――ショップ店員はイカとは異なる海洋生物に近い生き物で、フク屋の店員・エチゼンは街ゆくクラゲよりも一段上のオシャレさでありつつ言葉遣いが独特であったり…

野上 : ええ、独自に進化していますね。

――また、クツ屋の店員・ロブはエビフライのようなフクを着ていて「アゲアゲ」が口癖だったりと、ブラックジョークやひねりのきいた個性派ぞろいです。こうした個性派キャラクターの考案について、どんなプロセスで進められたのでしょうか?

野上 : 基本にあるのは「だじゃれ」なんです。プレイヤーがイカだから海の生き物しばりで行こうと決めて、ブキ屋はミリタリーマニアでヘルメットをかぶってるからカブトガニとか、でも、その中になぜか1匹だけ猫がいるとか、そういうツッコミどころのある世界にしようとしていました。

たとえばアタマ屋の店員のアネモの場合、帽子もメガネも売っているような雑貨屋の店員であれば、どういう人かなと考えていって決めていきました。

「アタマ屋」の店員・アネモ(左)。この店ではインクリングが「アタマ」に身につけるものを取り扱っていて、帽子やヘアバンドのみならず、メガネ、コンタクト、ヘッドホンなど多様な品ぞろえだ

井上 : アネモはイソギンチャクで、「アタマ屋」の店員なのでやはりアタマが特徴的ですね。

――フク屋の店員であるクラゲのエチゼンは、どういった発想から生まれたのでしょうか?

野上 : ハイカラシティの中にたくさんクラゲはいますが、彼は唯一イカとしゃべれるクラゲなんです。ああ見えて努力家で、カリスマ的存在、"スカしたやつ"です。

――スカした?

野上 : 体が透けてるので(笑)

「フク屋」の店員・エチゼン(左)。この店ではインクリングが体に身につけるフクを扱う。エチゼン自身もかなりのファッショニスタで、毎日来ているフクが変わっている

――なるほど(笑) では、ロブの体がまるでエビフライのように"揚がって"いるのは?

井上 : 「クツ屋」の店員のロブがエビなのは、足がいっぱいあってクツがたくさん履けるから、という機能的な部分を見て決めています。

クツ屋の店員なので「足がたくさんあることに納得感のある生き物」がいいだろうということで、最初、ロブは毛虫だったんです。その後、すべての登場キャラクターを海の生き物にすることになったのですが、毛虫としてデザインを進めていたころのフォルムがいいよね、という話になって、毛虫を海洋生物に置き換えるとしたら、コロモをつけるエビフライしかない、と。

――しかない…でしょうか!?

井上 : もちろん、紆余曲折があって決まってはいるんですけれど、"引っかかりのある面白いところ"はなるべく残すようにしています。

――ちなみにロブの体にある茶色い部分は結局フクなんですか、それとも…

井上 : あれはコロモ(衣)ですね。

「クツ屋」の店員・ロブ(左)。すべての足にクツを履いていて、特徴のあるコロモ(衣)を着ている。「アゲアゲ」が口ぐせ

井上 : そもそも、店員については「街にいそうな人たち」をベースに考えました。関西であれば大阪のミナミで、東京なら渋谷など、そういった街にいそうな人というのをイメージしています。

野上 : 例えば、ロブは28歳ってことにしています。

――意外と大人ですね。

井上 : 年齢や生い立ちまで全部妄想しています。ロブは車エビなんですけど、ロブスター、ロブスターと仲間内でいじられていて、そこからロブというあだ名になっていて…というような。街の若者があだ名で呼び合ったりするので、そういう感じで名前をつけています。

――確かに、姿かたちは特異なのに「いそう」な感じがして不思議だったのですが、そうしたバックボーンがあったんですね。

井上 : あとは、プレイヤーがローティーンという設定なので、彼らがリアルに憧れられる人たちであってほしいというところから、カリスマショップ店員の方とか、そういう雰囲気にしています。

野上 : ブイヤベースも、実在するところでは「渋谷109」のイメージです。ある程度の年齢になったら、ちょっと1回行ってみたいと思うような場所ですね。そんなところで働いているヒトなので、あこがれの存在という感じなんです。

――ショップ店員ではないですが、路地裏で怪しい稼業を営んでいるダウニーについても教えてください。

ハイカラシティの路地裏に座っている「ダウニー」。どことなくアブない雰囲気だが、彼にアイテム「スーパーサザエ」を渡すと、「ギア」の性能を搭載するためのスロットを増やしてくれる。その他、街中の他のインクリングの着ている「ギア」を取り寄せてくれるなど、バトルにいそしむプレイヤーには頼りになる存在だが、彼のかたわらのスーパーサザエたちは小刻みに震えている?

野上 : 彼はウニです。

――ショップ店員とは違う立場ですが、実在しそうなリアル感という意味では共通点があります。どういったイメージでデザインされたのでしょう?

井上 : この人は機能から生まれたところがありまして、テーマは「路地裏にいるヒト」というようなところでした。モノを右から左に流して生きているという感じですね。

野上 : 街のちょっとだけ暗い部分というか、そういうところも含めてリアルさを出したかったんですね。ハイカラシティはすごく小さな街なので、プレイヤーの移動できるところは街の機能のごく一部だけを切り出したような構成になっているのですが、ダウニーのようなヒトがいることで、あの街はもっと広がっているんだなという想像していただけるというか。

ダウニーがサザエをどこからか手に入れていると言うことは、おそらくそれを渡してくれているヒトがいるはずなのですが、そういう背景がうかがい知れるような雰囲気にしています。

井上 : ダウニーはけっこうイケメンという設定で、やっていることは"良くなさげ"なんですけれど、そういう「雰囲気カッコイイ」みたいなところでモノをうまく流せてしまっている、という感じのヒトなんです。彼はたぶん、将来にはぼんやりした不安を…。

――ダウニーに不安があったんですか!

野上 : 「こんなこと、2年も3年もやってられないだろう」というような不安があるんだと思いますね。「おまえを見てると、オレもがんばらないとなって思う」とか言いますし。

井上 : でも、なかなか現状は変えられないし変えることもしない雰囲気というか。そういうもので固めていくことで、ハイカラシティという街や、作品全体のちょっとやんちゃなムードを助長するようにしています。