スマートニュースは12月1日、モバイルニュース広告事業「SmartNews Ads」を開始すると発表した。

これまで同社はグリーやミクシィなどから36億円の資金調達などは行ってきていたものの、「売上はほぼ0でやって来た」(スマートニュース共同創業者 鈴木 健氏)という言葉の通り、マネタイズが遅れていた。

広告事業の柱は3点。

  • 「SmartNews Premium Movie Ads」(動画広告)と「SmartNews Standard Ads」(ネイティブ広告)の提供開始

  • ネイティブ広告ネットワーク「SmartNews Ad Network」

  • チャンネルプラス運営メディアに対して収益還元を行う「SmartNews MediaProsper Program」の提供

動画広告とネイティブ広告が軸になるこの広告事業は、「モバイルニュース広告という新しい分野を切り開く」もので、ニュースメディアを含めたエコシステム全体に還元していくビジネスモデルになるという。

動画広告は、ナショナルクライアントなどのブランディングを支援するとともに、「ナショナルブランドが安心して利用できるスマホ広告を作りたい」(スマートニュース 広告事業責任者 川崎 裕一氏)という思いで提供に至った。

スマートニュース共同創業者 鈴木 健氏

スマートニュース 広告事業責任者 川崎 裕一氏

また、同時に提供されるネイティブ広告は、ブランディングと対を成す「パフォーマンス」を狙った広告で、ユーザーの快適なメディア体験を維持しつつも、ユーザー自身がこれまで気付かなかった新たな興味・関心の発見を促進していく。

ネイティブ広告については、ミクシィと共同で開発を行ってきた「SmartNews Ad Network」で広告ネットワークを構築。SmartNewsだけではなく、共同開発したミクシィのSNS「mixi」や、グリー、サイバーエージェント、産経デジタル、ディー・エヌ・エー、毎日新聞社が同ネットワークに参画する。

また、ニュースキュレーションアプリという枠組みでライバルとなるユーザベースの「NewsPicks」もアドネットワークに参画すると発表。SmartNewsのカンファレンスにユーザベース代表取締役の梅田 優祐氏が登壇するという意外な展開に、場内もざわついていた。

梅田氏は「広告の仕組みがスマートフォン時代には1から作らなければならないという思いから、社内で色々検討したが、川崎さんと話していて思想が合致した。現在は社内で独自の広告を展開しているものの、SmartNewsと繋げることで新たな価値が提供できると思う」と話し、新たなアドネットワークに対する期待感を口にした。

最後の媒体に対する収益還元プログラムでは、チャンネルプラスパートナーと呼ばれる専門チャンネルを持つ媒体に対して広告収益の40%を還元する仕組みを公開。これまでにも、記事をキャッシュしてスマートフォンの電波状況が不安定な場所でも快適に記事を閲覧できる「スマートモード」で表示される広告の収益を100%還元してきたが、これに加えた新たな収益還元モデルとなる。

良質な情報を送り届けるというミッション

スマートニュースの共同創業者である鈴木 健氏が繰り返し伝えたメッセージは「良質な情報を必要な人に送り届ける」という同社のミッションだ。

スマートニュースは、コンテンツを提供するメディア無くしては成り立たない存在ということもあるが、メディアやジャーナリストを支援し、収益化を進めることで「ユーザーに対してニュースの多様性と他者への(情報に対する接触)機会を与える」(鈴木氏)ことに繋がるという考えだ。

「スマートフォンは20億人以上が利用しているが、やがて30億人、40億人とユーザーが拡大する。スマートフォンという小さなデバイスで、多くの人間がニュースを読むようになる。だからこそ、デジタルニュースサイトなどにお金が集まってきている」(鈴木氏)

毎日200万人、月間400万人がスマートニュースを利用

日本では、サイト運営者発展途上にあるバイラルメディアだが、米国ではBUZZFEEDやテクノロジー系のre/codeなど、新たなメディアの潮流が生まれつつあり、それらがFacebookのニュースフィードにこぞってコンテンツを流している現状がある。しかし、SNSでは、個人の行動を追跡してパーソナライズされたニュースが多く流れ「自分好みの情報しか読まなくなっている現状がある」(鈴木氏)という。

そこで、ニュースプラットフォームに特化したSmartNewsが必要というのが鈴木氏のシナリオ。実際に、SmartNewsの存在は広まりつつあり、日々のアクティブユーザー数(DAU)が200万人、月間のアクティブユーザー数(MAU)は400万人に達するという。また、DAUをMAUで割ったエンゲージメントレートも50%を超えており、「Facebookと遜色ない数字」(鈴木氏)となっている。

米国にも10月に進出。TechCrunchなどのテクノロジー系主要メディアからも高い評価を受けており、今後はインターナショナル版の提供も予定している。こうした取り組みの先の目標は「社会全体への貢献」と鈴木氏。

「公共性の一端を担うことも含めた頑張っている。例えば先日、30省庁のコンテンツを一覧できる『日本政府チャンネル』を開設した。また、NPO向けに広告枠を無償で提供する『SmartNews Nonprofit Program』も提供する」(鈴木氏)

この取り組みは社会課題の存在を知ってもらいたいという思いから提供する施策で、様々なパートナーの協力のもと、モバイルに最適化されたWebサイトを持たない団体であっても寄付やボランティアを募ることができるように協力パートナーの記事などにランディングできる仕組みを作りあげている。

将来像を多く語ったSmartNewsだが、競合プレイヤーである「Gunosy」もプラットフォーム構想を発表するなどスマートフォン時代のニュースポータルとしての足場が完全に固まっているわけではない。

しかし、LINE NEWSやYahoo!ニュースなど、並み居る強豪を差し置いて利用者が多い現状は、スマートニュースが描く将来に向けて足がかりになることには変わりない。今後の戦いで主導権を握れるかどうかは、広告事業の成否とも密接に関わっていると言えるだろう。