昨今、激化している「ご当地プロモーション合戦」。そこに強烈な一石を投じた愛知県の観光キャンペーン「モノスゴ愛知でマツケン」をご存じだろうか。キャンペーン名だけでも内容(というか、登場人物)は分かるものになっているが、まずはご覧いただきたい。

国宝指定されている犬山城と、城と化したマツケン

風光明媚な観光地やご当地グルメのキレイな写真と、マツケンこと俳優・松平健氏をなぜか対比させていて、1発ならまだしも同様の構成のものを数多く制作している。すでに駅構内などでポスターを見かけた人もいるかもしれないが、Webであれ紙媒体であれ、一度見たら忘れられないインパクトがある。

観光誘致のキャンペーンとしてはやや異色なこのキャンペーンについて、広告ビジュアルを手がけた電通中部支社 クリエイティブディレクター・尾崎敬久氏にお話を伺った。

明治時代の歴史的建造物を保存・公開する野外博物館「明治村」で見ることができる、かつて新橋~横浜間を走行していた「蒸気機関車12号」と、お供を後ろに従えて白馬でひた走るマツケン

――一般的な名所紹介のアピールだけではなく、マツケン(松平健氏)と対比した広告クリエイティブを展開したのはなぜですか?

観光誘致の場合、きれいな観光名所の写真があれば表現は成立する、と考えがちですが、今は生活の中に広告が溢れています。そんな中、人を振り向かせるためには、強い表現のフックとユーモアセンスが必要不可欠だと考えました。

松平健さんのご出演により、愛知県が持つさまざまな観光地が「本物」であると証明されると同時に、観光地を模したいでたちでご出演いただくことで特別な「ユーモア」が生まれます。その「ユーモア」が、まさに人を振り向かせるフックになると確信しました。

南知多町でとれる天然とらふぐを用いた生の薄造り「てっさ」と、白い着物に身を包んだマツケン

――また、愛知県出身の著名人は多くいる中で、マツケンこと松平健氏を起用した理由を教えてください。

松平健さんを起用させていただいた理由は、単に愛知県のご出身である、というだけではありません。大切なのは、愛知県の観光名所を、上質なユーモアセンスとともに魅力的に伝えていけるかどうか、という点でした。

「暴れん坊将軍」をはじめ、数々の時代劇でお見せいただいたその本物感。と同時に、マツケンサンバ等の大ヒットでお茶の間を沸かせたユーモアセンス。その両軸が、松平健さんの最大の魅力です。愛知県の持つ魅力が、本物感と上質なユーモアセンスをまとう松平健さんとの相乗効果によって、より特別に、よりチャーミングに見えると確信し、松平さんにぜひご出演いただきたいと考えました。

春だけでなく秋にも開花する「四季桜」(愛知県・豊田市小原地区)と、アフロで咲き誇るマツケン

――名所や名物を力技で「マツケン」とリンクされていますが、特にこれはハマったと思うものを教えてください。

犬山城と四季桜です。

犬山城は、お城の和服化に苦労し、四季桜はアフロを本物に見せることに全力を注ぎました。愛知県の名所をイメージした衣装を製作する際は、全力でユーモアを表現できるように"おもしろい"よりも"ファッション面で素敵"という方向を目指して製作を進めました。

――地域振興券はさまざまな都道府県で展開されていますが、「モノスゴ愛知でマツ券」というユニークなネーミングは特徴的です。この名称の決め手は何だったのでしょうか?

この観光誘致キャンペーンの軸となる統一キャッチフレーズを「モノスゴ愛知でマツケン」としています。愛知県には、想像以上にすごいモノ(=観光資源)がある、だから愛知県はとにかくものスゴい!というふたつの意味をかけて語呂よくフレーズ化した「モノスゴ愛知」。そんな愛知県は、全国のみなさんが来てくれるのを待っています、という意味と、松平健さんの愛称「マツケン」をかけ、複合させたキャッチフレーズです。

そのため、チケットの名称にも統一キャッチフレーズを使用することで(最後のケン→券に変換)、一気通貫した広報を目指しました。

東三河地域の伝統文化・手筒花火と、花火のように輝くマツケン


狙い通り、「人を振り向かせる」ことには成功しているように感じる同キャンペーン。情報が氾濫する中でいかに注目を集めるかという点では、広告分野のみならず、クリエイターにとっても参考となる事例かもしれない。

なお、宿泊券・観光券の購入や観光地・名物の解説については、特設サイトを参照してほしい。