東京都・秋葉原のUDXシアターにて20日、モリサワが主宰する書体デザインコンテスト「タイプデザインコンペティション 2014」の表彰式が開催された。

タイプデザインコンペティション2014表彰式と特別セミナーの会場となった秋葉原・UDXシアター

和文部門モリサワ金賞と欧文部門モリサワ賞銅賞を受賞した浪本浩一氏にトロフィーを渡すマシュー・カーター氏

モリサワ 代表取締役社長 森澤彰彦氏による応募者への謝意と受賞者へ祝福の言葉から始まり、審査員長を務めたマシュー・カーター氏が、和文・欧文両部門の「モリサワ賞」受賞者にトロフィーを授与。表彰は「明石賞」、「ファン投票」へと続き、受賞者は終始、盛大な拍手に包まれた。

式の最後には、カーター氏により総評が行われ、同コンペティションを「過去のタイプデザインコンペの中でも最も評価が高いもののひとつ」と位置づけ、タイプフェイスの育成、発展を促すタイプデザインコンペティションの今後に期待を込めて話を結んだ。

タイプデザイナーがそれぞれの視点を語る

表彰式の後に行なわれた特別セミナー『タイプデザイナーの視点』では、3組の書体・フォント制作者が登壇し、書体制作の考え方や取り組み方、制作のプロセスについて解説が行われた。

アドビ システムズの3氏によるセッション「Pan CJK フォントの誕生」

ひとつめのセッションは、アドビ システムズの山本太郎氏に、西塚涼子氏と服部正貴氏を加えた3名による「Pan CJK フォントの誕生」。アドビ システムズとグーグルにより共同開発されたPan CJK フォント「Source Han Sans」は、「4つの言語(日本語、中国語簡体字、中国語繁体字、ハングル)をカバー」、「4つの言語で一貫性のあるデザイン」、「オープンソース」といった特徴を持ち、日本では「源ノ角ゴシック」として知られる書体。各氏はこの書体が作られた経緯と目的(山本)、デザイン(西塚)、フォント制作のプロセス(服部)をスライドや動画を交えながら解説した。

言語の違いによって生じるささいな画線処理の違いも「言語の地域性を表現するための重要な要素」(服部)ととらえ、中国と韓国のフォントベンダーの協力も得ながら制作を進め、7つのウエイトで合計45万8,745もの文字を作り上げたという。

タイプデザインコンペティション2012・2014で受賞した豊島晶氏による「私と書体、私の書体」

ふたつめのセッションは、豊島晶氏による「私と書体、私の書体」。セッションは、コレクションや趣味といった自身の紹介から始まり、次第にタイポグラフィへの興味、タイプデザインへの取り組み、これまで豊島氏が手がけてきた書体の紹介へ。続いて、「タイプデザインコンペティション 2012」で受賞を果たし、2014年に製品化された「すずむし」の制作プロセスに話が移り、自身のノートを映しながら「(書体製作にあたって)こんな雰囲気だというメモやラフをノートに書き留めるものの、具体的なスケッチは描きません」と話し、頭の中のイメージをもとに漢字もひらがなもすべてMac上で作ること、漢字を先に作りイメージを頭に入れてからひらがなを作ると心地いいものになることなど、書体作りの持論を紹介。最後に「すずむし」がカフェで作業をしながら製作されたことに触れて、「文字は気楽に、誰にでも文字は作れる。必要なのは、こういうものが作りたいという想像力と、やってみようという行動力、そして少しの忍耐力だと思います」と話し、セッションの幕を閉じた。

審査員を務めた字游工房・鳥海修氏によるセッション「書体をつくるうえで大切なこと」

最後のセッションは、字游工房の鳥海修氏による「書体をつくるうえで大切なこと」。鳥海氏は冒頭で「今日は"ハートで作る"という話をしたいと思います」と切り出し、京都精華大学での7年間にわたる講義の中で作られた「クリームシチュー」、「おやすみ良寛」、「おかあさん」の3書体を紹介。書体を作り終えた学生の「(書体が)完成したときは自分の子どものように思った」との言葉を紹介し、「この感覚が学生に一番感じてほしい気持ち」と喜びを交えて話した。

鳥海氏は話の最後に「ハートで作る」ということについて、「タイプデザインまたは文字は、手で描くことがとても重要だと思う。ぜひとも手で描いた書体で『タイプデザインコンペティション 2016』に応募してほしい」と次回の「タイプデザインコンペティション」への期待を語り、話を終えた。

2012年、2014年と2年ごとに開催されてきたモリサワ「タイプデザインコンペティション」。次回は、2016年の開催を予定している。