ヤフーは3月30日、同社の検索サービスの検索結果に対して非表示の措置を求められた場合の対応について、昨年11月に設置した「検索結果とプライバシーに関する有識者会議」での議論を踏まえ、その方針・基準を新たに公開した。

ヤフー 執行役員社長室長の別所 直哉氏は、こうした方針を定めた背景について説明した。以前より、ヤフーに対して自身の情報を検索結果から削除して欲しいという要請は寄せられているが、一方で検索サービスには表現時の自由や知る権利としての役割もあるのに加え、削除する理由が分からなければ、検索結果を恣意的に操作することにもつながりかねず、慎重な対応が求められてきたとのことだ。

ヤフー 執行役員社長室長 別所 直哉氏

こうした削除要請に対し、ヤフーは従来、プライバシーと表現の自由や知る権利、双方のバランスを取りつつ、過去の国内での判例などを参考にしながら慎重な判断をしてきたと、別所氏は話す。にもかかわらず、今回あえて昨年有識者会議を開設し、方針を明確にしたのには、「近年プライバシーに関する関心が高まってきていることから、従来取り組んできたことを明確に提示し、外部に知らせる必要があると判断した」ためとのことだ。

プライバシーの侵害と、表現の自由や知る権利など、相対する要素の衝突をどのように判断するかに関しては、有識者会議でもさまざまな議論がなされたという。議長を務めた東京大学名誉教授で弁護士の内田隆氏によると、過去の裁判の判例などを受け、事実を公表しない場合の公的利益と、公表した場合の利益を比較し、どちらが有益かを判断するのが望ましいという結論に至ったとのことだ。

有識者委員会の委員長を務めた東京大学名誉教授で弁護士の内田 隆氏

だが、検索サービスは自動的に収集したデータを基に検索結果を表示しているだけであり、自ら表現をしている訳ではない。そこで検索サービスの場合、発信者の表現の自由やユーザーの知る権利に加え、検索サービスが持つ社会的意義も考慮した上で比較する必要があるとのこと。

表現への関与は、リンク元となるWebページや、それを管理しているプロバイダの方が大きいことから、まずはプロバイダ責任制限法などによってページ作成者や管理者への削除を求めることを優先すべきとしている。

検索サービスは自ら表現をしている訳ではないため、サービスの社会的意義を考慮した上での比較が必要とのこと

そうした有識者会議の結果を受け、ヤフーは検索結果の削除措置が求められた場合の対処として、まず情報を公表する理由と、情報が公表されない場合の被申告者の利益を比較。

その上で権利侵害であると認められた場合、検索結果に表示されるタイトルや、Webページの説明に適した内容を一部切り出して表示する"スニペット"について、非表示の措置をとるとのこと。ただし非表示措置をとるのは全ての検索結果に関してではなく、被申告者に関連するキーワードなど、ある程度検索キーワードを限定して実施されるとのことだ。

ヤフー側で検索結果の非表示措置をとる具体的な事例

また、リンク情報の非表示措置に関しては、原則的にリンク元ページの管理者やプロバイダに対し、削除を命じる判決が出た場合にのみ実施されるとのこと。

ただし判決が出ない場合でも、「特定人の生命、身体に対する具体的・現実的危険を生じさせる情報が掲載されている場合」「第三者の前提としていない私的な性的動画が掲載されている場合」など、リンク先情報の権利侵害が明白であり、かつ緊急な措置が必要だとヤフー側が判断した場合は、例外的に非表示措置をとることもあるとしている。

リンク自体の非表示措置に関しては、原則として元となるページが削除される判決が出た場合に対処するとのこと

検索とプライバシーの問題が大きく取りざたされるようになったのには、1つはスペインの男性が新聞社の記事とグーグルの検索結果を削除するよう要請した裁判で、昨年グーグルにリンク削除を命じる判決が下されたこと。

そしてもう1つ、日本でも昨年、グーグルで自身の名前を検索すると、犯罪を連想させる結果が現れることについて起こした裁判で、一部を削除するよう判決が出たことなど、いわゆる「忘れられる権利」に関する議論が広がっていることが影響していると見られる。

これについて内田氏は、「スペインの判例は過去の社会保険不払いに関するものであり、欧州の決まりでリンク元となる新聞社のページが削除できなかったことが大きい。日本で議論されているのはよりプライバシーへの関与が高いもの」と、欧州と日本の事例とでは問題の性質が異なると説明。その上で内田氏は、「そうしたプライバシーに関する問題への対処は、既存の判例に沿った形で対応できるのではないか」と話しており、新たな仕組みを設ける必要はないとの見解を示している。