日本最大級のICTイベント「Interop Tokyo 2015」が、今年も2015年6月8日~13日の日程で開催された。特に注目される展示会は10日より幕張メッセで開かれ、2014年次を超えるのべ13万6,000人の来場があった(主催者発表・同時開催イベント含む)。

Interop Tokyo 2015会場内

同イベントでは魅力的な展示が多く、目移りしてしまうほどだったが、ここでは企画コーナーの1つである「SDI ShowCase」に注目してみたい。このコーナーは、2012年には「OpenFlow ShowCase」、2013年には「SDN ShowCase」として実施されてきており、昨年からSDI(Software Defined Infrastructure)をメインテーマとしてきている。ネットワークだけでなく、サーバ・ストレージを含めたあらゆるものの仮想化について、セミナーや展示、ライブデモなどを通じて知ることができる。

さらに今回は、SDIの中でも「SDS(Software Defined Storage)」に着目し、日本発のオブジェクトストレージソフトウェア「CLOUDIAN HyperStore」を提供するクラウディアンに注目したい。オブジェクトストレージは、ICTが進化していく中で“肥大化するデータをいかに格納すべきか”という命題を解決する技術の1つである。

そこで、同社のエンジニアリング部 テクニカル・プリセールス マネージャー 鶴見利章氏の講演「CLOUDIAN HyperStoreで解決する大量データの課題 ~企業ITにおけるソフトウェア定義オブジェクトストレージの使いどころ~」を紹介しながら、オブジェクトストレージの魅力を紹介する。

ソフトウェア定義のスケールアウト型オブジェクトストレージ

クラウディアンは、2001年に通信事業者向けのメールシステムを提供するソフトウェアベンダーとして、日本で創業された。後に、メールデータを格納するストレージに着目し、クラウドストレージ製品の開発に取り組んでいる。現在は、シリコンバレーに持株会社を設置し、グローバルで事業を展開している。国内外のキャリア、サービスプロバイダーを始め、データセンター事業者や大きなデータを保有するエンタープライズまで、幅広いユーザーにオブジェクトストレージソフトウェア「CLOUDIAN HyperStore」を提供している。

クラウディアン株式会社 エンジニアリング部 テクニカル・プリセールス マネージャー 鶴見利章氏

鶴見氏は、CLOUDIAN HyperStoreで用いられている技術を「ソフトウェア定義のスケールアウト型オブジェクトストレージ」と総称する。

オブジェクトストレージは、従来のブロックストレージやフラッシュストレージと比べて、非常に拡張性に優れ、容量単価を大幅に削減することができる技術である。分散型のシステム構成を採るため、I/Oスループットが大きいのも特長の1つだ。処理速度においては従来型のストレージに比べて劣るものの、オンラインのままで利用できる点で、テープよりも柔軟性が高い。

階層構造を採る一般的なファイルストレージとは異なり、“フラットな”構造でデータを保存するところも、オブジェクトストレージの特長といえる。「バケツ(bucket)の中に動画でもテキストでもどんどんデータを放り込むイメージです。1つひとつのデータには、URL型のユニークなIDが付与されるため、インターネット経由でのデータの読み書きが行いやすいという特長があります。データの特性を示す属性情報(メタデータ)をカスタマイズすることで、柔軟かつ効率的なデータ管理が実現できます」(鶴見氏)

従来のストレージは、性能や容量が不足した場合、よりよい装置に置き換える“スケールアップ型”のシステムが一般的であった。しかしオブジェクトストレージは、ノードを追加することでシステム全体の容量や性能の向上を図る「スケールアウト型」の仕組みを採ることができる。オブジェクトストレージクラスタに機器を追加すれば、ソフトウェアが自動的にリバランスを図るため、データの移行作業なども必要ない。老朽化した機器を取り外すことも容易なため、システムを常に最新状態に保つことで、データの“永続性”を確保することもできる。

