FiNC、日本交通、吉野家ホールディングス、リンクアンドモチベーションの4社は、従業員の心と体の健康を経営の柱の一つに位置づける「ウェルネス経営」と、その推進役となる「最高健康責任者 Chief Wellness Officer(CWO)」制度の導入を発表した。

横須賀市長も痛感する、健康管理の重要性

厚生労働省が平成25年に発表した労働安全衛生調査(実態調査)において、「メンタルヘルス不調により連続1か月以上休業又は退職した労働者の状況」の結果では、過去1年間にメンタルヘルス不調により連続1カ月以上休業または退職した労働者がいる事業所の割合は10.0%で、平成24年の調査時の8.1%よりも、1.9%上昇した結果となっている。

従業員の健康やメンタルヘルス対策に取り組む企業は年々増えてはいるものの、メタボリック症候群や精神疾患などの健康面における課題をなかなか解決できていないのが現状である。

今回各社が共同声明を発表した「ウェルネス経営」とは、 企業が従業員の心と体の健康を重要な経営資源として捉え、その増進に全社的に取り組んでいく新しい経営手法だとしている。これまでの、健保組合を中心に従業員の健康を守り、欠勤率や疾病率を抑え、健保財政の健全化を進めるといった取り組みにとどまらず、企業にとって最大の資源である"人財"に対して経営陣が積極的に健康投資を行うことによって個人のやる気を引き出し、組織を活性化することで企業を成長させていくスタイルが、各社の考えるウェルネス経営だという。

横須賀市長 吉田雄人氏

この取り組みに対して、横須賀市の市長を務める吉田雄人氏は、大きな期待を寄せている。

「横須賀市役所では、現在約3,180人の職員がいる中、26名が病気で休養している。そのうち、19名はメンタルが理由によるものだ。この19名が病気にならず、またはスムーズに職場復帰できれば、生産性の向上につながるだろう。体と心の両方の健康にフォーカスした組織マネジメントの必要性を痛感している」

横須賀市では現在、職員にモニター実施を行う段階にとどまっているが、今後は自治体へのサービス導入も検討しているという。

心と体の健康は企業力につながる

FiNCはかねて「ウェルネス経営」を経営理念に掲げ、個人と組織の健康状態を測る物差しとして生活習慣、食習慣に関する調査である「ウェルネスサーベイ」を定期的に実施している。これをふまえ、従業員一人ひとりに合った改善メニューをスマートフォンのアプリ上で提供し、正しい食生活の知識や、運動を習慣化するなどの行動変容を実現させ、組織に対しては、ウェルネスサーベイの結果に基づいて新しい人事・評価制度や採用手法の導入など、抜本的な解決を図ってきたという。

FiNCが提供するウェルネス経営の全体概要

FiNC代表取締役 溝口勇児氏

同社の代表取締役の溝口勇児氏は、今回のウェルネス経営表明に際して、次のように語った。

「現在の日本では、労働人口の減少や高齢従業員比率の増加など、さまざまな課題に直面している。経済面では、世界における日本の労働生産性は2012年ではPCT加盟34カ国中21位、主要先進国7カ国の中では最下位となっている。また、売上世界上位500社に占める日本の大企業の割合は年々低下している。FiNCでは、ICTとパーソナルデータを組み合わせ、一人ひとりに合ったサービスを提供することによって、心と体の健康を実現し、企業や社会全体を活性化させたい」

世界各国と比較した日本の経済状況

溝口氏は、ウェルネス経営を行うことによって、3つの経済的メリットがあると説明した。

「まず、企業の競争力を高めることができる。実際に、日本政策投資銀行が健康経営に優れた企業を評価・選定したDBJ健康経営格付に認定されている企業と非認定企業の株価推移を比較すると、約30%の差が現れている。企業ブランドが向上すると、企業価値が向上し、採用コストの低下が期待できる。2つめは、従業員の休職に伴う人件費や健康保険運用に伴う医療費などのコストを削減できる。年収500万円の従業員が退職し、外部から同条件で採用する場合に発生する損失の試算は270万円にのぼるとも言われている。3つめは、生産性の向上による業績アップが期待できる。約400社のデータを元に、連続1カ月間以上の長期休暇を取っている正社員の比率が上昇した企業とそれ以外の企業では、売上高利益率が平均1.0%の差が出ている」

ウェルネス経営のメリット1:競争力の向上

ウェルネス経営のメリット2:コスト削減

ウェルネス経営のメリット3:生産性UPによる、業績向上

FiNC CWO 坂本奈央氏

同社のCWOに就任した、坂本奈央氏は、従業員の心と体の健康に関わる全イニシアチブを持つ責任者を、最高執行責任者(COO)や最高技術責任者(CTO)と同列に位置づける必要性について説明した。

「ウェルネス経営の本質は人財投資。従業員の健康づくりは福利厚生ではなく、人財育成と捉えている。今後は、FiNCが提供する『ウェルネスサーベイ』とリンクアンドモチベーションが提供する『モチベーションサーベイ』を組み合わせて、組織と個人の心と体の状態を可視化していきたい」

組織におけるCWOの位置付け

CWOの役割