スマートフォンやタブレットといったスマートデバイスの普及とともに、ユーザーが激増したWebサービスの1つが「Dropbox」だ。端末の種類やOSを選ばず、簡単にファイルが共有可能なサービスとして多くの人が利用している。今回、米DropboxでHead of Productを務めるChen Li Wang氏に話を聞いた。

多くのユーザーを獲得し業界標準になりつつあるDropbox

米Dropbox Head of Product Chen Li Wang氏

Chen Li Wang氏は、Dropboxが提供するサービスの中でも現在世界的にユーザー数を増やしている、個人向けの有料プランである「Dropboxプロ」の収益に責任を持つ立場にある。

「現在、デバイスの種類が増え、データも増大するなど、私たちを取り巻くIT環境は複雑になっています。また、BYOD((Bring Your Own Device)が広がるなど、仕事のやり方もと比べて変わってきている。こうした状況がかみ合うところにDropboxが必要とされたのです」と、Wang氏が語るように、Dropboxはユーザーニーズにうまくはまったことで急成長中だ。

現在、無償で利用できる「Dropboxベーシック」のユーザーは3億人を突破。ビジネスユーザーも400万アカウントを超えており、350億のドキュメントがDropboxに保存されているという。「これらは日々伸びており、数カ月後には扱うドキュメントが400億を超えることでしょう」とWang氏は語った。

Dropboxがユーザーにこれほど受け入れられている理由としては、3つの要素が挙げられた。1つ目は技術的には複雑な処理を行っていながらも、ユーザーはシンプルなインターフェースで使い勝手よく利用できるということだ。

2つめは、Dropboxを利用してユーザーはやりたいことが実現できることだという。デバイスやプラットフォームの違いを超えて、データを好きなように使えるのがDropboxの特徴だ。これについて、「われわれが提供したAPIを活用して、現在30万以上のアプリが開発されています」、Wang氏は説明した。

3つ目は、Dropboxが業界標準になりつつあることが、新しいユーザーを呼び込んでいるそうだ。ユーザーが多いと紹介される機会も増え、わからないことがあった時は友人間で気軽に教え合える。こうした状況がユーザーをより増やしていくことにつながっているのだ。

モバイル利用が活発な日本は世界的に見ても大きな市場

Wang氏は日本市場について、「英語圏外では最大、全市場でも2番目当たりに大きな市場」と表現した。日本以外に大きな市場としてはイギリスやオーストラリアが挙がり、その中でも日本は非常に大きな市場になっているという。

Wang氏は日本市場の特徴は大きく3つあると述べた。「1つ目の特徴は、インフラが優れていることです。特に、ブロードバンドが高速です。2つ目の特徴は経済がオープンであることです。海外企業と取引を行う企業や海外進出する企業が多いので、海外とやりとりをしやすいDropboxが役立ちます。3つ目はモバイルの利用が進んでいることです」

「日本にはiPhoneがリリースされるからスマートフォンがあり、PCとスマートフォンなど、異なるデバイス間でのデータのやりとりについてユーザーが知っていました。また、電車や出先からWebを利用することもすでにやってきました。そして、日本人はiPhoneが大好きだと聞いていましたが、本当にiOS端末は日本で人気がありますね。」と、Wang氏はモバイルデバイスの活用が日本に広く根付いていることを指摘した。

モバイルデバイスからのデータ活用を自然に行っている日本のユーザーが求めるものに、Dropboxは注目している。もともと、ユーザーの意見を積極的に聞き、その要望をより高度な形で実現するという繰り返しで機能を拡張してきたDropboxは、今後もユーザーとともに成長を続けていくはずだ。

Dropboxプロはコラボレーション強化に注力

Wang氏は、Dropboxプロにおける今後の目標として「コラボレーション機能の強化」を挙げた。「ユーザーの使い方を知ることで、機能強化を図っていきたい」という。

Wang氏が担当する「Dropboxプロ」はすでに多くの機能を提供している。無償版で足りない容量を追加するというだけでなく、「安心・安全」を提供する仕掛けが満載だ。例えば、ファイルの共有については共有フォルダを閲覧するだけのユーザーと編集もできるユーザーという形で権限を付与できるし、共有に利用するURLには期限を設定することも可能だ。

多くの端末でファイルをシンクさせるDropboxを利用していると、重要なデータが見られる状態の端末を紛失してしまった時に被害が出ることも考えられるが、「Dropboxプロ」ではリモートワイプ機能も提供されている。「リモートワイプ機能は、以前はエンタープライズ向けの製品でしか提供されていなかったような機能ですが、誰でも使えるようになったのがポイントです。Dropboxはシンプルでよりよい機能を提供することで、ITの民主化に貢献していると自負しています」とWang氏は語る。

データは端末とサーバ間での転送時に暗号化されるだけでなく、サーバからデータを格納されるデータセンターへ送る時にも別の形で暗号化される。どのシーンでどのような攻撃を受ける可能性があるのかについてしっかり考えたうえで、万全の対策を行っている形だ。

「Thread Exchangeという団体にも参加しています。この団体にはGoogleなども参加しており、技術力のある正義のハッカーとも言える人が安全性についてチェックを行ってくれます。また、Dropboxは多くの人気を得たことで協力したいと言ってくれる企業も増えてきています」と氏はDropboxの安全性について語る。

多くの容量を持つストレージが安心して利用できるということで、画像をはじめとしたさまざまなデータを預けてもユーザー自身が安心できる。こうしたサービスに何よりも必要なのはユーザーが信頼して利用できることだとWang氏は言う。Dropboxはその信頼をすでに得ているが、今後はさらにそれを強化し、維持することに注力していく。

Wang氏は「Dropboxが提供するものは、ファイルのシンクではなく生活やWorkのシンク」とも語っていた。「Workがシンクしてスムーズに行えるようになることで、生活に使える時間が増えるのです」とWang氏。Dropboxはさらに人々の生活によりそい、入りこむ形で成長を続けていくだろう。