初主演ドラマ『太鼓持ちの達人』(DVDが発売中)を終えた手塚とおるへのインタビュー後編。前編「手塚とおるが語る、初主演とテレビ東京のドラマ - 主演なのに「内容に共感できなかった」」では、同作やテレビ東京のドラマについて語ってもらったが、後編は、クセが強い役のオファー殺到、知られざる共演者・堺雅人との関係、AKB48と共演した『マジすか学園』で心がけたことなどを尋ねていく。
単なる悪役ではない。手塚ほど"怪演"、"怪優"という言葉が似合う俳優もいないのではないか。それはホームグラウンドの舞台だけでなく、ドラマでも同じ。2009年の長瀬智也主演『華麗なるスパイ』では爆弾を操るテロリスト、平岡祐太主演の『ゴッドハンド輝』では暗躍する悪徳医師、2010年のAKB48出演『マジすか学園』では女生徒を盗撮する教師、2011年の『荒川アンダー ザ ブリッジ』では自ら引いた白線の上を移動するオッサンなど、ブッ飛んだ役ばかりだった。
手塚とおる |
その活躍が2013年の松嶋菜々子主演『救命病棟24時』で演じた嫌味なセンター長、そして、あの『半沢直樹』で「No.1小物キャラ」と言われた古里則夫につながっていった。今となっては当たり前のようになったが、なぜここまでエキセントリックな悪役のオファーが多いのか?
「監督やキャスティングの人が、僕の中にある"過剰さ"を面白がってくれるからかもしれませんね。オファーの内容を見ると『こういう役を僕に振ってくるんだ』と感じますし、『どの役のどんな演技を見て琴線が触れたのかな?』と興味を持ちます。映像の場合はあとでOKカットを見たときに、『あっ、これだったんだ』と正解がわかって面白いですね」
そんな手塚がこだわっているのが、まさにその"過剰さ"。30分強のインタビュー時間で、手塚の口からこのフレーズが10回以上は飛び出した。
「僕は過剰なものがリアリティだと思っているんですよ。たとえば、満員電車に乗っている人って、窮屈そうでいかにもこの世の終わりのような顔をしていて、少し寄りかかられただけで舌打ちしますよね。そういう人たちがリアリティなのに、ドラマになると普通に吊り革につかまっている人ばかり。だからドラマよりも現実世界の方がスゴイと思いますし、僕が1時間ドラマの中でやれるのはそんな姿を凝縮した過剰に生きる人間なんですよ。人間は不倫をしただけで人間を殺してしまうくらい過剰に生きていますからね。僕の演技は、たとえばスタローン大佐が人を殺してもおかしくなく見えて、なおかつ笑えて、なおかつ物悲しくて、っていうのができるといいな、と思っています」
秋元康から「AKBにセクハラ」のリクエスト
ただ昨年の武井咲主演『戦力外捜査官』で演じた化学オタクの鑑識官、唐沢寿明主演『ルーズヴェルト・ゲーム』で演じた大道監督は、これまでとは異なり、悪役ではないレギュラーキャストだった。そして今年の『太鼓持ちの達人』もスーパーの店長という普通の人。テレビマンたちが手塚に求める役柄が広がっているのだろうか。
「自分ではわかんないですよ。僕の中では芝居を変えていないので……まあそれが僕の至らないところなんですけどね。理想の芝居は、全員の感想がバラバラ。『気持ち悪い』という人もいれば、『カッコイイ』とか『面白い』とか思う人もいて、混とんとしていないとつまらないと思うんですよ。それができないと芝居をしていても面白くないんですけど、やっぱりどこか誘導してしまっている自分もいて。だからその誘導をいかに分からないものにしていくか、常に考えています」
本人も自覚しているそうだが、“気持ち悪い演技”のうまさも手塚の魅力。『マジすか学園』で演じた盗撮教師役もその1つだった。
「あれは秋元康さんが割と推してくれたんですよ。『AKBの子たちはまだお芝居をちゃんとやったことがないから、本気で気持ち悪がらせてくれ』という意図でした。つまり『セクハラしてくれ』というリクエストなんですよ(笑)。監督さんからも『この子たちは何も知らないので、この人は本当に怖いんだ』と思わせて」と言われたので、その視点から演技を組み立てていきました」
聞けば、実際に気持ち悪がられていて、時間がたってから『あれ、お芝居だったんですね』と気づかれたというからスゴイ。