任天堂のWii Uソフト「Splatoon(スプラトゥーン)」。発売から1カ月ほどで世界累計販売本数が100万本を突破するなど、非常に勢いのあるスタートを切った同社の新規タイトルは、「マリオ」「ゼルダ」などの歴史あるゲームタイトルと比べると「やんちゃ」に映るキャラクターデザインや、インクの鮮やかな色選びなど、ビジュアル面にも目を惹くものがある。

インタビュー前編では、主にプレイヤーキャラ「インクリング」のキャラクターデザインなどについて聞いていったが、後編では同作の特徴的な「ファッション」をはじめ、魅力的なサブキャラクターなど、同作の"イカ"したデザインのひみつについて、任天堂 情報開発本部 制作部の野上恒氏(プロデューサー)、井上精太氏(アートディレクター)の両名からお話を伺った。

「スプラトゥーン」パッケージ

任天堂 情報開発本部 制作部 プロデューサー・野上恒氏(右)、アートディレクター・井上精太氏(左)

※本稿では、スプラトゥーンをプレイしているデザイナーやイラストレーター、サウンドクリエイターなどの協力を受け、彼らが同作に向ける「クリエイターの視点」をヒントに、同じくプレイ中の筆者が質問を構成。適宜クリエイターからのコメントを引用しながらお届けする。

――このゲームの大きな特徴として、いわゆる装備にあたる「ギア」がTシャツやスニーカー、キャップなど現実のファッションを模したものになっていて、「試着」可能な「ファッションビル」で、「ショップ店員」から買うこと、そして売られているアイテムは多分にストリートファッションのテイストを取り込んでいるのが特徴的です。このようなシステムになった理由は何だったのでしょうか?

イラストレーター・田中寛崇(28)・男性
■お気に入りのブキ:スプラシューターコラボ
どんな組み合わせでもオシャレになってしまう各種ギアのデザインのおかげでそれぞれのオリジナリティを出すことができて、「うちのイカが一番可愛い!」と思わせてくれる。

プレイヤーは、自身があやつるインクリング(略称イカ)が着用する「ギア」をファッションビル「ブイヤベース」(画像の左に写っている建物)で購入するシステム。自分好みの「アタマ」(眼鏡やヘッドホンなども含む)、「フク」、「クツ」を身につけてバトルに臨む

井上 : 「ギア」に関して、90年代のハイテクスニーカーブームに象徴されるような、自分自身が「一番モノがほしかった時代」のアイテムをギアに落とし込んでいます。既存のスニーカーの色違いの「限定モデル」を、みんなが欲しがっていたあの頃、と言いますか。

野上 : 別注モデル、とかね(笑)

※別注モデル=メーカーとその他のブランドとの共同開発製品のこと。近年で言うところの「コラボモデル」。

井上 : 「一番欲しいもの」をコレクションアイテムとして手に入れていくという点に説得力が出せて、思い入れを持って作れるなと思ったのが理由です。また、スタッフも自分と近い年齢の人が多くて、「その当時は子供だったので買えなかったもの」を意識して制作しました。90年代を中心としたこういったファッションは、最近の人には新鮮に、同世代や少し上の世代の人には懐かしく感じてもらえると思っています。

野上 : 自分たちが好きだったり憧れていたりしたものを、あえて入れていますね。

井上 : そうした理由のほか、プレイヤーの年齢設定をティーン(14~15歳)にしたいと考えた時、例えば、魔法使いのような恰好もできるとイメージがズレてしまいます。(ストリートファッションは)10代の人たちがいたずらをするような、エクストリームスポーツをいい雰囲気に見せてくれるファッションだと思うので、そのあたりにぶれがないようにはしています。

――また、おおよそどのフクやクツなどを組み合わせてもコーディネートが成立するというイラストレーターの方のコメント通り、普段ストリートファッションを着ない人でも見た目にコダワリを見せることが可能になっています。それぞれのアイテムとコーディネートについて、どんな工夫をされたのでしょうか?

井上 : 遊ぶ人が、それぞれの好みでなるべくたくさんの答えを出せるように、もの選びの段階で、ある程度その他のアイテムとの相性を考えてセレクトしています。特定のアイテムと組み合わせないとおかしく見えるデザインもなるべく避けています。

色使いについては、どのアイテムもカラフルに見えるのですが、灰色などモノトーンの色合いを間に入れて、バランスが取れるように設計しています。試合によってインクの色と連動して髪の色が変わり、アタマに強い差し色が入れられないという制約もありましたので、カラフルに見せつつ、わりと渋い色を多く使う設計にしています。

また、シルエットを大事にしています。全部おなじ方法でデフォルメするのではなく、例えばスリッポンのような平たいクツはリアルめにしている一方、バッシュ系のクツはデフォルメをかなり強くかけています。

フクで言うと、シャツの腰部分をキュッと締めるとコンサバティブな、大人の女性のような印象に見えてしまうんですが、そうではなくて身ごろを広めに取って、だぶっとしたシルエットになるようにしています。シルエットを整えたことで、全体のバランスが取れているのかなと思います。同じ帽子の形でもかぶり方を変えたり、重ね着の組み合わせのバリエーションなど、アイテム単品の中でも、ただ身に着けるだけでなく着こなしている雰囲気がでるようにこころがけました。

ギアの装備状態の一例

――ガールとボーイは基本的に共通のギアですが、ユニセックスなデザインの系統のフクなので成立しているのですね。

井上 : おっしゃるように基本のデザインは変えていないのですが、例えばTシャツの袖丈であれば、ガールは詰め気味にしているのですが、ボーイはきもち長めくらいにしています。それと、スカートなどどちらかの性別向けのものはあまり展開していないです。

野上 : ストリートファッションはそういった点でも相性がよかったと思います。