC(確定拠出年金)プランナー。著書『デフレ脳からインフレ脳へ』(集英社刊)。東証アローズからの株式実況中継番組『東京マーケットワイド』(東京MX・三重テレビ・ストックボイス)キャスター。中央大学経済学部国際経済学科を卒業後、現・ラジオNIKKEIに入社。経済番組ディレクター(民間放送連盟賞受賞番組を担当)、記者を務めた他、映画情報番組のディレクター、パーソナリティを担当、その後経済キャスターとして独立。企業経営者、マーケット関係者、ハリウッドスターを始め映画俳優、監督などへの取材は2,000人を超える。現在、テレビやラジオへの出演、雑誌やWebサイトでの連載執筆の他、大学や日本FP協会認定講座にてゲストスピーカー・講師を務める。