KADOKAWA・DWANGOは9日、教育事業発表会を行い、2016年春に「ネットの新しい高校」を設立することを明かした。代表取締役社長の川上量生氏と取締役相談役の角川歴彦氏が登壇し、デジタルネイティブ世代が夢見る理想の高校を目指すと発表した。

取締役相談役 角川歴彦氏(左)、代表取締役社長 川上量生氏(右)

同社は、両社が培ってきた強みや人材、目的を一つにして、より魅力的なコンテンツの創出や、革新的なサービスの提供を行っていくことを目指す中、その一つとして新たに取り組むのが「教育事業」だという。

「ネットの高校」、きっかけはゲームクリエイターの声

発表会の冒頭で川上氏と角川氏は、今回「ネットの高校」を設立することになった経緯を明かした。

川上氏「ドワンゴの関連会社のMAGES.に志倉千代丸という者がいて、彼が『角川ドワンゴだから、今の高校生が望むような高校を創れる』と話していた。今不登校が問題ですが、学校に行っていない人って、おそらく『ニコ動』(ニコニコ動画)を見ていたり、角川のライトノベルを読んでいるのではないか。そう考えると、僕達だからこそ解決できることがあるんじゃないかと思って創った次第です」

角川氏「ゲーマーの間で著名なクリエイターとして有名な彼が高校を創りたいという話を聞いて、初めは戸惑ったんですが(笑)。趣意書を拝見すると、よくできていて。考えてみると、高校生には、ゲームが好きな人が沢山いて、MAGES.のようなゲーム会社は、優れたクリエイターが欲しい。これからは、スマホを持ってSNSやゲームを楽しむ若い世代から、新たなクリエティブが生まれると思っているので。とはいえ、そういう提案が出たのは、カルチャーショックでしたよ」

なぜ今「ネットの高校」なのか

次に、通信教育も増える現代で、「ネットの高校」を設立した社会的背景を語った。

「不登校生数」と「人口」の推移グラフを見る様子

角川氏「高校の不登校生は17万人ほどいると言われていて、人口は減少しているが、小・中学校で不登校生数は高止まりしている。そして実は小・中学生の時に不登校生になった人も多いと考えられます。そういう意味で、不登校生って本当に大きな社会問題なんだなあと。それを僕らが参加して解決することが大きなテーマなのだと思います。

また、戦後にできた学校教育制度が制度疲労を起こし崩壊しかかっている。例えば、高度経済成長時代、大学は社会が求める経済人として迎えるためのものだった。ところが、経済が多様化すると、大学生は画一化し多様性がなく、高校生さえも"いい大学に行って、いい会社へ行くための予備校"になってしまっている。でも、本当の親の気持ちというのは、自分の子供が夢を見つけて叶えてほしいということだと思うんです」

川上氏「今の不登校生の人達は、悪い言い方をすればネットに逃げている。一方で、ネットに救われている部分もある。だからこそ逆に、これからのデジタル時代に、普通の人よりも適性があるのかもしれない。潜在的に日本の隠れた財産として眠っていると思うんです。

ドワンゴも、最初はネットをやりすぎて社会からドロップアウトした人達を中心に創った会社だった(笑)。彼らは、社会生活を送る能力はないけど、ネットのものをつくるスキルはあった。そういう人達も、眠っていると思います。特に若い人達であれば、まだまだやり直せるチャンスがある」

角川氏「角川とドワンゴはよく似たところがあって、サブカルチャー、ポップカルチャーが好きな人が、両社を好きだったりする。そういう人達が自然に小説家になりたい、アニメ作りたい、ゲーム作りたいと思った時に、受け入れる社会になっていない。国のコンテンツを支えるサブカルチャーには、本当はビジネスチャンスが沢山ある。僕らサブカルチャーが社会問題を解決する。サブカルチャーが経済を豊かにし、仕事の場を与えることができると思う」

ITを活用した授業の優位性とは

同社の授業では、インターネットを活用して、豪華な講師陣の授業、職業体験のマッチング、先生や同級生と繋がりながら学習する双方向サービスの3つを提供する予定だという。これまでも通信制の高校や、予備校の映像授業などは存在したが、インターネットを使うメリットとしては2点あり、「数万人相手の授業ができ、ひとつひとつの授業にお金をかけて中身を作り込めることと、単純に映像を流すだけでなくコミュニケーションが取れること。学校というのは、友達と一緒に頑張れるのが大きな意味があると思うので、そこを解決できるのが大きい」と川上氏。

また、同校では授業のほかに、学生同士の「コミュニティ」の場も提供するという。これについて、川上氏は「学園生活も、僕らはネット及びリアルを使ってできる仕組みを考えている。高校の文化祭のように、『ニコニコ超会議』で屋台をやってお好み焼きを焼くとか。そんなことをやっても面白いかもしれない」とコメントした。

社会性を培う"キャリア教育"も

このほか、同校では、「キャリア教育」にも力を入れていく。グループ会社のバンタンと連携し、アニメ・イラスト、ゲーム、ファッションなどの各業界のプロによる課外授業も想定しているという。また、ネットを使って、社会の学生を早期にマッチングを図り、全国の地方自治体と連携した職業体験も計画している。

質疑応答での様子

同社の今後の教育事業スケジュールとしては、2015年3月に沖縄県に学校設置等に係る計画書を提出し、現在審査中だという。沖縄県にした理由として、川上氏は通信制高校に必要な”スクーリング(面接授業)”に触れ、「いろいろ理由はあり、地域にとっても良いと思ったということもありますが、どうせスクーリングに行かなきゃいけないなら沖縄の方がいいんじゃないかなというのが(笑)」と発言。2016年初春に「双方向学習WEBサービス」をリリース、春に「ネットの高校」開校を目標としている。