子どもの頃からホテルに興味があったというオーストラリア人のピートさん。ベトナムの山岳地帯サパにある2軒のホテルを始め、ハノイ市内にもカフェや飲食店を多数経営する彼が、今のビジネスを始めるきっかけを作ったのは、北海道で出会ったアイヌの人々でした。

Pete Wilkes(ピート・ウィルクス)さん/ベトナム・ハノイ市在住/オーストラリア出身/44歳/TET Lifestyle Collectionのオーナー

■これまでのキャリアと今の仕事について教えてください

16歳の時に、日本政府が企画する国際交流船に乗りました。日本で数カ月の研修があり、船上でも多くの日本人と接し、自然に日本文化に興味が湧いてきました。その後、日本語の取得と大都市での暮らしを経験するために東京へ。英語を教えることで収入を得ながら、日本語学校に通ったり、浅草寺で仏教について学んだりと、とても充実した日々を過ごしていました。

そんな折、北海道旅行の最中にアイヌの人々に出会ったんです。民族独自の暮らしを守る人々に深い感銘を受けたと同時に、こういった人々を支援したいと考えるようになりました。小さな頃から「いつかホテルを営みたい」と漠然とした夢があったのですが、その時「これだ!!」と感じました。

物価が高すぎる日本でホテルを始めるのは無理だと思っていたので、東南アジアを旅して場所探しをすることに。その中で、少数民族が多く住むベトナム北部の山岳地帯「サパ」に辿り着き、ここでホテルを始めようと決心。開業資金を作るためにオーストラリアに帰国しIT関連企業で2年間働きました。貯めたお金をつぎ込んでサパの小さな古いホテルを買い、最初は1泊5ドルから事業をスタートさせました。

お客様にとっては、さまざまな民族の文化や暮らしを知ってもらう場所であるホテルですが、同時に、スタッフとして雇う少数民族の若者たちにとっては山岳地帯において貴重な現金収入を得られる場です。お陰様で沢山の方に利用して頂き、現在は従業員も増えました。今は労働に見合った給与を渡すのはもちろんのこと、彼らに英語やサービス技術などを教え、ハノイ市内のカフェでの研修を通して都会での暮らしを体験する機会も与えています。北海道で心に思い描いた「民族支援ビジネス」が、少しずつではありますが、形になってきていると感じています。

ハノイ市内のカフェ

■現在のお給料はどうですか?

私は情熱さえあれば、お金は関係ないと思っています。いくら高いお給料をもらっていたとしても、朝起きた時に「今日も会社に行かなければならない」と憂鬱になるような生活は御免ですね。そういう意味で、今の仕事にはこれ以上ないほど満足しています。

給料面ではオーストラリアで働いていた時が最も高かったのですが、毎日同じルーティーンを繰り返すことが苦手なので、その仕事をずっと続けたいとは思いませんでした。

■今の仕事で気に入っているところ、満足を感じる瞬間は?

頭に思い描いていたビジョンが形になる瞬間が一番ワクワクします。ビジネスパートナーのベトナム人デザイナーと相談しながら、こういう家具を作って、この場所に置いて、サパで買った布でこんなクッションを作って……と頭の中で組み立てていたアイディアが、実際にホテルやカフェで形となって完成し、そこでお客様がそれぞれの時間を満喫している姿を見るのが何よりも楽しいです。

またホテルやカフェの従業員は、山岳地の少数民族の若者を雇っています。貧しくて満足な教育を得られなかった彼らが、英語を覚えてお客さんと話をしたり、料理技術を上げたりする姿を見るのも非常に喜ばしいことです。

サパで購入したアンティークの布がアクセントに

■逆に今の仕事で大変なこと、嫌な点は?

強いて挙げれば、プライベートとの境界線がないところでしょうか。ハノイの外国人コミュニティはとても小さく、皆が知り合いなので「あのカフェのピート」という看板が常に付きまとうため、悪いことはできません(笑)。

■日本人のイメージは? あるいは理解しがたいところなどありますか?

高いクオリティを求めるという印象があります。それは裏を返せば、一旦クオリティに満足すれば安心して何度も同じ店を訪れてくれるということ。特に女性でその傾向が高く、忠誠心が強いと感じています。

日本での暮らしの中で大変だったのは、「遠回し」な表現を使うこと。上司やクライアントと20~30分話をしても、「どちらかと言うと…」「○○と言うよりは…」などの言葉ばかりが飛び交い、結局相手が自分に何を求めているのかが分からず困ったこともありました。でも、それも相手を尊重する日本の文化・やり方だということは理解しています。

■最近TVやラジオ、新聞などで見た・聞いた日本のニュースは何ですか?

少し前になりますが、安部総理再選のニュースです。

日本は「総理大臣がすぐに代わる国」ということで世界的に不名誉な形で有名になっているので、同じ人物が再選し、長い任期を務めることができるというのは良いことだと感じました。

■ちなみに、今日のお昼ごはんは?

昼食はいつも、店で提供するメニューの試作品を食べます。

この日は卵とベーコンのオープンサンドイッチでした。付け合わせのルッコラは自家農園で育てたものです。サルサソースも、もちろん自家製ですよ!

ランチはいつも新メニューの試食。この日はオープンサンドイッチ

■休日の過ごし方を教えてください

全てのお店は旧正月の期間お休みします。スタッフが故郷に帰り、家族と過ごす時間を持つためです。その他は、不定期に休みを取っています。休みは、世界遺産にも登録されているベトナム中部のホイアンという街にあるセカンドハウスでのんびりすることが多いですね。ビジネスパートナーとの都合が付けば、思い立ったその瞬間から数日間休んでホイアンで休息することもあります。ストレスをためないために、空いている時間は自宅で飼っている犬と遊んだり、ヨガや瞑想をしたりしています。

■将来の仕事や生活の展望は?

小さなことでも良いので、いつでも夢を持っていたいです。ビジネスで言えば、常に変化がありお客様にイマジネーションを与え続けられる店舗を保ってゆくことが目標です。

私生活では、シングルマザーで私を育ててくれた母に恩返しをしたいです。最近オーストラリアから彼女を呼び寄せ、ホイアンの家で暮らしてもらうことにしました。彼女に人生の最終章を心地よく過ごしてもらうのも、夢の1つです。 自分自身のプライベートは、シンプルに過ごしたいですね。仕事に行くのが毎日ワクワクするような日々をずっと送ることができたら最高です。

ホテルのあるベトナム山岳地帯サパで。美しい棚田と、少数民族の文化を楽しめる。