映画『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』がヒットを続けている。8月1日公開の京都大火編は50億円、9月13日公開の伝説の最期編は25億円を超える興行収入を記録し、2012年に公開された前作の30億円を含めると、3部作で100億円突破という大ヒットシリーズとなった。前作から2年を経て製作された今作は、原作でも人気の高かった京都編をベースに、"殺さず"の誓いを立てた緋村剣心(佐藤健)と宿敵・志々雄真実(藤原竜也)との壮絶な闘いが描かれている。

前編と後編の剣心はまるで別人。その変化と成長、そして迫力を伝える上で、重要な役を担っているのが、神木隆之介が演じた瀬田宗次郎だ。前編と後編で1度ずつ剣を交えるのは、この2人だけ。互いに「本気を出していなかった」と語る前編。後編では、自身と役柄、現実と非現実が交錯するような、異空間とも言える圧巻の剣劇を繰り広げている。瀬田宗次郎――その存在が、さらに志々雄真実という悪の化身を色濃く浮かび上がらせている。

配役が発表された時、神木を「ハマり役」と判断した人は少なくなかったはず。しかし、外見だけでなく、彼は内面から微笑の1つに至るまで宗次郎を徹底的に作り上げた。原作との出会いで心を奪われ、前作が公開されて以降は続編を待ちわびていた神木。念願の役を射止めてた結果、「探究心の底がない」という役者にとっては愉悦の瞬間が待っていた。子役から約15年、役者道を歩み続けてきた彼が最も虜になった"瀬田宗次郎"を、語り尽くした。

映画『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』で瀬田宗次郎を演じた神木隆之介 撮影:大塚素久(SYASYA)

――それではまず、瀬田宗次郎に憧れを抱くようになったきっかけを教えてください。

原作とは本屋さんでたまたま出会いました。読み進めていく中で、最初の頃の瀬田は「剣心の味方になるのかな」という印象でしたが、敵か味方か分からないような不思議な魅力をもったカリスマ性のあるキャラクターだと感じました。そして、「縮地はやい!」って驚いて(笑)。そうやってワクワクしながら、一読者として読んでいたのですが、ある日、実写映画の撮影がはじまったと聞いて。その時から、頑張れば宗次郎に近づいて続編に出られるかもしれないと勝手に思い込んでいました(笑)。

『るろうに剣心』は僕らより上の世代が全盛期だと思うのですが、僕の周りではあまり話題に出ることはありませんでした。剣心演じる佐藤健くん。同じ事務所で会う機会も多いので、僕が抱いている思いを受け取ってくれると思って、本人の目の前で縮地を披露したんですけどまさか「ああ…いいじゃん…」って呆れられるとは(笑)。でも、ずっと「瀬田宗次郎が好き」という思いを貫き、今回やらせていただくことになって幸せです。

――「頑張れば宗次郎に近づく」の"頑張る"は、具体的に何を頑張るということなのでしょうか。

自分が勝手に役作りをしていたら、引き寄せられるかもしれないと思って。実際にそうなったので、奇跡です(笑)。初めてといっても過言ではないアクション。半年間ずっと練習をしてきて、やっぱり宗次郎が好きだから、よりハードルを上げて臨みました。しかも、前作から出ている(佐藤)健くんを、今回は新月村で一度倒さなければいけません。剣心以上に強くなければいけない、うまく立ち回らなければいけないということを意識して、追求していきました。健くんを脅かす存在でいたいと思いながら、ひたすら殺陣をやりました。宗次郎が何を経験して今の闘いのスタイルになっていったのか。『伝説の最期編』で描かれる"宗次郎の崩壊"も大切なシーンでした。

あとは、ちょっとした一言でも周囲の人物との関係性が作られるので、一言一言気にしながらしゃべっていました。志々雄さんとのやりとりで、「弁償以外なら何なりと」と答えるシーンがあるのですが、ここは前々から大友監督に言わせてくださいとお願いしていたセリフでした。台本では「はい」と答えるだけ。僕は原作を読んで「弁償以外なら何なりと」という言葉が一番印象的でした。その一言で、十本刀の中でも宗次郎と志々雄はそんなことも言える関係性なんだということが分かります。そうやって一言一言、セリフを考えながら演じていました。

――喜怒哀楽の「楽」以外の感情が欠落している宗次郎。本作では人物背景があまり描かれませんが、演じる上ではどのようなことを心がけたのでしょうか。

笑うべき時に笑うということは、すごく大事にしていました。新月村で戦っている時も、剣心の「何がおかしいんだ」に「おかしくないですよ」と答えますが、無意識な表情で笑うにはどうしたらいいのかというのを考えていました。ずっと笑ってしまうとリアリティがありません。宗次郎のシンボルでもある「笑顔」をあえて制限をし、出すべき時に理由を付けて出していく。そこは今回気をつけたところでした。

――それは原作から導き出した方法でしょうか。それとも監督と話し合っていく中で見えてきたのか。

両方ですね。最初に自分で作っていき、監督とも話し合いました。監督が「時々ふっと笑うけど悲しそうな雰囲気を出せたらいいよね」とおっしゃっていたのですが、いつも笑っているのもおかしいので、あいさつをして振り返る時にカメラに映るか映らないかのところで笑顔を消したり。きっと、リアルはこういうふうになるんだろうなと思い、意識していました。優しい狂気…そういう矛盾を表現できたらいいなと思って演じていました。