「ユニクロ対ZARA」の著者 齊藤孝浩氏

先頃、書籍「ユニクロ対ZARA(日本経済新聞出版社)」の著者で、ディマンドワークス代表の齊藤孝浩氏による講演会が、イベント運営・マーケティング会社オプンラボの主催で行われた。講演の内容は、著書のポイントとなる「ユニクロ(ファーストリテイリング)とZARA(インディテックス)との違いを多角的に示す」というものだ。ここでは、同講演のエッセンスを報告する。

「世界一になる」対「世界の女性をおしゃれに」

女性向けのファストファッション・ブランド「ZARA」を展開するスペインのインディテックス――同社は、業界トップレベルの売上げを誇る一大アパレル企業だ。

ZARA公式Webサイトイメージ

インディテックス公式Webサイトイメージ

書籍「ユニクロ対ZARA」を記した齊藤孝浩氏によれば、インディテックスの売上高は、2013年度で2兆円3313億円に達し、2010年以来守ってきた業界ナンバーワンの地位を堅守しているという。かたや、ユニクロを展開するファーストリテイリングの2013年度の売上高は、業界4位の1兆1430億円(2位H&M・3位GAP)。つまり、インディテックスは、ファーストリテイリングの2倍強を売り上げており、ファーストリテイリングが世界一を目指すうえの高い壁と言えるだろう。

アパレルブランドメーカー業界 世界売上ランキング 資料 : ユニクロ対ZARA

インディテックスは、ファーストリテイリングと同じSPA(製造小売)であり、それぞれの旗艦ブランド――つまり、ZARAとユニクロ――がファストファッション・ブランドである点でも共通している。ただし、両者はあらゆる点で「対極」にあると、齊藤氏は指摘する。

例えば、インディテックス創業者で経営トップのアマンシオ・オルテガ氏が、1975年の創業時(ZARA創業時)から掲げる理念は、「世界中の女性に、もっとおしゃれになってもらいたい」というものだ。インディテックスはこの理念の下、世界88カ国でZARAの店舗を展開。女性向けのトレンド・ファッション(ヨーロピアン・モード)衣料を、各国ローカルの百貨店の半額で売るという方針を貫き、トレンド・ファッションの価格常識を打ち破ってきたという。

対するユニクロは、創業者・柳井 正氏の「世界一になる」というスローガンの下、誰もが着られて、常に一定の需要が見込める「ベーシック」衣料の品質・価格の常識を打ち破ってきた。

ユニクロ公式Webサイトイメージ

ファーストリテイリング公式Webサイトイメージ

つまり、ユニクロとZARAは、衣料の価格常識を打ち破った点では同じだが、扱う商品のカテゴリーも、低価格性を追求する本質的な目的も、さらには、低価格性の追求の仕方も異なるというわけだ。より端的に言えば、ユニクロはベーシック衣料を広く大量に売る目的で「絶対的な低価格性」を追求し、一方ZARAは、各国の女性のためにトレンド・ファッション衣料の国ごとの価格常識を打ち破ることに力を注いできたのである。

短サイクルのデマンド・チェーン

言うまでもなく、トレンド・ファッション商品はライフサイクルが短く、当たり外れのリスクも大きい。また、品質や低価格性だけで売れるものでもなく、消費者の嗜好・ニーズに合致したデザイン性が強く求められる。

そのため、ZARAでは約350名(北半球250人+南半球100人)ものデザイナーを擁し、かつ、「顧客の声を聞き、顧客の欲しいものを作り、配送し、売る」というデマンド・チェーンを短いサイクルで回している。

齊藤氏によれば、アパレル商品の賞味期限は8週間で、この期間でいかに商品を売り切り、いわゆる「死に筋商品」を作らないかが極めて重要であるという。このリスク・ヘッジのために、ユニクロでは全商品・全店舗の売上げを週次でチェックし、売れ行きの悪い商品については即座に値下げを行い、賞味期限内に売り切るという戦術を取っている。

一方ZARAでは、すべての新商品に関して必要最低限の量しか生産しない。具体的には、デザイナーの想定に基づき3週間で売り切れる分の商品を作り、店舗に並べるわけだ。そして、店頭に並んだ新商品に対する顧客の反応・声を店舗スタッフが収集し、ミーティングを重ね、売れ行きや改良のアイデアを本部に報告する。それを受けたデザイナーが即座に改良版を作り、店舗で売るというオペレーションを回しているという。

「ユニクロを含め、通常のアパレル・メーカーは新シーズンに向けて1年前から準備を進め、半年前に意思決定を下し、シーズン突入後は作った商品を売り切ることだけに力を注ぎます。ところが、ZARAの場合は、シーズン突入後が勝負。生産量を必要最低限に抑え、デザイナーの想定を店舗で検証しながら、デマンド・チェーンを3週間単位で回していき、商品を作り足していくのです。こうしてZARAでは、死に筋商品が大量に出ることを回避し、商品の値下げ率についても平均10%と業界標準となる35%の3分の1以下に抑えています。結果、利益もしっかりと確保できているのです」(齊藤氏)