2012年7月、現社長のマーティン・イェッター氏は、地域に根ざした活動を推進する目的で、支社制度を復活。地域を統括する東北・北海道(仙台)、中部(名古屋)、関西(大阪)、西日本(福岡)の4つ支社を誕生させた。支社復活から2年半が経過し、地方におけるIBMの事業はどうなっているのか? 理事で中部支社長の福田弘氏に聞いた。

日本IBM 理事 中部支社長福田弘氏

Q:IBMはなぜ支社制度を復活させたのか?
福田氏:
日本は国土的には狭いですが、地域ごとに特徴があります。中部地区でいえば、製造業が多く、世界的な自動車メーカーがあり、バリューチェーンを形成しています。こういった違いは、その地域に居ないとなかなか捉えることができませんし、受け入れてもらえません。支社長に任命されたときに社長から『支社長がリーダーシップを発揮し、地域のリーダーとの交流も深めてほしいと』いわれました。また、どのようなお客様に、IBMとしてどのような協力ができるのか、IBMのどのソリューションが最適なのか、戦略をよく考えてほしいとも指示されました。12月9日にはリーダーフォーラム中部というイベントを名古屋で開催しましたが、このイベントも今回で5回目で、地域のみなさんに、IBMの本気度がアピールできたと思っています。

Q:過去2年半の中部支社長の実績を自己評価すると何点か?
福田氏:
少し甘いと思われるかもしれませんが、自己評価すれば90点だと思っています。自分では、IBMのわかりにくかった部分をわかりやすくできたという成果はあったと思います。一般的に、大企業は本社の営業が担当し、支社や支店はもう少し規模の小さなお客様を担当するというイメージがあると思いますが、IBMは2年半前、企業規模にかかわらず、その企業の本社のある地域が責任を持って担当することになりました。この2年半で、それがお客様にも浸透しており、信頼されるようになってきたと思います。私はIBMに在籍する26年のうち、22年間を名古屋で過ごして来ましたので、地元との結びつきは社内で一番強いと思っています。

Q:過去2年半で、具体的にどうのような点に注力してきたのか?
福田氏:
私が中部支社長に配属された当時は、海外に進出するお客様が多く、グローバル対応のITや人事、M&Aの部分でお手伝いして来ました。具体的には、ITにおいてはグローバルデータを収集し、経営を見える化する点において、IBMがこれまで蓄積したノウハウを提供し、人事ではその地域に合った人材管理をアドバイスしました。また、M&Aでは、世界のIBMコンサルティングや現地のシンクタンクの情報を活用しながら、M&Aすべき企業を紹介したりしてきました。

Q:今後やっていきたいことは?
福田氏:
この2年半で、ITのテクノロジーも大きく変化し、IBMも「クラウド」「アナリティクス」、「モバイル」、「ソーシャル」、「セキュリティ」(IBMではそれぞれの頭文字をとってCAMSSと呼ぶ)といったテクノロジーに注力しています。そこで、今後はこういった新しいテクノロジーでお客様に貢献することを目指したいと思っています。また、地元企業とタイアップして地産地消を推進し、Watsonといった新しいテクノロジーを使った新たなソリューションを生み出していきたいと思います。

Q:CAMSSで特に注力する分野は?
福田氏:
お客様からはCAMSSのすべてにおいて引き合いが強いですが、中部地区は製造業が多いため、アナリティクスのニーズは高いと思います。これは、単に経営データを見える化するだけでなく、工作機械などのセンサーデータを集めて、故障の防止や品質の維持に貢献できると思います。こういったデータの解析や予測は、原価に直結しますので、引き合いが強い分野です。営業もこれまで同様、企業のIT部門のほか、生産管理や品質管理の部門にもお邪魔してディスカッションを重ねており、営業のやり方も変わりつつあり、大きな成果も出ています。

Q:地方では国内ベンダーも強いが・・・
福田氏:
既存の国内ベンダーさんがやられていた部分の置き換えをやろうとは思っていません。IBMには買収したSoftLayerという素晴らしいインフラがありますので、この良さを生かし、地域のビジネスパートナー様と一緒に新たなビジネスの商流やスキームを作っていくことが我々の大きな役割だと思っています。また、今年の7月、AppleさんとIBMとの提携を発表しましたが、これについても非常に興味を持たれているパートナーやお客様もいらっしゃるので、こういったことを利用した新しい仕組みを作っていきたいと思っています。

Q:IBMはx86サーバ事業を売却したが、これによりお客様との接点が減るのではないか?
福田氏:
過去を思い返せば、パソコンやプリンタもそういう時期があり、営業も危惧していましたが、思ったほど、影響はありませんでした。私の地域では、レノボさんと一緒に営業が動いていますので、心配はしていません。今後もレノボさんとの協業関係を強めていきたいと思っています。

Q:今後、IBMの強みをどう発揮していくのか?
福田氏:
差別化するポイントで大きいのはWatsonだと思います。Watsonはすでに実用化に向け動き出していますが、こういった新しい概念を利用すると、ITの用途が広がり、新しいIBMの世界ができると思います。これまでのコンピュータは、正しい情報を入れて、正しい答えを出すというSystems of Recordの役割でしたが、今は新しい組み合わせによる新たな発見というSystems of Engagementという役割が求められており、この部分で強みを発見するのがWatsonだと思います。