さらに鶴見氏は、CLOUDIAN HyperStoreが「ソフトウェア定義ストレージ(SDS)である」ことも強調した。従来のストレージ製品は、ソフトウェアとハードウェアが一体となった製品が主流だ。しかしCLOUDIAN HyperStoreは、汎用のx86サーバにインストールして利用するソフトウェア製品であるため、ハードウェアによるベンダーロックインが発生しない。小さく安価なハードウェアからのスモールスタートも容易で、将来的な性能向上も柔軟に対応できる。

一般企業向けのオブジェクトストレージ

クラウディアンでは、ユーザーが自由にハードウェアを選択できるCLOUDIAN HyperStoreソフトウェアに加えて、導入が容易なアプライアンス製品「CLOUDIAN HyperStore Ready」の提供も開始している。このアプライアンスは、同社のパートナー各社がハードウェアを開発・選定・提供するもので、非常に小さな“弁当箱”サイズのものから、4Uサイズの大規模向けのものまで、幅広いラインナップが揃っている。

CLOUDIAN HyperStoreは、比較的大規模なシステムになりがちな他のオブジェクトストレージ製品とは異なり、2~3ノードからシステムを構築できるという特長がある。つまり数TBレベルの小さな環境・組織ですら、オブジェクトストレージを利用できるということだ。

オブジェクトストレージの活用例として、鶴見氏は、複数のデータセンターを利用したデータ保護システムに採用するメリットを解説した。

一般的なSAN/NASストレージの場合、リモートデータセンターのストレージはあくまでもコピーである。データの同期処理が煩雑になるため、リモート側での書き込み処理は禁止するのが通常だ。一方、CLOUDIAN HyperStoreの場合、レプリケーションや同期が自動的に行われるため、リモート側でも読み書きすることができる。

一般的なSAN/NASストレージの複製リモートセンターでの書き込み処理はできない

CLOUDIAN HyperStoreの複製リモートデータセンターでの書き込み処理が可能

CLOUDIAN HyperStoreは、クラウドストレージでは事実上の標準となっているAmazon S3 APIに準拠し、さまざまなアプリケーションと連携することが可能だ。特にグローバルに活躍する企業などでは、組織内外に広がるシステムのデータを統合的に保管する“広域共通ストレージ”基盤としての利用も広まりつつあるという。

「当社の保守サポートチームは国内に設置されており、海外のスタッフと協力して24時間365日の体制でサービスを提供しています。また、パートナー各社とも密接な協力体制を敷いて、オブジェクトストレージを利用しやすい環境の整備に努めています。ぜひご相談ください」(鶴見氏)

ハイエンドで育ったストレージ技術が身近に

鶴見氏の解説した内容は、SDI ShowCase内に設置されたクラウディアンブースでも直に見ることができた。

今回は、Interop会場内の共用ラックと大阪の遠隔拠点に設置されたCLOUDIAN HyperStoreノードとを実際に接続し、地理的に分散されたクラスタを運用する様子がデモンストレーションされた。ブース内、パートナーの1社であるトゥモローネットのコーナーでは、一番小さなCLOUDIAN HyperStore Readyアプライアンスも設置されていたが、いわゆるコンパクトデスクトップPCと同等のサイズで、ストレージシステムには見えないほどだった。

SDI ShowCase内に設置されたクラウディアンブース内の様子

CLOUDIAN HyperStore Readyアプライアンス

「ラックマウント型のアプライアンスも、この“弁当箱”アプライアンスも、同じクラスタに共在させることができます。例えば、本社やデータセンターに大きなサーバを設置し、遠隔の小規模オフィスに小型アプライアンスを設置して、“CLOUDIAN HyperStore端末”として利用することが可能です」(鶴見氏)

また、科学情報システムのコーナーでは、、CLOUDIAN HyperStoreを基盤として活用した「Enterprise Contents Management(ECM)ソリューション」が紹介されていた。ローカルにデータを残さず、しかし個人向けのストレージサービスのように手軽に利用できる様子がデモンストレーションされ、オブジェクトストレージを身近に感じられた。

従来のオブジェクトストレージと言えば、サービスプロバイダーやデータセンター事業者が活用する大規模なストレージシステムを構築するためのものというイメージが強かった。しかし現在では、大規模企業のみならず中小規模企業においても有効に活用できる技術だと、認識を改められるセミナーと展示であった。