流体解析ソフトで無回転シュートの原理を解き明かす!
さあさあさあ! いよいよ4年に一度のお祭り、W杯の時期がやってきた!
僕が注目するのはやっぱり日本のエース・本田圭佑である。2010年の南アフリカ大会で本田が見せた「無回転シュート」は今でも語り草だ。ゴール手前の不規則な変化は、テレビで見ていてもはっきりわかるほどすごかった。
それでふと思ったのだけど、あの無回転シュートって、原理はどうなっているのだろうか。「無回転」というからには、ボールが回転せずに飛んでいくってことなのだろうけど、回転させないことでなぜあんな予測不可能な変化が生まれるのか、そこがわからない。
そんなことを打ち合わせで話していたら、担当編集から「それじゃあ検証をお願いしてみますか?」という案が。
検証って?
何でも、科学技術計算専門のソフトウェア開発を行っている株式会社ソフトウェアクレイドルさんなら、こうした現象の解析ができるのではないかというのだ。えー!それはぜひお願いしたい!
ということで、今回は特別に、ソフトウェアクレイドルさんの流体解析ソフト(SCRYU/Tetra)を使用して解析をお願いしてみた。流体解析とは流体の運動や熱の移動現象をコンピュータを用いた数値計算によって明らかにできるものである。そしていただいた解析結果がこちらだ。ちなみに学術的にはもっと高度な計算方法もあるのだが、今回は計算時間の制約もあり、「回転と無回転で空気の流れがどう違うか」というポイントに絞って解析していただいた。
まずは普通に蹴ったとき、つまりボールが前回転している場合。
サッカーボールのまわりに何やら渦巻きが見えるが、これは空気の渦である。この空気の渦により、ボールには圧力がかかるのだが、回転しているボールの場合、上下で圧力の大きさが異なるのだ。
なぜかというと、ボールの上側は風に逆らう形で回転しているのに対し、下側は逆に風と同じ方向に回転しているからだ。このため、ボールの上は圧力が高く、ボールの下は圧力が低い状態となる。で、物体は圧力の高い方から低い方へと移動する性質を持つため、ボールは下へとカーブを描いて落ちていく。この現象を専門用語でマグナス効果と呼び、船や風力発電など生活の様々な場面にも応用されているという。
ところが、無回転シュートの場合は、回転していないため上下の圧力差が生じにくい。すると下に落ちようとする変化は少なくなるのだが、代わりにボールが周囲の気流の影響を受けやすくなる。気流の流れは一定ではないため、ボールにはランダムな影響が発生し、これが無回転シュートの不規則な変化につながるというわけ。なお、解析結果では一つの断面だけで見ているが、実際にはボールの周囲のあらゆる箇所で同じ現象が起きている。このため、ボールの一方向だけでなく縦にも横にも不規則な動きが生まれ、さらに軌道が予測しにくくなるのである。