日本初のグローバルMBaaSとして、世界数千万人に利用されている「Kii Cloud」。前回は、Kiiの執行役員 技術統括の石塚進氏に、MBaaSの概要についてKii Cloudの機能を交えながら話を聞いた。今回は、実際にどんな企業がKii Cloudを利用しているのか、MBaaSを選択する際の注意点は何かを伺いながら、選定のポイントを紹介してもらった。

ビジネスに追随できるクラウドを選べ

Kii株式会社 執行役員 技術統括
石塚進氏

モバイルアプリ開発を高速化する手段として、MBaaS(Mobile Backend as a Service)の利用が広がっている。プッシュ通知やユーザー管理、データ保存、位置情報といったバックエンドの機能をクラウド経由で利用することで、アプリエンジニアがフロント機能の開発に集中できることが大きなメリットだ。

そんな中でも、2012年からサービスを開始したKii Cloudは、アメリカ、中国、シンガポールのサーバを利用できる日本発のMBaaSとして人気を博している。石塚氏は同社のサービスについて、次のように説明する。

「コミュニティの意見を聞きながら、ニーズに合った機能を提供してきました。モバイル開発に不可欠なサービスを提供するだけでなく、アプリやサービスの成長とともに柔軟に対応できるようにしています」

典型的なのは、クラウドのサーバを簡単に海外サーバに切り替えられるようにしていることだろう。前回も触れたが、日本で開始したサービスを海外に展開しようとすると、サーバが海外にないことで海外ユーザー向けのレスポンスタイムが落ちてしまったりするなど、さまざま課題が発生する。その点、Kii Cloudでは、利用するサーバを柔軟に切り替えることで、ビジネスをスムーズに拡大していくことができるのだ。

Kii Cloudログイン後のデベロッパーポータルTOP画面。各種OSに対応し、複数アプリを一覧で確認できる

新規アプリ作成画面​。日本国内のほか、米国、中国、シンガポールでのサーバーロケーションが選択できる

クラウドサービスの魅力の1つは、いつでもどこでも好きなときに利用できる、ということにある。特に、先の見通しがつきにくいビジネスでは、クラウドを使うことで機敏な対応が可能になる。だが、クラウドサービスがそれに対応できるように作られていなければ、そもそも対応できない。クラウドのせいでビジネスに追随できなくなるということが起こってしまうわけだ。

石塚氏によると、MBaaSでもそういったことは起こりがちだという。では、MBaaSを選択する場合、何が盲点になりやすいのだろうか。

MBaaS選択における4つの盲点とは

MBaaS選択の盲点について、石塚氏は大きく4つのケースをあげる。

1つ目は、「国によるレスポンスタイムの違い」だ。しばしば問題になるのは、先ほどのケースとは逆で、米国に置かれたサーバのレスポンスが悪く、「MBaaSはサービスとして使えない」と判断してしまうケースだ。

「ゲームなどのモバイルアプリでは、ネットワークのレイテンシーをどう少なくするかがカギを握ります。そうしたネットワークのことを考慮せずに、米国のサービスを使い、レスポンスの悪さに『がっかりした』という話を聞きます。国内でサービスを提供する場合は、基本的には国内のサーバを使うべきでしょう」(石塚氏)

アプリ開発に集中するあまり、ネットワークに目が向かないというケースは意外に多い。選択のポイントは、国内にサーバがあり、それが米国サーバを利用するよりも少ないレイテンシーで提供されているかだ。もちろん、国内でリリースしたアプリを海外に展開することを考慮すれば、グローバルサービスであることに越したことはない。

2つ目が、「機能やプラットフォームの幅」だ。最初に作ったアプリがそのままのかたちで成長していくことは稀だ。少しずつ機能を拡張するなかで、それに応じたバックエンド機能を利用できることが望ましい。だが実際には、どう成長するか、そのときに何が必要になるかはわからない。最小限の機能しか提供していないサービスを選択すると、あとあと拡張ができなくなる。最初からできるだけ多くの機能を提供し、さまざまなプラットフォームに対応しているサービスを選択したほうが良いということになる。

3つ目は、「カスタマイズ性」だ。石塚氏によると、いくら豊富な機能を備えていても、MBaaSだけではすべてのニーズを完全に満たすことはできないという。そこで、機能の不足がでてきたときに、足りない機能を自らカスタマイズして開発できるかがポイントになる。Kii Cloudでは、カスタマイズ機能を「サーバ機能拡張」として提供している。これを利用すると、JavaScriptで書かれたコードをKii Cloud上に設置し、アプリや他のサーバ上から実行が可能になる。

4つ目は、「セキュリティ」だ。モバイルアプリ開発では、ユーザー管理やアクセス制限、個人情報管理が重要になるが、アプリ開発に専念するあまり、バックグラウンドでのセキュリティに関心が向かないケースがでてくる。適切なセキュリティ対策を施していないサービスを選択すると、問題になったときにビジネスに大打撃を与えかねない。セキュリティについて、信頼性と実績を持つサービスを選択することは欠かせないのだ。もちろん、そうしたサービスを選択することで、開発者のセキュリティに対する負担を和らげることも可能になる。

Kii Cloudならではの特徴を生かす

では、実際に、Kii Cloudはどんな企業で活用されているのか。ここでは、カップル2人だけのクローズなやり取りができるアプリ「HUGG」「HUGGトーク」と、スマートフォンに鍵付きのフォトギャラリーを作成しプライバシーを保護するアプリ「KeepSafe」を簡単に紹介しよう。

HUGG、HUGGトークは、カップル2人だけでメッセージや写真をやり取りしたり、大切な会話を保存、記念日を管理したりできるコミュニケーションアプリだ。開発を効率化するために、Kii Cloudが提供するほとんどの機能を使っている。たとえば、基本サービスであるチャットについては、前回触れた、データの更新を通知するというプッシュ通知を使って実装。また、データの保存にはデータ管理機能を、ユーザーの管理には電話番号認証を使って実装した。

サーバサイドの機能がフルパッケージで入っており、iOS、Androidに対応しているため、開発がほとんど必要なかったという。

一方のKeepSafeは、写真やメッセージ、ファイルなどの個人データを外部から守るアプリだ。全世界で1,300万ダウンロード、600万の月間アクティブユーザーがいる。同サービスは、Kii Cloudのユーザー管理機能を利用することで、セキュリティを高めているという。

単純なBaaSでは、ユーザーが同じ領域を共有して、アクセス制限などをかけるかたちが多いという。しかし、Kii Cloudのユーザー管理機能では、ストレージをユーザーと紐付けて、独立した場所の中で管理することができる。このため、アプリ開発者が特別に注意を払わなくても、きちんとしたセキュリティが保たれる。KeepSafeでもこの機能を生かし、ユーザーのプライベート領域に個人データを保存し、プライバシーを保護している。

このように、豊富でユニークな機能でモバイル開発者を支援しているKii Cloudだが、最近では、エンタープライズ向けの機能の拡充に力を入れているという。具体的には、ユーザー管理におけるLDAP連携などの社内システムとの連携だ。

「モバイルのユーザー管理が重要になるのにしたがって、企業の中で使いたいという要望を数多くいただくようになりました。Kii Cloudは、プライベートクラウドのようなかたちでの運用も可能です。それらをうまく使いながら、社内システムと連携させていく予定です」と石塚氏は締めくくった。