タイ・バンコクで食品系企業のゼネラルマネージャーとして働くシティパット・コーワタナさん(35歳)にお話を伺いました。小学生時代を日本で過ごしてから早25年。現在はタイで、日本人やタイ人のスタッフと共に日本へ食品を輸出しています。日本とタイを行き来するビジネスマンは、流ちょうな日本語も仕事の武器になっていました。

13歳で日本語検定1級を取得

シティパット・コーワタナさん/タイ・バンコク在住/35歳/食品系企業ゼネラルマネージャー

■これまでのキャリア変遷を教えてください。

新卒後、日系大手商社に就職して、食品部門に配属されました。コーディネーターとして食材および食品包装材などの取り扱いをしていて、5年間の勤務中、2年ほど日本へ駐在員として滞在したこともあります。その後、大手食品製造会社の新規立ち上げに誘われました。仕事は新商品企画や現場指揮および日本向け製品に関するハンドリング全般をしていたので、プレイングマネージャーとしての仕事が多かったですね。

現在は、大手食品製造会社から独立した新規の立ち上げ法人会社で、食品産業向けコンサルティングおよび日本への食材や調理済み食品の輸出などを行っています。大学の専攻が食品化学だったので、ずっと食品と共に歩んできました。タイは日本と違い熱帯雨林気候。降り注ぐ強い日光とたっぷりの水源は農産物を豊かに生み出す恵まれた土壌です。世界中へ食品を輸出する一大食物生産国でもあり、毎年、食品はタイの輸出品目上位5位以内に入るぐらいです。

■現在のお給料は以前のお給料と比べてどうですか?

平社員の時とは比較にならないほど高くなりました。仕事の範囲の広さ、責任の大きさ、すべてが給与に反映されますからね。でも、最初に日系企業に就職した時は、日本語を話せることが能力として給与という形で評価してもらえたんですよ。

現在の給与が上がったのはうれしいことですが、これからもっと会社として成長していくためには、良き人材の採用とより良い成績を上げ、スタッフみんなが十分に満足する給与をもらうだけの働きをしなければいけないと感じます。

■今の仕事で気に入っているところ、満足を感じる瞬間は?

ビジネスも学びの場です。というのも、私は小学校時代を日本で暮らした経験があり、日本の生活を非常に気に入っていました。タイに戻ってからも日本語を忘れないよう一生懸命に勉強して、13歳で日本語検定1級を取得し、さらに日本語書籍を図書館で読みまくって勉強しました。大学時代は翻訳のアルバイトなども経験しています。

今も日本人との会話、日系企業とのやり取りばかりですが、仕事内容や取り扱うものが新しくなる度に、また新しい日本語が覚えられる。新しい日本人と接する。また一つ勉強になる。これが仕事としての大きな満足感ですね。

■逆に今の仕事で大変なこと、嫌な点は?

あまりないですね。できることはすべて自分の最善を尽くしています。それでも課題として残ることは当然ありますが、全く最初からのやり直しではなく、盲点だったところの見直し、どこでねじれたかの再点検、といった再度考慮するということが多いです。これはさらなる発展のためのワンステップと捉えています。今後のためにも必要なことなので嫌な事ではないですね。

■ちなみに、今日のお昼ごはんは?

近所の日本食レストランにて。和食は毎日食べても飽きないし、大好きです。

本日のランチセット「串カツ定食」200バーツ(約650円)

いつもは仕事仲間や取引先など、仕事の話をしながらの食事になることが多いですね。バンコク市内なら、取引先が日本人でもタイ人でも和食になる場合がほとんど。工場地帯だとタイ料理ばかりになります。おかずを数品注文して、各自ご飯ののったお皿に取り分ける方式が多いです。タイ料理は日本人の口に合うようで、皆さん『おいしいね』と我先におかわりしていますね。辛さを気にする人も多いので、辛くないものを注文するようにしています。

■日本人のイメージは? あるいは、理解し難いところなどありますか?

子供の頃の日本滞在を始め、現在も1カ月に1度ほどのペースで日本へ出張に行きます。日本との付き合いも25年となりますが、それでもまだ訪問する度に『やっぱり日本はすごい!』と感嘆します。

時間やスケジュール進捗管理、といった締め切りの概念が非常に正確ですね。食品業はどのフィールドにしろ、ある意味自然の成り行き次第というところがあります。予定通りにならないと何が理由でもおしかりを受けてしまうのが日本であり日本人だなあ、と思います。

例えば、そら豆をある農場で育てていて、収穫時期になったらヤギに食べられた。ソフトシェルクラブを使ったメニューを提案したら、カニが脱皮しなくてソフトシェルクラブにならなかった。など、今思うと笑っちゃうような『仕方ないよね』と思うのがタイですが、日本ではそれは通じない。その時は、大慌てで条件の合う生産者を見つけて何とかしました。そういうバタバタの中でも、対策がきちんとできるのも日本人。畑に柵を立てたり、脱皮しない数を見込んで若いカニを投入したりしておく。失敗は必ず教訓として次の対策に生かすことも日本人に感心するポイントです。

■最近TVやラジオ、新聞などで見た・聞いた日本のニュースは何ですか?

日本もタイも、国民の政治的な目覚めが非常にクローズアップされていますね。これによって日本のタイへの投資を始めとするさまざまな関心も高まっています。日本にできて、タイにできないこと、その逆もまたたくさんあります。政治の動きが双方にとってより良い関係づくりに生かせるといいな、と思いながら日本のニュースを見ています。あと、タイ国籍者に対する短期訪日ビザ免除はうれしいニュースでした。早速、7月の連休に家族と北海道へ行ってきます。

■休みのとりかたは?

基本、土日は休みです。しかし、プロジェクトによっては曜日に関係なく対応しなければいけないこともあります。休みではなくても日々家族ケアのために時間を調整しています。以前に比べて時間の自由がきくので、そこは大きな利点ですね。

子供を幼稚園に送ったり、休日は家族と共に過ごしたり、自分が家族の一員として共に生活していることに幸せを感じます。ささやかですが、それをおろそかにすれば大きな枠組みが壊れてしまう、ということを肝に銘じています。

■将来の仕事や生活の展望は?

働くということは、お金を稼ぐ場だけでなく、個々の能力や傾向を十分に発揮して、その人にしか成し得ない唯一のものを作り上げていく場にすること。本人の資質を見いだして活用することは大いなる冒険の第一歩でもあると思います。また、最初は与えられた業務であってもその人にあって独自の発展を遂げその経験が別の事に応用できること。経験とそこから得た知恵がさらなる磨きを掛ける、これは仕事による自己開発の1つといえるでしょう。それぞれ鋭敏な個性をどんどん発揮してもらえる環境にしたいです。

やはり大切なのは家族。そして私に協力をしてくれる周りの人たちです。これからの働き方や仕事への取り組み方としての最終目標は、家族や関係する人たち、そして自分自身も満足させて幸せにできること。まだまだ長い道のりですが、頑張っていきたいと思います。