インターネットの利用拡大やスマートデバイスの普及により、顧客の行動を起点とした膨大なデータが生成され、蓄積されていく。では、このビッグデータをどうすれば効果的な施策につなげていけるのか。2014年4月24日に開催されたマイナビニュース主催セミナー「勝つためのビッグデータ~経営の武器となる現実的なデータ活用とは~」の基調講演には、自らを「マルチビッグデータカンパニー」と称するYahoo! JAPANが登場、そのテーマの最前線で実践しているライブテストによる改善、独自のデータ管理プラットフォームを活用した顧客セグメンテーションなどの取り組みについて実例を交えながら解説した。

データからバリューを創出するために実践すべき取り組み

ヤフー株式会社 システム統括本部 データソリューション本部 マーケットソリューション部 部長 村田 剛 氏

現在、日本国内のインターネット利用者のうち、ブラウザのホームページをYahoo! JAPANに設定している人は2人に1人以上とも言われる。検索、ショッピング、ウォレット、知恵袋、オークションなど、さまざまなサービスを持ち、月間では580億ページビューに上る。こうした利用による大量かつ多様なデータを保有するヤフーは、自らを「マルチビッグデータカンパニー」と定義している。

ただ、こうしたデータも単に保有しているだけではコストにしかならない。基調講演に登壇したヤフーの村田剛氏は、スムーズなビッグデータ活用を推進していくために求められるアプローチを、次のように示唆する。

「ビッグデータ活用で成功するためには、巻き込める範囲の小規模でスタートし結果を示しながら進めていく事が、意外と定着させていくことの近道だったりします」

では、どうやってその中から結果となる“目に見えるバリュー”を創出していくのか。実践すべきは、「(現状で)出来ていることを洗練させる」ならびに「(現状では)出来ないことを出来るようにする」ことを目標とした取り組みだ。

「出来ていることを洗練させる」ライブテストによる改善

まず、「出来ていることを洗練させる」ためにヤフーが行っているのが「ライブテストによる改善」で、次の3つのポイントがある。

第1は体制だ。「ヤフー社内には、トップページ、ニュース、知恵袋など、さまざまなサービスを運営している事業部門と、これを横串で貫く形でデータスペシャリスト組織のデータソリューション本部があります。両者からメンバーを出し合い、ミニプロジェクトを何本も走らせています」と村田氏は現在の取り組みを紹介。「各プロジェクトの適正な規模は4~5名程度。あまり大所帯になると動きが鈍くなってしまいます」という。

第2は環境で、村田氏は「結果がわかる(ロギング&可視化)」「容易に出しわけの設定ができる」「本番反映への決定権が現場に委譲されている」といった条件を示す。

第3がサイクルで、各プロジェクトのPDCAサイクルを素早く何度も回していく。

こうした徹底的なライブテストの例として、村田氏はYahoo! JAPANの検索窓を縦22ピクセルから縦28ピクセルに拡大した試みを紹介した。枠のサイズをたった6ピクセル大きくしたところで何も変わるはずはないと考えるのが一般的な感覚だろう。ところが、実際にこのテストを実施してみたところ、検索回数が増え、年間5億円以上の売上向上に結びつくことが明らかになったのである。

「ちょっとした操作感の違いが、ユーザーの行動に変化をもたらします」と村田氏。同様にテストすべき項目は、モジュールの場所、広告のポジション、色、文字の行間、リンクの数、リンクの順番、ボタンの大きさ、文字の大きさ、アイコンなど、Webサイトのあらゆる要素に及んでいく。例えば、ページビューをKPIに設定し、半年後にその数値を1.5倍にするという目標を立てたなら、それを可能とする変更点はどこにあるのか、多様な構成要素についてPDCAサイクルを繰り返し、明らかにしていくのである。

独自のデータ管理プラットフォームを活用し顧客を知り、施策を連動させる

そして、「出来ないことを出来るようにする」ためにヤフーが注力しているのが、「DMP(Data Management Platform)」と呼ばれるデータ基盤の活用である。

村田氏によると、DMPには「データを集める(自社データと外部データを収集、統合)」「分析する(柔軟で詳細なセグメンテーション&結果のフィードバック)」「活用する(複数のチャネルから選択し、最適なコミュニケーションを実現)」の3つの機能がある。これにより、「顧客を知る」とともに「施策を連動させる」ことを実現する。

まず、顧客を知るために最も重要なポイントは、潜在顧客から見込み顧客、新規顧客、リピート顧客、優良顧客に推移していくパーチェスファネルをどこまで詳細に作り込めるかにある。村田氏は「各セグメントにおける顧客の行動を明確にイメージできれば、どういうコミュニケーションをとるべきか自ずと見えてきます」と強調する。

例に挙げたのは、一眼レフカメラを購入する顧客に見られる次のような行動パターンだ。 潜在顧客は、子供が生まれることになると、妊娠や姓名判断などのキーワードで検索を始める。見込み顧客は、デジタルカメラ、一眼、デジタルビデオなどのキーワードで検索を始める。そして、実際に一眼レフカメラを購入して新規顧客となる。写真の取り方を検索したりして上手くなろうとしている人は、レンズを追加で購入してリピート顧客となる。調べる内容がさらにマニアックになってくると、2台目を購入して優良顧客となる。

セールスプロモーションの最大のチャンスは、潜在顧客から見込み顧客に移ろうとする、まさにその瞬間にある。さまざまな情報に対する飢餓感が高まっており、実際にヤフーの広告配信では、コンバージョン率を劇的に高めることができた。「各セグメントをしっかりと把握することで、顧客の『動き始め』を確実にとらえ、効果的な施策をタイムリーに展開することが可能となります」と村田氏は語る。

また、そのプロセスで忘れてはならないのは、常に時系列で顧客のセグメンテーションを考えることだ。「ある顧客が過去にどんな施策の対象となり、どんな変化を起こしたのか、あるいは変わらなかったのかという履歴を蓄積し、次に生かさなければなりません」と村田氏は説く。

マーケティングやセールスプロモーションにおけるさまざまな施策を通じて、自社のノウハウや知見を蓄積することはもちろん大切だが、それだけでは十分とは言えない。今後はそれに加えて、「顧客の体験」を蓄積しながらPDCAサイクルを回していくことが、本当の意味で競争優位性の獲得につながっていくのである。

最後に村田氏は、「一歩先の未来から、数歩先の未来を予測することを目指しています」と、今後に向けたヤフーのビジョンを示し、基調講演を締めくくった。