2015年2月24日、東京都千代田区にて開催された「ECビジネスの最新事例から学ぶ! デジタルマーケティング戦略セミナー」で、TIS株式会社のシニアエキスパート 秋野隆氏がステージに立った。TISは「TECHMONOS(テクモノス)」というブランドの下、金融、通信、小売りなど、分野も多彩な大手企業のデジタルマーケティングシステムを数多く手がけている。秋野氏はそこでの経験をもとに、オムニチャネルマーケティングの重要性と、それを実現するために必要なノウハウを語った。

なぜ「オムニチャネル」に取り組まなければならないのか?

TIS株式会社 産業事業本部 東日本産業事業部 ストラテジックソリューション営業部 シニアエキスパート
秋野隆氏

「ネットやスマートフォンの普及で、消費者行動は大きく変化し、多様化しています。ある調査によれば、79%もの消費者が、営業マンや店舗など、対面営業で得た商品情報と同様に、ネットで集めた商品情報を信じる、と回答しています(※1)。それだけ公平性が感じられる、ということでしょう」(秋野氏)

例えば自動車購入の際は、消費者が車を購入する前にディーラーを訪問する回数が激減しているという話もあるようだ。これも販売店以外での情報収集が容易になったことによるものだろう。また、金融商品の多くも、様々なチャネルで情報を収集した人ほど、購入率が高くなるというデータもある(※2)。つまり実店舗はもちろん、マスメディア、ウェブ、電話サポートなど、消費者が利用するあらゆるチャネルで、企業は統一した戦略を貫き、その戦略の下、それぞれの顧客(個客)に最適な対応をとっていくことの重要性が、今、高まっているのだ。

※1 出典:Brightlocal.com Local-consumer-review-survey-2014
※2 出典:電通 金融機関選別時代のマーケティング戦略(2012/11/28)より

消費者が店舗で商品を購入するまでに、どのようなチャネルを巡るか、その行動特性を例示した下記【図1】をご覧いただくと、より分かりやすいだろう。DMで情報に触れ、営業に相談して購入する消費者もいれば、TV-CMで知った情報をウェブで検索し、オンラインで購入する消費者もいる。すべての接点で「個客」に適切に対応するには、全社統合のオムニチャネル型の体制を敷き、運用して行かなければならない。

【図1】消費者の行動はすでにオムニチャネル化している。(提供:TIS株式会社)

「これまでのCRM戦略では、顧客データ、売上データなどの保有資産と、顧客属性・商品属性とを考慮して施策を決定することが多かったはずです。オムニチャネルマーケティングでは、そこに行動特性によるセグメントを掛け合わせるのがポイントです。その上で『個客』ごとに、どこでどんな風にコミュニケーションするか、どんな施策を打つかを、全社的な始点から設計していきます」

行動特性が加わることで「個客」にまつわる情報は膨大な量となり、セグメントはさらに細分化する。ビッグデータが相手では、どれほど有能なマーケターといえどもKKD(勘、経験、度胸)や手作業による解析で乗り切れるものではない。「個客」に対応したきめ細かな施策を実行するためには、システムの構築が不可欠となる。

「3つの壁」を打破するには、権限と予算が必要

システム構築への第一歩として、営業やマーケティング、情シス、ウェブ、コールセンターなど、各チャネルの代表者が選抜され、タスクフォース型のプロジェクトチームをつくる企業が多いという。秋野氏は、まずこのチームで下記【図2】のような全社統合戦略を策定することを薦めている。フェーズごとにどの視点で何を行うか、予測される個客の行動、そして実施する策が一目で分かるロードマップだ。これに基づいて、システムの構築・運用を行っていくことになるが、プロジェクト遂行を阻む3つの壁が生じるケースが多いという。

【図2】全社統合戦略策定の一例(提供:TIS株式会社)

一つ目は、「予算の壁」だ。企画・構築・運用までの予算を、どの部署が受け持つべきかが、最初の問題となるという。経営判断の材料としてROIを算出する必要が生じてくるが、そのためには現状のコストや効果の把握・可視化を行わねばならない。しかし「可視化を行えるだけのデータをまとめている企業は少ない」(秋野氏)という。

二つ目は「権限の壁」だ。下記【図3】のように、一般的にシステムを組むと急激に効果が上がるものの、やがてその上昇率は落ちていく。損益分岐点前に経営的なジャッジでシステムの更新をすることになるが、新しい施策を次々に展開していかなければならないマーケティング用システムの場合、ジャッジを下すタイミングも頻繁になる。このスピード感のある判断の権限を、誰に与えるのかが次の課題となってくる。

【図3】一般的なシステムへの投資と効果

三つ目は「文化の壁」。新しい仮説に基づく施策を打ち出し、その効果をデータとして受け取りたいと考えるマーケティング部門、独自の営業手法にプライドを持ち、施策の実行や効果の報告を手間と考える営業部門、そしてシステム要件が揃わないと、動き出せないシステム部門…というように「発想の文化と"たたむ"文化との対立が生まれてしまうこともよくあります」(秋野氏)。全社が統一した戦略下で動くことが前提のオムニチャネルマーケティングは、部門間の考えがバラバラだと進めることができない。

こうした壁を打破するために、最新のテクノロジーを把握し、それを自社のマーケティング業務にフィットさせられるスキル・経験をもつCMTO (Chief Marketing Technology Officer)を置く必要が出てくるだろう、と秋野氏は言う。

「消費者の多様化、グローバル化が進む中、勘や経験ではなく、データに基づいたマーケティングが必要なのは明らかです。そのためにはシステムを上手く構築・運用できるような、全社統合のマーケティング組織を作らねばなりません。ITとマーケティングの双方を理解した人材が、全体を俯瞰しながら方針をまとめ、各部署の役割を認識させながら、実際のシステム構築を進めていく…そうした人材に権限と予算を付与することが重要となるでしょう」と、秋野氏は講演を締めくくった。

なお「TECHMONOS」では、SIer的な視点からオムニチャネルマーケティングの実務サポートを請け負うほか、デジタルマーケティングを遂行するためのノウハウを学べるワークショップ、統計解析についての実践セミナーなども行っている。オムニチャネルマーケティングに関心を持たれた方は、参加してみてはいかがだろうか。

TECHMONOSは、ITを活用したマーケティング領域の戦略策定からシステム構築・運用まで幅広いソリューションを提供