KDDIは3月26日、インキュベーションプログラム「KDDI ∞ Labo」の第8期参加チームを発表した。

∞ラボでは、第7期よりパートナープログラムとして、大手企業がメンターやパートナーとなって参加チームの支援を行っているが、今回新たにクレディセゾンと日立製作所を加え、全15社でスタートアップの支援を行う。メンター企業は参加チームの選定にも携わっており、メンタリングを行う上で、よりシナジーが見込めるチームを選定したといった印象を受けた。

また、これまでも∞ラボ卒業チームや大企業との交流の場は提供されてきたものの、オンラインとオフラインの双方でさらなる活性化施策を行う。具体的には、両者の情報共有や協業を促進させるため、コミュニティサイトを立ち上げる。また、オフラインの場でも定期的なMeetUpイベントを開催していく予定だという。

KDDI 新規ビジネス推進本部 KDDI ∞ Labo長 江幡 智広氏

KDDIの新規ビジネス推進本部 KDDI ∞ Labo長 江幡 智広氏は、卒業チーム同士や大企業とのコラボレーションが「アイディアベースで80件ほど出ている」としており、実際に動いている案件もあると話す。大企業とスタートアップの距離をより身近にすることでパートナーとスタートアップがコミュニケーションしやすくなり、更なるイノベーションを起こせるように、といった狙いもあるようだ。

また、今回の第8期とは直接的に関係性がないものの、地方のスタートアップ支援団体との連携第1弾として「大阪イノベーションハブ」との提携を始める。地方との連携を深めることで、地方で有力なスタートアップが出てきた時に、企業間の連携をKDDIとしてサポートできるようにするほか、イノベーションハブ優勝チームの∞ラボ デモデイ登壇といったことを考えているようだ。

時流がめまぐるしく変わるスタートアップ

江幡氏はチーム発表の前に、8期まで続いてきた∞ラボの取り組みを振り返る。

「2012年から続けてきた中で、ITの流れは早いなと感じる。日本のスタートアップもかなり面白い存在が増えてきたし、生まれる土壌が出てきた。シリコンバレーと比べると少し遅いけれど」(江幡氏)

∞ラボへの応募は回を重ねるごとに増加しており、第8期では過去最高の応募件数を達成した。それらの様々なアイディアに触れる中で、時期によって傾向が見て取れたと江幡氏は語る。

「最初の1~3期は、Facebookが日本で浸透し始めた時期であり、『ソーシャルで写真やグルメのシェアを行う』といったソーシャル関連のサービスのアイディアが多かった。また、カレンダーのようなアプリ単体で完結するツールの提案もあり、新しい関係・価値を提供したいという気持ちが見えた。

ただ、中期(4~6期)に差し掛かると、それまでは見えてこなかったB to Bサービスが増えてきたと思う。B to Eサービスも同時に増加しており、シリコンバレーの移り変わりを写し出した印象。FreeeやKaizen Platformがいい例だと思う。

直近では8期を見てわかることだが、IoTやハードウェア領域が1割近くまで増えている。ここは大きい点だと思う」(江幡氏)

江幡氏の発言からわかるように、コンシューマーサービスの多くは、SNSプラットフォーマーなどに握られており、その隙間を突こうという流れが見て取れる。"隙間を突く"と言うと聞こえは悪いが、ニッチであっても、その市場が大きな潜在能力を秘めていれば、例え表に名前が出てこないB to B市場であっても、それは日本の企業にとって大きな意味を持つ。

スタートアップ企業が大企業の小回りの効かない部分を補うことで、世界の隙間を埋めることができれば、日本の数年後、数十年後の競争力となっていく。だからこそ、KDDIや同社の意思に賛同した企業のパートナー参加が増えているというところがあるように見える。

第8期プログラム採択5チーム

第8期では、IoTデバイスが2件、ハウツー動画メディアサービスなど、これまでの∞ラボとは趣の異なった5チームが選出された。これまでは一度も選出されなかった女性代表のチームが2チーム選出されたところもポイントの1つだろう。

サービス名 メンター企業 サービスコンセプト
シンデレラシューズ 三井不動産 靴擦れしない"私だけの運命の一足"をECで
LYNCUE(リンキュー) 日立製作所 日常生活に自然と入り込むコミュニケーションデバイス
Oshareca(オシャレカ) クレディセゾン 美容師さん個人に直接予約できるプラットフォーム
Bee Sensing 凸版印刷 養蜂業にIoTを導入する"新時代農業"を目指す
PICK UP! テレビ朝日 DIYハウツー動画

シンデレラシューズ

女性が代表を務める2チームのうち1チームがシンデレラシューズだ。代表の松本 久美さんは、婦人靴デザイナー歴13年で、靴を造る想いを持ちながらも「今の世の中に必要なものは"橋渡し役"。靴をレコメンドすることで女性の悩みを解決したかった」と、企画の狙いを話す。

女性代表ならではの"気付き"と言えるが、サービスを利用する側にとって性別は関係ない。男性だけがスタートアップをやっていても画一的なサービスになってしまうため、こうした存在は貴重といえるだろう。また、モンゴル出身のメンバーや東京工業大学で宇宙物理学を研究するアルゴリズム開発メンバーもいるなど、粒揃いであるため、どのように足にフィットする靴をレコメンドできるか注目だろう。

LYNCUE

LYNCUEは、IoTをキーワードに、照明を活用してコミュニケーションを行うというコンセプト。現在、企業に在籍する6名が参加しており、デザイナーやプロジェクトマネージャー、ハードウェア設計者など、タレント揃いのメンバーだ。

説明を行った塩塚 丁二郎氏は、「照明」を光源としての照明、そして「雰囲気を作り出す役割としての照明」の2つの要素があると話す。LYNCUEは「LYNC」と「CUE」の造語で、人と人を繋ぎ、合図を送るという意味での「CUE」を組み合わせたのだという。

そのコンセプトはまだまだふわっとしたものだが、「東京の家族とおばあちゃんの家を照明で繋げて、あたかも同じ時間に、一緒に食事しているような雰囲気を作り出すもの」と、狙いが意味するところは理解できることだろう。

将来的にはEducationにも活用したいとしており、メンター企業である日立製作所との親和性も高そうだ。

Oshareca

Osharecaの代表は、もう1人の女性代表である佐竹 夏美さん。「美容の力で世界を変えることがミッションであり目標」と語る佐竹さんは、美容師個人に着目し、新たなプラットフォームを目指すという。

これまでの予約プラットフォームは新規開拓ばかりに着目していて、既存客をどう繋げていくかに課題があるとしており、毎年新たに1万店が生まれ、8000店が消えていくという美容業界でお客さんと美容師をどのように繋げていくかにフォーカスするとしている。

Bee Sensing

Bee Sensingの代表者は、日本IBMで15年勤務した後、広島で養蜂家に転じた異色の経歴を持つ松原 秀樹氏。東大卒のエンジニアらと3名で目指す目標は農業へのIoTの導入だ。

「蜂は夢がある」と松原氏は語るが、一方で日本の養蜂家が立たされている立場は厳しい。はちみつの国内流通量の93%は輸入品で、国内産はわずか7%に過ぎない。ただ、増えつつある過疎地域が養蜂業にとっては追い風とのことで「養蜂は、過疎の方が適している。過疎を逆手に取って、地域おこしができる。高品位なはちみつの生産体制を確立できれば、農業の未来に繋がる」(松原氏)と、39歳の男性が目をキラキラさせながら話していた。

ただ、目標だけではなく、実際に養蜂家として働いている松原氏だからこそ見えてくる農業の課題もあるため、裾野が広がる下地はできている。センサー類を活用したセンシングを行い、データから蜂の生産量の向上、ひいては生産性を向上させることができれば、「はちみつの流通量は50%まで引き上げられるんじゃないかと思う」(松原氏)としていた。

PICK UP!

PICK UP!はDIYハウツー動画サイトのチーム。DIYと聞くと堅苦しく感じてしまうが、その堅苦しさを動画というわかりやすいコンテンツを通してほぐしていくことが狙い。COOを務める真野 勉氏ら3人は同い年の27歳で、スタートアップや大企業の経験から、先を見据えていける点が評価されたようだ。

リアルイベントを絡めて行うことで、プラットフォームの定着を狙う。

「DIYができるようになることで、日本のお父さんやおじいちゃんたちの威厳復活に繋げていければ」(真野氏)

メンター企業の思いとは

その後、各メンター企業のメンター代表者がサポートチームへの思いを語った。例えばシンデレラシューズをサポートする三井不動産 ビルディング本部 法人営業統括部 光村 圭一郎氏は、採択した理由について「明確なニーズがある」と一言。

「事業部に女性がいて、このサービスについて話をしたところ、『これが欲しい』という話をしていた。リーダーの松本さんが靴デザイン13年やっていたというところで、職人技が明文化されてこなかった問題をビッグデータの力などを使って…というところに大きな未来を感じている。全力でサポートして行きたい」(光村氏)

また、日立製作所 技術統括センター インダストリーコラボレーション推進部 岡田 亮二氏は、より密接にメンター企業とKDDI、採択したLYNCUEとのコラボレーションが直接的にできるところへの期待感を口にした。

「私の事業部は名前の通り産業間のコラボを担当しているので、その一環としてプログラムに参加した。LYNCUEを選んだ最大の理由は『面白いから』。『面白くない』ものでは、メンターとして貢献する意味がないと思う。

日立製作所は、モノ作りをやってる会社。アイディアの中に通信が介在しているので、KDDIと共に(メンターとして)ペアを組んで効果が出るプログラムだなと思った。コンセプトがまだまだ広いので、狙いをすぼめてから立ち上げていきたいと思う」(岡田氏)

三井不動産 ビルディング本部 法人営業統括部 光村 圭一郎氏

日立製作所 技術統括センター インダストリーコラボレーション推進部 岡田 亮二氏

クレディセゾン 営業企画部 営業戦略部 営業戦略グループ 浦田 文秀氏

凸版印刷 情報コミュニケーション 事業本部 事業戦略本部 次世代戦略部 永野 武史氏

テレビ朝日 総合ビジネス局 ビジネス戦略部 里見 諒氏